第14話 早速正体がバレたし、なんか美人メイドの従者が出来たんだけど…?

「…前例がないのに転生なんてありえない物を信じると?」


『私の鼻がおかしくなっていないのであれば…ですが、確信しております!でなければただの人間如きに私は興味を示しませんので!!』


 既に目の前の黒狼…セルスさんは俺が転生したことを確信しているらしい。今もめっちゃ尻尾振ってるもん……千切れて飛んでいきそうだな…。


「…分かったよ、答えるよ…。そうだな、俺は元勇者のシドウ・ユウジで間違いないよ。つい数週間前にこの身体に転生したみたいなんだよな」


『やはりそうでしたか!形は違いますが…やっとお会い出来ましたね!!主人様!』


「主人?いつから俺はセルス…さんの主人になったんだ?」


『敬称など不要です!それに私は助けて頂いたあの時から、貴方様を絶対の主人と勝手に決めておりましたので…』


 質問に答えるとセルスは俺の身体に頭を擦り付け、尻尾をブンブンと振りながらまるでずっと会いたかったと言わんばかりに体で表現している。


 しっかし流れ上仕方なかったとはいえ、まさか俺が元勇者だってバレるとはな…。早すぎるだろ畜生っ!!


『そうでした主人様、主人様の今のお名前を教えて頂けませんか?』


「あぁそういえば名乗ってなかったな、今の名前はゼルンって言うんだ。家名は無いぞ?平民だからな。よろしくなセルス」


『ゼルン様…ですね、よろしくお願いいたします。では主人様?私の右足を掴んで頂けませんか?』


「…?こうか?」


 言われた通りゆっくりと【隷属の腕輪】がついている方の前足を優しく掴む。

 怪我なんかは息切れがしない程度に治ってきているとはいえ、まだ骨が折れていたりするかもしれないしな。


『えぇ、では失礼します…。我が名に誓いこの者ゼルンを生涯の主人とし、絶対の忠誠を誓う……【契約コントラクト】』


「ちょっ…!?セルス!?それは腕輪の――――――」


 俺が言葉を言い切る前にセルスは勝手に【隷属の腕輪】に込められている契約魔法を発動させると、腕輪から眩しい光が放たれ…あたりを包み込む。


 あまりの眩しさに目を閉じていると、俺が触れていたセルスの腕の感触がもふもふとしたものからすべすべとした感触に変わった気がした。


「もう目を開けて頂いても大丈夫ですよ主人様、契約は無事に済んだようですので」


 聞きなれない声が俺の近くから聞こえ、ゆっくりと目を開くと―――そこには何故かメイド服に身を包んでいる女性がいた。


 まず目に入ってきたのはメイド服のスカートの部分。メイド服なのに機動力を重視しているのかスカートは短く、スカートの後ろからは大きな尻尾が出ており、フリフリと左右に揺れている。そして脚はとても長くてまさにモデル体系。


 その脚を薄っすらと覆っているデニールの多過ぎない黒のタイツには、何かの道具を収納するホルダーがついている。


 そして視線を上げると、メイド服を押し上げんばかりに主張している大きな胸に、キュッと締まっているウエスト…脚の長さも相まって女神も裸足で逃げ出しそうなスタイルだ。


 また少し視線を上げると目に入ってくる綺麗で長い黒髪には、白のメッシュが所々に入っており、顔の右半分はその黒髪に隠されている。

 そして頭にはもふもふの獣の耳とメイドカチューシャが目立つ…。



「………誰?」


「私でございます主人様、主人様に二度も命を助けて頂いた…黒狼のセルスでございます。これからは主人様の従者として、全身全霊を込めてお側に仕えさせて頂きます」


 俺の目の前で立っていたメイドは忠誠を誓う騎士のように座り込み、こちらに微笑んでいるこの美人なメイドはセルスと名乗った。


「セルス………なのか?さっきの黒狼の…」


「はい♪」


 先ほどはこのメイドの顔についてコメントしなかったが…決して悪いわけではなく、むしろレイラ達のような美人を毎日見ていた俺さえ手放しで美しいと言える容姿をしている。


 髪色とは正反対の雪のように白い肌、クールで大人びた顔立ちに切れ長で涼しげな印象を受ける黄金の瞳…。笑みを浮かべた際に見えるチラリと覗く八重歯(犬歯)はギャップがあり、一見すると”近寄り難い美人”って雰囲気だが、セルスの性格上…普段は見せないような笑顔を浮かべたときの破壊力は凄まじいの一言だ。


