霧の中
痾孤度 為輝
知らない場所
「ここはどこだ?」
俺は気がつくと知らない場所に立っていた。
ここがどこで、いつから立ち続けていたのか、皆目見当もつかない。
どうやら霧の中にでもいるようだ。
霧の中では時々、ナニカが俺の前を横切っていく。
複数いるナニカは大小様々で、皆同じような動きをしている。
「一体ここはどこなんだ」
なんだか体が重い。
思うように動かない。
深い霧の中で暫くさまよい、俺はなんとか座れそうな段差を見つけ、そこへ腰掛けた。
少し落ち着き、よく目を凝らして気がついた。俺の前を何度も横切っていたナニカは思っていたより多くの種類がおり、この深い霧の中で自由に動き回っているようだ。
もっとよく目を凝らしてみた。
そのナニカは、どうやら人間であるらしい。
俺以外にも、沢山の人間がこの場所には居るようだ。
しかし、何かおかしい。
俺以外の人間は、なぜそんなにも自由に動き回っているのか。
まるで、俺だけが霧の中にいるようではないか。
なにか特殊な民族の村にでもいるのかもしれない。少なくとも、俺とは世界の見え方が違うのだろう。
俺がなぜここに居るのか、いつから立っていたのか、ここがどこなのか、いくら考えても思い出せない。
目の前をいくら人が横切ろうとも、自分と違う民族であろう人々に話しかける勇気は出なかった。
誰が俺をここに連れてきたのだろう。
あれからどれだけ時間が経っただろう。俺はいつの間にか考えることをやめていた。
霧は晴れていないようだ。
ふと前方に目をやると、深い霧の中から、一人の人間がこちらに近づいてきた。
俺は一体どうなるのだろう。
話しかけてきたその人間は声が小さく、うまく声を拾うことが出来ない。
そもそも、俺が知っている言語を話しているのかさえも怪しい。
しかし、どうやらこちらの様子に気づいて、ゆっくりと大きな声で話し始めたようだ。
「おじいちゃん、一緒にお家に帰ろう?」
おじいちゃん、、?
俺は困惑する。
だって俺には妻はいても子供はいない。
当然、俺をおじいちゃんと呼ぶような孫もいないはずだ。
「あなたは誰ですか?」
そう言ったつもりだった。
「あんたは誰じゃね」
俺の耳にはそう聞こえた。
震えてかすれた声だ。
俺は喋ることすら思うようにいかないのか。
ため息が出そうになる。
この女は言っていることはめちゃくちゃでも、私のことを助けようとしているのだろうということは伝わる。
訳の分からないことを言う女だが、他に頼る人もいない。今はこの女に助けを求めるしかない。
俺は女に手を引かれ、ゆっくりと知らない道を歩いた。
「お母さん、ただいま〜」
「おかえり。おじいちゃん、居た?」
「うん、また商店街の近くで座ってたよ」
「やっぱり、そろそろ施設で見てもらった方がいいのかしらねえ」
「最近酷くなってるよね、認知症。今日は私のことも忘れてたみたい。
ちょっと寂しいけど、これ以上酷くなる前に、ちゃんと面倒見てもらえるところ探した方がいいのかもね。わたしも、来年には家出るし。お母さん達だけじゃ、探しに行くのも大変でしょ?」
「そうよねえ、、私のことも、いつまで覚えててくれるか。お父さん帰ってきたら、みんなで一緒に調べようか」
「うん。じゃあ、私おじいちゃんにお水飲ませてくるね」
「ありがとう。もう少ししたらご飯できるから、お水飲んで少し休憩したら、おじいちゃん連れてきてあげて」
「はーい」
霧の中 痾孤度 為輝 @akodonaruki
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