12.敬語
起きて一階に降りるとヴァイトは既にご飯を食べ終わっており、机の上にはアルの食事が並べられていた。
「すまん少し寝過ぎた。何か手伝えることはあるか?」
「おはよう。あんだけ色々訓練したんだ早く起きた方だよ。俺はこのまま狩りに行くが、アルはどうする?」
ヴァイトが忙しなく出掛ける準備をしながら尋ねてくる
「昨日に引き続き探魔の修行をやるつもりだ」
「了解、修行は念の為訓練場でやってくれ不要に村内で魔術を使ってるとレオンあたりがうるさいからな」
「分かった」
「それじゃあ行ってくる、狩りが終わったら顔出すからそれまでに精々へばらない様に頑張れよ」
最後についもの様に憎たらしい笑顔をこちらに向けて家を出ていく。
用意してもらったご飯を食べ終えると、すぐに昨日借りた本を片手に訓練場に向かった。
訓練場に着き、寝る前に気になった所を読み直し頭の中を整理した後、坐禅を組み瞑想を始める。
体力と魔力が回復したこともあり昨日より深い集中に入ることができた。
探魔は素潜りの様なものだ。
息を止め得体の知れない暗い思想の海を魔力の発生源を探し求め一人潜っていく。光も当たらず音も匂いもない中を溺れる恐怖を振り払いながら深く潜っていく。
しかし、速くそして深く潜ろうと踠けは踠くほど息苦しくなり進めなくなっていく。
「ハァハァ…ハァ」
昨日よりは深く潜ることが出来たが昨日と同じく魔力の源を拝む事なく現実に急浮上してしまう。
「クソ!ハァハァ…」
地面に寝転び天井を仰ぎながら吐いた言葉は訓練場内を一人でにこだまする。
休憩がてらヴァイトが狩ってきた魔獣の肉を乾燥させて作った干し肉をかじり本を読み込んむ。
その後何度か探魔を試みるもさっきよりも深くは潜ることが出来ないまま時間だけが過ぎ去り、気がつくと魔獣が入っているであろう麻袋を担いだヴァイトが入り口に立っていた。
「よう、探魔の調子はどうだ?」
家を出た時と同じ様な笑みを浮かべながら尋ねてくる。
「今日もダメだった」
「ワハハハ!そう落ち込むな、早い奴でも二週間はかかるんだ焦らずやってけ」
修行を切り上げ一緒に帰路に着くが昨日借りた本を読み終わってしまった為再び図書館に寄ることにした。
二手に別れ、幻想的な本の森に辿り着く。
彼女は昨日と同じくそこに佇んでいた。
「こんにちは、今日もいらしてくださったのですね」
昨日と同じ微笑みが向けられる。
一時は初めての図書館の雰囲気に呑まれ過度に彼女を神格化してしまったかと思ったが、再び会うと昨日得た印象は何ら誇張されたものではなかった事を認識させられる。
「こんにちは、昨日借りた本を読み終えてしまって…返すついでにまた新しい本を探しにきたんです」
「もう読み終えてしまったんですか?読書はお好きなんですね」
少し驚いた後、僅かに語尾のトーンが上がり、心なしか目を輝かせながら尋ねてくる。
「昔は苦手だったんですけど、ちょっと前まで家に一人でいることが多くてそこで本の魅力に気付いてから好きになりました。ルルさんもお好きなんですか?って聞くまでもないですよね」
「いえ私は好きではなく、大好きです」
「それは失礼いたしました」
彼女のお茶目な回答に二人して笑い合い、2人の周りが少し暖かくなった気がした。
魔術の本が置かれている場所は教えてもらったが、昨日に引き続きルルさんに案内され本棚の前に来る。
「魔術の本で何かオススメとかってあったりしますか?」
「そうですね……私が習っていた頃はこの本とか見てました」
下の方に置いてあった薄めの本を取り出して渡してくれる。
「そしたらまたこれ借りていきますね」
「是非読んでみてください」
本を借りるため入り口に向かう途中気になっていた事を思い出し尋ねてみる。
「ルルさんっていつ頃魔術を習われたんですか?」
「12歳の頃なので2年前ですね」
「そうなんですね。と言うか年上だったんですね」
「アルさんはおいくつですか?」
「13歳です。何か失礼な言葉遣いとかしてませんでした?」
ルルさんは口元を隠し、目を伏せながら上品に笑う
「失礼なことは全くありませんでしたよ。寧ろ丁寧過ぎると思ってたぐらいです。それでもしアルさんがよろしければもう少し砕けた口調で話してくれると嬉しいです」
「そしたらこんな感じでどうかな?」
「その方がずっと話しやすくていいです!」
「分かった。それならルルも敬語はやめてくれると嬉しい」
「はい。わかった……?」
その後はお互い敬語を使わない事を意識し過ぎて逆に不自然になってしまった言葉遣いに笑い合いながら談笑し、図書館を出る頃には少しは上手く喋れる様になっていた。
「それじゃあまた明日」
「はい、また明日」
新しく借りた本を片手に家に帰ると昨日と同じくヴァイトが食事の準備をしてくれていて、二人で食べ、昨日と同じ様に本を読みながら寝落ちした。
起きたら修行をして、その後図書館に行き、帰って二人でご飯を食べる日々が新しい日課となり三週間程時が過ぎた。
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