第12話 謝罪と賠償、決裂したら戦争
俺は、目の前で膝を付き、必死に「違うのっ! 話を聞いて!」と俺に懇願してくる姉王女サマを冷ややかな視線で見下していた。
なんで、こんな浮気がバレた妻か彼女みたいな言い訳してるんだろうな? と思いながら。
「違うって、なにが?」
俺が訊ねると、姉王女サマは手に取った手配書を憎々し気にクシャッと握りつぶしながら答えた。
「これは、功を焦った妹が勝手に弄した策なのです! 王家は全く関知しておりません!!」
「はあ? 王家が関知してない? じゃあ、この王家発行の印はなんだよ?」
「そ、それは……妹は王女ですから……王族から強制されれば逆らえるはずもなく……」
「へえ、つまり、お前んとこの王家が腐ってるって認めるわけだ」
「だからそれは違いますっ!! 私も父も、あなた様を味方に引き入れるのは諦めました!! ただ、妹は私が失敗した任務に成功すれば、自分が次の女王になれる可能性があると勘違いをして……」
「ふーん」
まあ、王家としてはそう言い訳するしかないわな。
今回の一件は妹王女サマの暴走で、王家は一切関知してないと。
「なあ」
「は、はい!」
「……そんな言い訳が通るとでも思ってる?」
俺がそう言うと、姉王女サマは顔を歪ませた。
「さっきからさあ、王族は関係ないって言いながら、妹王女サマは王族だから逆らえなかったって、自分で言ってんじゃん」
「……あ」
「話が矛盾してるって分かってる? ガッツリ王族関わってんじゃん」
「そ、それは……」
「責任逃れしたいのがバレバレ。そもそも、なんで妹王女サマじゃなくてアンタが来てんの?」
「……」
「どうせ、本人が来るより別の人間が来た方が怒りが収まるとか考えたんじゃねえの?」
まあ、その点については成功してるかもな。
実際、実行犯の妹王女サマが目の前にいたら、こんな話はしないで問答無用で殺しそうだもの。
「い、いえ、そうではなくて……その……」
「その、なに?」
俺は姉王女サマが話し出すのを待ってやった。
しかし、姉王女サマは中々話を切り出さない。
「はぁ……もういいわ」
「え?」
「王族は関係ないって話が却下されたから、今必死に言い訳考えてんだろ?」
「そ、そんなことは!」
「じゃあ、なに考えてんだよ?」
「そ、それは……その、どうすればマヤ様が納得してくれるのかと……」
「あれ? 言わなかったっけ?」
「え、は、はい。まだ、マヤ様からは売られた喧嘩を買いに来たとしか……」
姉王女サマが到着するなり跪いて縋ってくるもんだから、最初に言うべきことを忘れてたわ。
「あー、そうだったか。じゃあ、とりあえず言うわ。お前ら王家が発行した手配書のせいで、俺たちはとても迷惑を被った。謝罪と賠償を要求する」
俺がそう言うと、姉王女サマはスッと立ち上がり、両手をお腹の前で揃えて深々と頭を下げた。
さっき俺に話しかけてきた役人っぽい人がメチャメチャ驚いてる。
まあ、王族は頭を下げちゃいけないって言われてるらしいからな。
前の世界のラノベ情報だけど。
「この度は、我が妹のしでかした不始末により、マヤ様に多大なご迷惑をお掛けしました。王家を代表してお詫び申し上げます。大変、申し訳ございませんでした」
そう言って頭を下げたままにする姉王女サマ。
「ふーん。まあ、分かった。謝罪は受けよう」
俺がそう言うと、姉王女サマはあからさまにホッとした顔をしながら顔をあげた。
「で、次は賠償の話な」
「は、はい。いくらでも仰って下さい。言い値で賠償金を支払います」
姉王女サマはそう言うけど、そうじゃないんだよな。
「金なんていらねえよ」
「え?」
「あんな場所に住んでる俺に金が必要だとでも思ってる? 使い道がねえわ」
「で、では、どうすれば……」
はぁ、そんなことも分かんねえのかよ。
「そりゃあ当然、当事者の処分と、手配書の即刻取り消しと、違反者への厳罰の徹底した周知だな」
「わ、分かりました。必ず……実行致します」
「あ、言っとくけど、嘘は吐くなよ? もし確認しに来て嘘吐いてたことが分かったら、今度こそ……」
俺はそこで言葉を切ると、姉王女サマに近付いた。
「問答無用で王都吹き飛ばすからな」
俺がそう姉王女サマの耳元でささやくと、姉王女サマは真っ青な顔になってコクコクと頷いた。
それを見た俺は、姉王女サマはきっと必死になって妹王女サマを糾弾するだろうなと確信した。
なんせ、次期女王の座を狙ってたらしいし。
合法的? に妹王女サマを蹴落とす口実ができたわけだから。
「あ、そうだ。忘れてたわ」
姉王女サマの言質も取ったし、帰ろうかと思ったところで一つ忘れていたことを思い出した。
俺は、放置していたニギマールを担いで姉王女サマの前に放り出した。
あと、ついでに撥ねた他二人の賞金稼ぎの首も。
「ひぃっ!! な、なんですか、これは!?」
「この手配書を持って俺んとこに来た賞金稼ぎ」
それを聞いた姉王女サマは、真っ青だった顔からさらに血の気が引いて青白くなっていた。
「こっちはもう実害出てるんでな。早くした方がいいぞ? もし次、こういう輩が現れたら、俺は王家が約束を違えたと解釈するからな」
「今すぐこの手配書の撤回と、この手配書に従ったものは厳罰に処すことを周知してきなさい!! 今すぐにですっ!!」
『は、ははっ!!』
俺の言葉を聞いた姉王女サマは、すぐさま周りにいた兵士や役人に指令を出した。
周りの人間たちも俺と姉王女サマの話を聞いていたので、その行動は迅速だった。
「じゃあ、俺は帰るわ。じゃあな」
手配書についてすぐに行動を起こしたところを見届けた俺は、まず一つ魔法を使ったあと、姉王女サマの目の前で転移魔法を起動し、その場をあとにした。
ちなみに、妹王女サマの直接謝罪を要求しなかったのは、どうせなんやかんやと言い訳を並べ立てるだけだろうし、そんな不快なモノ聞きたくなかったから。
そして、姉王女サマの目の前で転移魔法を使ったのは、いつでもお前たちの前に現れるぞ、という意味を込めてのこと。
散々ビビり散らかせばいいさ。
さて、それじゃあ、俺の要求を誠意を持って実行するのか、確認させてもらおうかな。
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