第25話 捨て身の王女サマ

「よっと。到着」

「うおああっ!?」


 俺は、ワイマール王都の入場門の前に転移してきたのだが、それを見た警備兵が驚いて大声を出した。


「あ、驚かせた? 悪いな」

「え? あ、お、お前は……」

「悪いついでなんだけどさ、国防の偉い人呼んできてくんね?」

「え? あ、え?」


 ちっ、なんだよコイツ。


 狼狽えるばっかりで使えねえな。


 誰か別の人間を探すかと思っていると、こちらに向かってくる人影が見えた。


「これは一体なんの騒ぎだ!?」


 あ、アイツは見たことあるぞ。


 この前、ここで話した奴だ。


「よ。久し振り」


 俺が片手をあげて挨拶すると、その男はメチャメチャ驚いた顔になった。


「ケ、ケンタ=マヤ!?」

「おう。アンタでいいや。ちょっと国防の偉い人呼んできてくんね?」

「ま、また面倒ごとか?」

「面倒ごとっちゃ面倒ごとだな」


 俺はそう言って、握っているロープに視線を向けた。


 すると男も誘導されるように視線を向けていき「うっ」と言って口を抑えた。


「コレ、アンタんとこの兵士だろ?」

「うぷ……え?」


 遺体を見て吐いていた男が、俺の言葉を聞いて恐る恐る遺体に目を向けた。


「……確かに、この鎧は我が国の制式装備ですが……まさか……」


 はぁ、やっぱりな。


 俺を疑いやがるか。


「お前の目は節穴か? 他の遺体も見てみろ」

「他? あ、こ、これは!?」

「アドモスの鎧で間違いねえか?」


 俺がそう聞くと、男はコクコクと頷いた。


「アドモスの兵士が、お前らのとこの警備兵を殺して森に侵入してきやがった。コイツ、その証人な」


 俺はそう言って、ロープで縛った唯一のアドモス兵の生き残りを男の前に放り出した。


「アドモスの兵士がウチの兵を手に掛けた!? だ、大問題ではないですか!」

「だから、国防の偉い人を呼んで来いって言ってんの」

「わ、分かりました。おい! 誰か! 王城にこのことを報告してこい!!」


 男がそう言うと兵士が一人、馬に乗って王城に向かって行った。


 それを視線で追っていると、男が俺に向かって頭を下げた。


「なに?」

「しょ、証拠もなしに貴方を疑ってしまい、申し訳ありませんでした」

「あっそ。分かってんならいいや」


 こんなことで一々目くじら立ててたら疲れるからな。


 素直に謝ってきたんなら、それで終わりでいい。


 そうして待つこと数分。


 見覚えのある光景が目に入った。


 王家の紋章を付けた馬車が、猛スピードでこちらに向かって来たのだ。


「なんか見たことあんな。また王女サマが飛び出してくんじゃねえの?」

「ど、どうでしょう……」


 そんなことを男と話していると、馬車が止まり、扉が勢いよく開け放たれ、中から王女サマが飛び出してきた。


 ここまで、前回と全く同じである。


「デジャビュ」

「は、はは」


 王女サマはこちらに走ってくると、ここから前回とは違う動きを見せた。


「も、申し訳ございませんでしたあっ!!」


 俺の目の前でスライディング土下座を決めて見せたのだ。


「……それは、なんに対しての謝罪だ?」

「そ、それは……」

「約束を守らなかったことか?」

「!?」


 俺の言葉にメチャメチャ驚いて顔を上げる王女サマ。


 その顔は真っ青だ。


「まあ、舐めた真似してくれたよな? お陰で、俺が労力を割かないといけないことになっちまった」


 妹王女サマが軟禁されてた塔の破壊の件な。


 それに思い当たったのだろう、王女サマがガクガクと震え出した。


「正直、王城丸々吹き飛ばしてやろうとも思ったんだけどな? 高々約束を破られたくらいでそこまでキレるのもなと思ってな。当事者を俺の手で始末するだけで勘弁してやった」

「か、寛大なご慈悲に、感謝いたします……」

「おう。そんでよ、今日はそれとは別件なんだわ」

「さ、左様ですか」


 俺は王女サマの前に、縛って転がしているアドモス兵を放り投げた。


「ぐえっ!」


 猿轡もしているからうめき声しか聞こえてこないけど、着ている鎧はアドモスの制式装備らしい。


 王族としてその辺りは把握していたのか、王女サマもアドモスの兵士を見て眉を顰めた。


「アドモスの兵士が、なぜここに?」

「そいつら、森の入口にアンタらが配置した警備兵をぶっ殺して森に侵入してきやがった」

「なっ!?」


 そこでようやく王女サマは自国の兵士の遺体があることに気付いた。


「な、なんということをっ!!」

「アドモスの兵士が、ワイマール国内でワイマール兵を惨殺する。これって、大問題だよなあ?」

「と、当然です!」

「なら、アドモスには、ワイマールとして、厳しく対処してくれるよなあ?」

「……え?」


 俺の言葉に、王女サマはまたしても顔を青褪めさせた。


「あれ? 自分の国の兵士が他国の兵士に殺されたのに、国はなにもしないのか? やれやれ、冷たい国だねえ」

「あ、いや、そんなことはありません!」

「それにな」

「!」

「そいつら、俺の知り合いを人質に取って森に侵入してきたんだよ。正直、メチャメチャ頭に来てる。もしお前らが対処しねえなら、俺がアドモスに攻め込むから」

「わ、分かりました! 我々が対処しますので! ですからどうか! どうか御身は心静かにお過ごしくださいませ!!」

「そう? じゃあ、後始末頼むわ」

「は、はい!!」

「もし今度、約束を違えたらそのときは……分かってるよな?」

「は、ははーっ!!」


 王女サマはそう言って、再び深々と土下座した。


 その姿を見た俺は、遺体と証人をその場に置いて、自宅に転移で帰った。


 それにしても……。


 あの王女サマ、俺のこと王様だとでも勘違いしてねえか?


 御身とか心静かとか、大袈裟過ぎだろ。


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