第1話 でっかいスイートポテトが食べたい(2024年10月4日)

 秋だ。ふと、でっかいスイートポテトが食べたいと思った。

 でっかいスイートポテトに顔をうずめて、がつがつ貪ってみたい。


 ネットで検索したところ、簡単なレシピを見つけた。ははぁ。バニラアイスクリームを使うのか。

 このレシピを考えたひとは頭がいいなぁ。どうやって思いついたのだろう。

 PCやスマホでちょちょっと検索するだけで、いろんなレシピが出てくるのだから助かる。 

 インターネットって便利だなぁ。


 でも、動画のレシピって覚えにくいな。

 情報がささっと流れてしまって、頭に入らない。それとも、脳の老化か。

 結局、スマホでスクリーンショットして、レシピを手書きした。


 一連の流れが、どうも年寄りじみている。

 特に、インターネットの恩恵にありがたみを感じているあたりが。

 

 困ったことがいくつかあった。

 我が家には調理器具が多めにあるはずなのだが(母が料理好きなのと、わたしが大昔に一人暮らしをしていたので)、あれもこれも足りないのである。


 し器(※持ち手がついたざるみたいなやつ)がどうしても見つからない。わたしの記憶が確かならば、二つくらいあったはずだ。

 小さいものでもないのに、発見できない。


「お母さん、濾し器がないわ。知らない?」

「あるよ」

「それ、違うやつ」


 母ががさがさと探して、『濾し器だと思われるもの』を持ってきてくれるのだが、ことごとく間違っている。

 粉ふるいだったり、茶漉しだったり、味噌をとくやつだったり……

 しまいには、「漉し器ってなん?」と言い出す。やっぱりね。

 母はどうも、漉し器の使い道がわからなかったようだ。だって、濾し器でうどんを水にさらしたり、きゅうりの水気を切っていたもの。

 どんな使い方をしていてもかまわないが、漉し器がないのは困る。スイートポテト作りに必要なのだ。


 おまけに、シリコンヘラまで見つからない。四本はあったはずなのに。

 漉し器にヘラ、どこにやったんや。


 家が広いわけでも、ごみ屋敷でもない。こじんまりとした住空間で、綺麗好きの母が整理整頓してくれているのに、どこを探しても見つからない。

 母は、「消えた」と言う。あまつさえ、「盗まれたのでは?」と。

 そんなわけないやろ。物が勝手に消えるわけがない。(※そんな怪奇現象が起きたら、それはホラーだ)

 使い古した調理器具を盗む泥棒もいない。きっと、母がどこかにしまいこんだのだ。それか、捨ててしまったか。

 なんだか、木の実を森のなかに隠して忘れちゃうリスみたいだな、と思った。

 だが、母を責めても喧嘩になるだけなので、「漉し器とシリコンヘラは亜空間に吸い込まれた」という結論を出した。


 粉ふるいで漉そうと試みたが、途中で心が折れ、「芋なんて漉しませんけど、なにか?」と開き直った。

 漉してんだか、漉してないんだかわからんスイートポテトは、思ったよりも出来上がりサイズが小さかった。

 味はそこそこおいしかった。

 でっかいスイートポテトへの道のりは遠い。


 ケーキの型数点、泡立て器も消息不明。どうやら、我が家の亜空間は、調理器具を吸い込むのがお好きなようである。

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