「それが…セルスの獣人形態なのか?というかお前!さっきそれで俺と契約を…!」


「その通りでございます主人様、主人様と半ば強制的ではございましたが…隷属の腕輪で発動した契約魔法の効果で傷も完治いたしましたので、本来の姿でご挨拶が叶いました。この契約の証である腕輪も、主人様との契約の証ですね…」


【隷属の腕輪】このアイテムに限らず、相手を奴隷にするアイテムは最大で奴隷化した存在の傷や病を完治させる効果を持っている。


 勿論制約はあり、奴隷契約の期間の長さによって効果が変わる。


 例えば一週間程度の奴隷契約ならば、捻挫や打ち身などが治るくらいで終わってしまうし、逆にさっきのセルスのように生涯奴隷契約となると、どんな重症や不治の病でもたちまち治って健康体になれるが、何度も奴隷契約を重ねると治癒の効果が薄くなる性質があるようだ。


 なので手頃な回復アイテムとして扱うには色々と複雑で、トラブルや混乱を呼ぶことから多くの国では奴隷アイテムの使用を固く禁止している。


 そして奴隷期間が過ぎると、勝手に奴隷契約は解消されるという仕組みになっている。


 しかし原則として奴隷は一度契約してしまうと途中で破棄することは難しい。

 出来ないというわけではないものの、高位の神官のみが扱える解呪の魔法を使いながら、主人と奴隷両者の同意が必要となる。


 救済措置もあり、奴隷契約期間を間違って奴隷契約をしてしまった場合など、一時間以内であれば双方の同意があると解呪の魔法は不要で契約破棄が出来る。




 だが世の中には戦争で捕獲された捕虜奴隷、脅迫や暴力などで奴隷側を追い詰めて強制的に奴隷にも数多く存在する。

 そんな奴らが馬鹿正直に奴隷解放の同意をするはずもなく、あくまでこれが出来るのは一部の国が認可している表の奴隷の話だ。


 ならば裏の奴隷達は解放されるためにはどうするか…それは奴隷が自身の主人を殺してから同じ手順を踏むことだ。


 しかしながら奴隷にされたものが自身の主人を攻撃しようとすると、全身に強烈な痛みが襲い…常人ならば一瞬で気絶してしまう。

 こういう事もあって、違法な裏奴隷にされてしまうと解放されることはほぼないと言っていいのだ。


 さて何の話だったっけか…?あぁそうだ!セルスが勝手に俺と生涯奴隷契約を結んだことだ!!!


「馬鹿なこと言ってないで解除するぞ!一時間以内なら解呪の魔法なしで契約破棄できるから!」


「破棄は致しません。私はこの身を貴方様に捧げるため、故郷を出て主人様を探していたのです!一度は隙を突かれ、忌まわしい人間の奴隷商に捕縛されてこの腕輪をつけられましたが…今ではこうして念願の主人様の従者となれたのです。……それとも私のような従者は必要ありませんでしょうか…。それならば………破棄致しますが」


「従者としてセルスをいらない訳じゃない、だが…これは違法アイテムだ。表の奴隷と違って命令の強制力は段違い…もし俺が『今すぐ自害しろ』なんて命令したら逆らえないんだぞ?」


 それに奴隷を連れてたら俺の周りで面倒ごとが絶対起きる!!!それはできれば回避したい!!!!!


「それでも構いません!私は二度も命を救われた貴方様の為に生きたいのです」


 俺と目線を合わせたセルスの黄金の瞳は、俺の面倒臭いという意見以上の強い意志を孕んでおり、これ以上何かいうのも野暮だと感じるほどの何かを感じた。


「……わかった、とりあえずはそれでいい。もし破棄したくなったら応じるから、いまはそれでいいな?」


「そのような事はありませんが…感謝いたします主人様。これから末長くよろしくお願い致しますね?」


 あぁ…さよなら、俺の平和な生活の時間…その1ピースくん……………。











「因みに私は一通りの家事や学問、戦闘技術などは身につけておりますので、主人様の生活は支えて差し上げられると自負しておりますが…―――「よし採用、これからよろしくなセルス」


 こうして俺の正体を見破った、超が付く美人メイドが従者となりましたとさ。めでたくないけど!!!

 

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