五話



 校門の前に到着するのと当時に、始業の開始を告げるベルが鳴った。途中でコンビニに寄り、朝食と昼食をじっくりと選ばなければ、滑り込みで間に合っただろう。


 天牙達はコッソリと侵入しようとしたが、校門の裏に待機していたハゲマッチョの先生に声をかけられた。


 天牙は軽い注意で済んだ。中高一貫のエスカレーター校に外部入学してきた新入生なこともあり、先生からの対応も優しかった。


 イルドは中学の頃から遅刻が常連だったらしく、生活指導のハゲマッチョな先生に連れていかれた。


「天牙くん、先に行ってて! あとで追いつくから~……」


 天牙は担任の爺教師に案内され、校舎へと入っていく。廊下を歩きながら、学校についての話を聞く。


 天牙とイルドが通う学校は、校則がかなり緩い。髪を染めてもメイクをしても咎められず、自由にバイトをしても問題ないらしい。


 だが、それにも限度があるらしく、やりすぎるとイルドのように生徒用ブラックリストに記載されるらしい。


 そのような情報を聞いた天牙。彼はイルドとは学校で関わらないように決めた。


 職員室に到着し、爺教師から教室の場所を聞くと、学校に関する書類を受け取り、職員室を後にする。


 天牙は廊下を歩きながら、書類の中にあるパンフレットから、学校の構造を頭に入れる。


 □の形をした四階建ての校舎。一階は職員室や校長室があり、二階から順に、三年生、二年生、一年生となっている。


 隣接する体育館はアリーナサイズで、地下には吹奏楽部の練習施設がある。

 中等部の校舎は少し離れた場所にあり、体育館は共有しているようだ。 


 天牙は階段を上り、四階へと移動する。


「俺のクラスは確か……」


 天牙は在籍するクラスを見つけ、扉の前に移動する。

 緊張を押し殺し、平穏を装って、勢いよく扉を開ける。


 そこには誰もいなかった。


 机の上や横には鞄があるので、登校しているのは間違いない。天牙は教室の部屋に貼ってある時間割を確認する。一限は、別の教室で講義をしているようだ。


 天牙は自席を探して見つけると、荷物を置く。教室の扉が開いた。

 イルドがグラサンをかけて仁王立ちしながら現れた。


「天牙くん、これからも学校で一緒だ。よろしく頼むぞ!」

「学校生活くらい平穏に過ごしたいんだけど……?」

「だったら問題ない! 私は学年主席で運動神経抜群の文武両道な美少女なんだ。文句の一つもないでしょ?」

「いや、文句しかねぇよ」


 イルドはグラサンを外し、教室に入り、扉を閉めた。

 イルドは天牙の横の席に座ると、椅子を天牙の方に向ける。足を組みながら、頬に手の甲を添えると、肘を机の上に置く。


 まるで、王座に腰かける女帝のような姿だ。


「先に言っておくが、授業中でも休み時間でも、怪人がいたらそっちが優先だからね」

「……分かってる。だけど、どれくらいの頻度なんだ? もし、一日に何十回も怪人がいたら、ヤベえんだけど?」

「え~と、月に一、二回くらいかな? この連日が稀だっただけで、近くに怪人がいるのは珍しいんだ。怪人の噂を聞いて、退治しに行くこともあるけど、基本的には気配を感じた怪人を倒せばいいからさ」


 俺が思っていたよりも、魔法少女は働かないようだ。主に襲ってくる怪人を対処するだけらしいし、少しだけ協力する意欲が出てきた。


「さあ、二四時間三六五日、過ごそうじゃないか‼」

「だが、断る。学校生活くらいは俺の自由にさせてくれ」


 イルドを崇拝する者達もいるらしいので、出来る限り俺は穏便に過ごしたい。


「天牙くんは断れる立場だっけ?」

「イルドちゃん、そろそろコイツ○さない? 魔法杖をギュッと握り絞れば、イチコロだって」


 天牙とイルドとイヴがしばらく言い合っていると、一限が終わるチャイムが鳴った。だが、それに気づかず、三人の話し合いがヒートアップしていく。


 数分経ち、教室の扉が開いた。イヴはイルドの谷間に戻り、天牙とイルドは扉に視線を向ける。


 数人の生徒達が教科書片手に、雑談をしながら教室に入ってきた。生徒達は天牙とイルドを視界に捉えると、息を潜めるように黙った。


 生徒達の内、眼鏡をかけた三つ編みの女子生徒が、オドオドしながら話しかけてくる。


「イ、イルドちゃん、お、おはよう……」


 イルドは会釈をすると、天牙の方に視線を向ける。


「それで、さっきの話だけど――」


 イルドは一瞬、閃いたような表情を浮かべ、言葉を止める。

 悪戯っぽくニヤリと笑い、教室に響くような声で告げた。


「昨日は激しかったよね、天牙くんっ♡」


 扉の前にいた生徒達が騒ぎ出した。


「今朝も、(怪人退治のために)天牙くんの太くて長いアレを握ったけど、色々と凄かったぁ~♡」


 授業が終わって教室に戻ってきた生徒達にも騒ぎが伝染していき、あっという間に天牙とイルドは囲まれた。


 生徒達は天牙とイルドから一定の距離をとりながら、動物園の動物を観察するように、ひそひそと話をしている。


 天牙は表情を崩さず、額に青筋を浮かべながら、穏やかに言った。


「イルド……じゃなくて、イルドさん?」

「いつもみたいに呼び捨てじゃないの?」

「激しいとか凄かったとか、誤解を招くような言い方は止めよう……ね?」

「でも、天牙くんのチ○チ○を握ったのは事実じゃんっ」

「……」


 天牙は無言で天井を見上げた。

 否定しない天牙を見て、肯定だと認識した周りの生徒達。


 教室が揺れ動くほどの大絶叫が響き渡った。

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