11.少女との出会い
ヴァイトと別れた後、教えてもらった道を進むとすぐに図書館が目に入ってきた。
図書館は高さ5m程の広大な空間に本棚が綺麗に整列しており、壁につけられた灯火の様な暖かな光を放つ魔道具しか光源がない空間は初めてルヴァン村を見た時とはまた違った幻想的な雰囲気を有しており、まるで本の森に迷い込んだ気分にさせた。
図書館の雰囲気を楽しみつつお目当ての本を探す為本棚の間をゆっくり進むが、数多くの本が整然と並ぶ中では探す事は容易ではなくなかなか見つけられない。
―こんなに充実してるとは思わなかったな―
そんな思いにふける中、突き当たりを右に曲がると本を読む為に幾つかの机と椅子が置かれており、そこに一人の少女が座っていた。
少女は暗めの髪を腰まで携ており、一見黒色に思える髪色も後ろから照らさせる灯りによって唯の黒色ではなく暗めの美しい銀色であることが伺える。
顔は少し吊り目な美人で妖艶な雰囲気を持ちながら年齢はアルと同じぐらいの様に見えた。
彼女が放つ雰囲気と図書館の雰囲気が混ざり合い協調し、本を眺めている彼女は映画のワンシーンの様な美しさを放ち、アルの心を奪っていった。
眺めていた時間は僅か数秒であったがアルの視線に気付いたのか少女が顔を上げる。
「あら、こんにちは」
一瞬驚いた様にも見えたがすぐに優しい微笑みに変わる
「ああ、こんにちは…」
不審者に思われない様すぐさま返答したが、それが仇となり少し声が上擦ってしまう
「驚かせてしまって申し訳ありません」
少女が申し訳なさそうに頭を下げる。
「謝らないでください、てっきりこの村には同年代の人なんていないと思っていたから驚いてしまったただけです。それより寧ろ読書の邪魔をしちゃってすいません」
今度は俺が頭を下げるが、少し慌てた様に頭を上げることを要求される。
「自己紹介がまだでしたよね、初めましてユリアス ルルと申しますアルさん」
「ご丁寧にどうも俺は…え?どうして俺の名前を」
あまりの自然な口ぶりに自分の名前が出たことに一瞬気づがなかったが、遅れて驚きと困惑が迫り上がってきた。
そんな俺の様子を見て彼女はドッキリが成功した悪戯っ子の様な微笑みを浮かばせる
「ふふっ、驚かせてしまってすいません。
アルさんはこの村では有名人ですから実は一方的に知ってたんです」
「そうだったんですね…」
幻想的な雰囲気とその美貌も相まって近付き難い印象を受けたが、いざ話してみると寧ろ安心感を感じ、二人の間には和やかな空気が流れる。
「アルさんはどの様な要件でここに参られたんですか?」
「いや、実は今日ヴァイトから魔術を習ったのですが、いまいち理解が足りてない様に感じて、それで魔術に関する本が有ればといいなと思って来てみたんです」
「魔術は難しいですもんね、、よろしければ魔術の本棚まで案内しましょうか?」
「いいですか?読書中なのに申し訳ないです。丁度本の多さに圧倒されて困ってたところで助かります」
「ええもちろんです。私はこれでもこの図書館の司書を任されていますから気にしないでください」
読んでいた本をそっとと閉じ席を立つ、その仕草も何処か上品でついつい見入ってしまう。
「こちらです」
彼女に連れられて入り口と反対側に設置してある本棚に辿り着く。
「ここです」
「ありがとうございます」
「いえいえ大したことはしていませんので」
案内された一角には魔法や魔力、魔術に関する本がずらっと置かれている。
その中から一冊、目に留まった本を手に取ってみた。
「ここの本って持ち出したりしても大丈夫ですか?」
「はい大丈夫ですよ。ただ本は貴重なものなので一度にお一人一冊までとなっています。期限は一週間後までに返却してくだされば大丈夫です」
「ご丁寧にありがとうございます。それじゃあこの本借りさせてもらいます」
「それでは入り口で手続き行うのでついてきてください」
再び彼女に案内され、入り口に置かれた机の上で貸し出し作業を行ってもらう。
机の上に置かれていた魔道具を取り出し本に近づけると本と魔道具が青白い光で一瞬包まれた。
「これで手続きは終了です。返却の際や分からないことがありましたら私は基本ここにおりますのでいつでも来てください」
「何から何までありがとうございます」
彼女はこれまた優雅にお辞儀した後踵を返し元いた場所に向かって歩き出した。
ランドルにいた当時は数は少ないが何度かパーティーに出席してきたが、その時顔合わせしていた同年代の少年少女の誰よりも、もしかしたら今まで出会った大人を含めても彼女が最も優雅で気品のある様に思えた。
家に帰る途中彼女の姿が何故か頭に残り、気づくと家の前まで着いてしまった。
扉を開けるとご飯の準備をしていたヴァイトがこちらに気づく。
「もう帰ってきたか、お目当ての本は見つかったか?」
「ああ、ただいま。ルルって子に教えてもらったおかげでスムーズに見つかったよ」
さっきまで本以外のことを考えていたため一瞬口篭ってしまう
「それは良かったな、ルルは本の虫だから今後も何か調べものがあれば頼らせてもらえ」
「ああそうする。それにしても俺と同年代の人がいるなんて知らなかったよ」
「そりゃあそうだ、あいつは基本図書館にずっといるからな」
笑いながらご飯の支度をするヴァイトを手伝うため借りてきた本を机の端に置き出来上がったものを机に並べていく。
「とりあえず今日は疲れてるだろうから飯食ったら早く休め」
「そうさせてもらうよ、いただきます」
「いただきます」
ご飯を食べ終わると片付けをし本を持って部屋に戻る。
ベットに寝転びながらサッと目を通してみるも、気づけば本を片手に眠りについていた。
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