第2話 朝ご飯

 そして、大和もそんな幼馴染の顔をボーとした表情で見つめていると。


「……えっと大和くん、そんな風にじっと見つめるなんて、もしかして私の顔に何か付いていますか?」


 優衣がそんな事を聞いて来たので、


「あっ、いや別に何も付いて無いぞ、ただ、優衣は相変らず可愛いなとそう思っていただけだ」


 寝起きで頭が回っていなかった事もあり、大和は特に深く考えずそんな事を言ったのだが。


 その言葉を聞いた優衣は頬を赤く染めると。


「……もう、急に何を言っているのですか、朝ご飯を準備しているので早く着替えて降りて来て下さい」


 少し早口でそう言うと、優衣は大和から背を背けてそのまま部屋を出て行った。


 そして、そんな優衣の姿を見届けた大和は、


「……やってしまった」


 誰も居なくなった部屋で一人そう呟いた。


 大和は初めて優衣に会った時からずっと彼女の事が好きで、今では10年以上幼馴染として優衣と過ごして来たので、彼女との仲はとても良いのだが。


 優衣とは幼馴染として過ごして来た時間が長すぎて、大和は優衣から自分に向けられている好意が幼馴染としての好意か、それとも異性としての好意なのか分からなくなっていて。


 今日までずっと大和は優衣の事が好きだったが、仲の良い幼馴染という今の関係が壊れるのが怖くて、大和は今までずっと優衣に告白が出来ないでいたのだった。




  その後、一旦気持ちを落ち着かせた大和は着替えを済ませてから1階に降りてリビングへと入ると。


「あっ、大和くん、今更ですが勝手に台所を使って朝ご飯の準備をしたのですが良いですよね?」


 台所からリビングに大和の朝食を持って来ながら優衣がそんな事を聞いて来たので。


「ああ、毎度の事だから今更そんな事は気にしなくていいぞ……なあ優衣」


「何ですか? 大和くん」


 優衣がそう聞き返して来たので、大和は少し考えた後。


「その悪いな、折角の休日なのにわざわざこんな事をして貰って」


 大和がそんな事を言うと。


「もう、大和くんこそそんな事は気にしなくても良いですよ、これは私が好きでやっている事ですから、でも、もし大和くんが私に感謝してくれているのでしたら」


 そう言って、優衣は一度言葉を切ってから。


「今日は私の事を命一杯甘やかして下さい、それが私にとって一番嬉しい事ですから」


 優衣は可愛らしい笑顔を浮かべてそんな事を言ったので。


「そんな事で良いのなら幾らでも叶えてやるよ」


 ぶっきら棒な口調で大和はそう言っから箸を持ち、ご飯を口に運ぶと。


「ふふっ、ありがとうございます、そんな優しい大和くんの事が私は好きですよ」


「ごほっつ!?」


 唐突にそんな事を言われて大和はその場で咽てしまい、慌てて手元にあるコップを手に取ってからお茶を飲み。


「……ふう」


 その場で一息つくと。


「えっと、大和くん、大丈夫ですか?」


 心配そうな表情を浮かべて優衣がそんな事を聞いて来たので。


「ああ、大丈夫だ……なあ優衣、急にあんな事を言うのは止めてくれ」


 大和はそう言ったが。


「えっと、あんな事というのは一体何ですか?」


 首を傾げながら優衣はそう聞いて来たので、そんな仕草もいちいち可愛いなと大和は内心思いつつも。


「だから、えっとそれは……お前が俺を好きだって事だ」


 少し声が小さくなりながらも大和がそう言うと。


「もう、別に良いじゃないですか、私が大和くんの事を大好きなのは事実なのですから、それとも大和くんは私に好かれたら迷惑ですか?」


 少し不安そうな表情を浮かべて優衣はそんな事を聞いて来たので、大和は優衣から視線を逸らすと。


「迷惑だと思っていたら家の合鍵なんて渡さないよ、これでも俺は優衣が来てくれるのをいつも楽しみに待っているからな」


 大和は正直な気持ちを優衣に伝えると。


「えっ、あっ、そうですか……えっと、実は私も大和くんの家に行くのをいつも楽しみにしていますから、私たちは両思いですね!!」


 優衣は照れ臭さと嬉しさの混ざった笑みを浮かべながらそんな事を言ったので。


「……ああ、そうだな」


 そう言って、大和は顔を優衣から思いっきり逸らしたのだが。


(いちいち勘違いしそうになる事を言うのは止めてくれ、勢い余って告白しそうになるだろ)


 口には出さず大和は内心そんな事を思っていたのだった。

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