第6話 音痴

「はーい、そんじゃ今日はこれで終わりますか。チャンネル登録と高評価、コメントよろしくお願いします。次の配信は何しようかな……。また決まり次第お知らせするね。じゃあな」


 ふぅー、今日の配信も楽しかったな。「実は……」から始まった今日の配信で、ルカくんが歌の練習をしていることを知った。本人曰く、普段からあまり歌う機会がなかったが、周りのVTuverが歌動画や歌枠をしているのに影響を受け、いつか歌枠を開いてみたいと思っていたそうだ。そこで、歌ってほしい曲をリスナーに募集し、それを練習してお披露目すると約束してくれた。数十曲候補に上がり、その中からルカくんが選んで練習するらしい。凄いな。


「──ぁぁ、──ぇ」


 おっと、今日もきましたか。


 予想だと、ルカくんは今から候補曲の練習をするんじゃないかな。もしそうだったら、ルカくんの歌声を聴けるってこと……!?


「んー、曲数多いな。どれにしよう」


 お、まずは選曲からか。確かに、今日は配信に来たリスナーが結構多かったもんね。


「んーと、とりあえずこれにするか」


──ルカくん歌ってくれるの!?


──楽しみ!


──イケボだから歌うまそうだけどな


 今いるリスナーも期待のコメントを連投している。ドキドキ。


「〜〜〜♪」


 お、歌い始めたぞ。これは結構有名な曲だな。


「〜〜〜♪〜〜〜♪」


 …………。


「〜〜〜♪〜〜〜♪」


 …………。


「〜〜〜♪〜〜〜♪」


 …………。


「〜〜〜♪トゥルルトゥトゥ」


 間奏に入ったな。


「〜〜〜♪〜〜〜♪」


 …………。


「〜〜〜♪〜〜〜♪」


 ラスサビだ。


「〜〜〜♪〜〜〜♪」


 …………。


「〜〜〜♪〜〜〜♪ ──よし、いい感じ」


 いやめちゃくそ音痴じゃねえか!!!!!


 おっと申し訳ない。つい良くない言葉が出てしまった。


 でも、これは突っ込まざるを得なかった。あまりにも音痴すぎる。イケボのこんな歌声初めて聴いた。


──!?!?


──想像と違った…


──えーっと、練習頑張れw


──え、ルカくん…?


 困惑したコメントが流れていく。それもそうだ。あんなイケボからこんな酷い歌声が生み出されるなんて。


「ふぅー、やっぱ歌うの楽しいんだな。リスナーのみんなにも聴いてもらいたいし、もっと練習頑張るか」


 満足げな声が聞こえてくる。どうやら、本人は音痴の自覚がないようだ。


 音痴すぎてびっくりしたのもある。しかし、それ以上に思うことがあった。


 ……音痴なイケボ配信者って結構可愛いな。


 これが真のギャップ萌えってやつなのか? え、私だけ?


──イケボの無駄遣いすぎるww


──ルカくん音痴なの可愛いw


──こっからうまくなるって信じてる!


──いやーギャップだわ


──イケボなのに音痴なの一周回っていいw


 リスナーの中にも共感者がいたようで何より。


「フンフン〜フンフン〜」


 鼻歌まで歌い出して……可愛いやつめ。


「フンフン〜……ん?」


 急に鼻歌が止んだ。


「え……また切り忘れてる……」


 おっと、今日は気づいた時のテンションがいつもと違うな。


「……めっちゃ音痴って言われてるんだけど。え、俺の歌そんなにおかしかった!?」


──うまいか下手かで言ったら超下手w


──声は良かったよ声はw


──頑張って練習してるルカくん可愛かった♡


「えええええマジか!……俺調子乗っていい感じとか言っちゃったじゃん」


 大丈夫、そんなあなたの存在が尊い。


「あああ忘れて! 歌枠するまでに上手くなっとくから! じゃあな!」


 こうして、ルカくんの初リサイタルが幕を閉じた。




 後日。ルカくんのSNSにて歌枠の日時が発表された。その日までに練習を頑張るらしい。あそこからどれだけうまくなるのか楽しみすぎる。


 めちゃくちゃ音痴だけど努力家の彼が尊いから今日も推すしかない。

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