第24話 身体能力高=脳筋、じゃないはず……なんだけどな
俺のことを嗅ぎまわっていた奴らは、俺じゃなくてアイバーンとベネットさんを標的にしやがった。
正直アイバーンは自力でなんとかしろよと思ったが、ベネットさんは別だ。
アイバーンが住んでいるアパートの大家で助産師。
戦闘能力は皆無の初老の女性。
そんな人を人質に取るとは……。
非常に不愉快な思いを抱いたが、一応奴らの会話を聞いてみる。
この状況で、万が一にも誤解なんてことはないだろうけど、一応な。
俺は気配を断ちながら集音の魔法を起動した。
『本当にこの道で合っているんだろうな?』
『……ああ。間違いない。それより、ちゃんと案内したらベネットさんを解放してくれるんだろうな?』
『それはお前の働き次第だな』
『……』
ああ、これは真っ黒だ。
それに、アイバーンが約束を守っても、相手側は約束を守る気がない。
ああいう言い方をするってことは、アイバーンの働きが悪かったって言って、アイバーンもベネットさんも消されるパターンだな。
結論。
アイツらはド屑だ。
なら、遠慮はいらない。
「アイバーン君! 私のことはいいから! 貴方一人で逃げなさい! 貴方一人ならなんとかできるでしょう!?」
「うるせえぞババア! 死にてぺっ!?」
「……え?」
ベネットさんが、自分を捕まえている人間が変な言葉を言ったのでそちらに首を回して……。
「ひっ! ひゃああっ!!」
顔の上半分が無くなっていたことに驚き、凄い悲鳴をあげた。
「おっとすみません。グロイものを見せちゃいましたね」
俺はすぐにベネットさんの下に行き、ベネットさんを救出してその場を離れた。
「え? え? あ、ケンタ君!?」
「どうも」
「どうもって……あれ、ケンタ君がヤったの?」
ベネットさんが、先程のグロ死体を見ながらそう言った。
「そうですよ。まあ、人の頭を吹き飛ばすくらいの魔法なら、そんなに威力も必要ないんで、精密射撃ができるんですよ」
「そ、そうなの……」
そんな会話をしていると、ようやく襲撃されたことに気付いた兵士たちが騒ぎ始めた。
「なっ!? 敵襲!?」
「おらっ、アイバーン!! 人質はもういねえぞ! さっさとそこから抜け出せ!!」
「!! 分かった!!」
アイバーンはそう言うと、自分に剣を突き付けていた人間から剣を奪い取り、そのまま斬り伏せた。
この状況に混乱し、事態を把握できていなかった兵士たちは簡単に斬り捨てられ、アイバーンも俺の側にやってきた。
「スマン、ケンタ! まさか、俺やお前じゃなくてベネットさんを狙われるとは思いもしなかった!」
「それは俺も一緒だな。すみませんベネットさん。恐い思いをさせてしまって」
「あ、ああ。別に構わないさ。アンタと関わり合いを持つと決めた以上、こういうことも覚悟していたからね」
「それでも、すみませんでした」
覚悟しているとはいえ、巻き込んでいいって話じゃないからな。
俺がベネットさんに謝っていると、空気を読めない奴が大声をあげた。
「き、貴様らあっ! こんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」
こんなこと?
「人質なんていう卑劣極まりない手段を取る輩から人質を救出しただけだが? なにか問題でも?」
俺が簡潔に今の状況を教えてあげると、ベネットさんとアイバーンが「ぶふっ」と噴き出し、兵士っぽい見た目の輩は真っ赤になった。
「き、貴様!! 栄えあるアドモス軍人である我々を愚弄するかっ!?」
「へぇ、お前、アドモスの人間なのか」
こいつら、やっぱり能力が筋肉に寄ってるわ。
自分から身柄暴露しやがった。
ちなみに、アドモスはワイマールとリンドアの両方と国境が隣接している国。
「そうだ! 我らはアドモス軍所属の正規兵! その我らに歯向かったということは、アドモスと敵対することになるぞ! いいのか!?」
「いいぞ」
「……は?」
なんか、脅し文句のように国と事を構えるのか? と聞いてきたので、ちゃんと返事をしてやったのだが、なぜかアドモスの兵士はポカンと口を開けた。
「なに呆けてるんだよ? 元々アドモスと友好関係なんかないんだから、敵対しようがどうしようが関係ないだろ」
そもそも前提が間違ってんだよな。
そこを指摘してやると、アドモス兵士たちはプルプルと震え出した。
「キ……キサマアッ!!」
さすが卑怯者の兵士たち。
俺一人に対して残った全員でかかってきやがった。
襲い掛かってきたのは五人。
身体能力の高さを前面に出した近接戦闘をしかけてきたんだけど……。
「ほれ」
『ぬわあっ!』
ちょっと強めの風の魔法で押し返してやると、魔法との対戦は慣れていないのか簡単に吹き飛んだ。
「アイバーン、ちょっと剣借りるぞ」
「え? いや、俺のじゃねえけど……」
アイバーンが持っている剣を借りて、吹き飛んだアドモス兵に切りかかる。
魔法で体制を崩している人間なんて、ただの的と同じ。
召喚されたあと、徹底的に仕込まれた剣技と身体強化の魔法も併用して一太刀で二人を斬り捨て、返す刀でも二人斬り捨てた。
一閃ごとに二人切られていく様を見せられた残りの一人は、それを見て戦意を喪失したのか座り込んでいて、剣を眼前に突き付けると失禁した。
「た、たすけ……」
「おう、喜べ。お前は生かしておいてやる」
「!?」
命乞いをしてきた兵士に命は助けてやると言ってやると、滅茶苦茶嬉しそうな顔になった。
馬鹿だな、コイツ。
自分がなんで生かされるのかも知らないで。
「これから、お前をワイマールの王都に連れてくから」
「!?」
あはは、さっきまで嬉しそうな顔してたのに、今度は絶望した顔になったな。
「お前らがワイマールの兵を殺したことを報告する。放っとくと俺のせいにされかねないからな」
「そ、そんなことをしたら、国際問題に……」
「もうその大問題をお前らは起こしてんだよ。なんで分かんねえの?」
「……」
コイツ、目を逸らしやがった。
やっぱ、俺のせいにするつもりだったな。
まあ、分かってたからコイツ連れて行くんだけどね。
「という訳で、コイツと周りの死体と警備兵の死体連れて王都行ってくるわ。アイバーンはベネットさん連れて家行っといて」
「あ、おう」
さて、メイリーンに念話で連絡して、またワイマール王都に行きますかね。
ということで、アドモスの兵士とワイマールの警備兵の死体と、アドモス兵唯一の生き残りをロープで縛ってワイマール王都に転移した。
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