第6話 ライク・ア・天津甘栗

 先日思わぬことで死にかけて、毎日通院している。

 治療に邪魔なため、長い髪を切った。

 特に伸ばしていたわけではないのだが、感染症に弱い体質なので、美容室に行くのをためらっていたのだ。


 大きな病院へ転院する可能性も捨てきれないし、治療が長引けば、またしばらくは美容室に行けないだろう。

 そこで、うんと短く、ベリーショートにすることにした。


 初めて訪れた美容室だったが、感じがよかった。

 接客もよかったし、オーダー通りに切ってくれたと思う。


 闘病中であるという事情を説明し、美容師さんだけでなく、わたしもマスクをつけてカットしてもらった。

(世のなかには、紐がついていないマスクもあるのだと知った)


 客の顔を見ないなかでのカットは難しかっただろう。

 おそらく、担当してくれた美容師さんは、わたしの顔をキリッとしている顔だとイメージしていたのではないかと思う。

 思ったよりも短くなり、ボーイッシュな雰囲気になった。

(それはそれで、よし。わたしは髪の毛が伸びるのがめちゃくちゃ早いのだ)


 マスクのなかに切った髪の毛が入ったため、素顔をさらした瞬間があった。

 すると美容師さんが、「あれ、思ったのとちゃうな?」という表情をした。


 わたしは目元がキリッとしているが、他のパーツが曖昧で、全体的に見るとぼやっとしている。童顔で、そこはかとなく甘い顔立ちなのだ。

 美容師さんは、軌道修正を図ろうとした。


 髪の毛は切ってしまった、カバーできない。なので、ヘアセットでごまかしたかったのだろう。

 美容師さんは猛烈な勢いで、わたしの前髪をまあるくまあるくブローしはじめた。


 わたしの髪の毛は柔らかく、くせがあるため、膨らみやすい。

 職人技術とたゆまぬ努力によって、どこまでも膨らんでいく前髪。

 ぼわっぼわのもっこもこ。よく膨らむものだと感心した。


「いや……前髪は膨らませなくていいんだけど」


 と思いつつ、美容師さんの必死な様子に、水を差してはいけない気がした。

 ちょっとぐらいイメージが違ってもいいじゃないか。髪の毛がなんだ。

 つい数日前まで、わたしは死にかけていたのだから。


 結局、わたしの髪型は天津甘栗のようになった。

(※こんもりしているところが、前髪)

 中性的な雰囲気に仕上げてほしかったのだが、甘栗になるとは……

 秋だから、季節的にぴったりだ。


 次回も同じ美容室に行くつもりである。

 次は前髪も切ろうと思っている。どんなふうに仕上げてくれるのか、楽しみにしている。


 

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