わたしゃ既に死んでいる

@shun-nosuke

第1話 わたしって

静かな夕暮れ 今日も一日が 終わろうとしている


身なりを整え床に就く


生をなして92年 何時お迎えが来ても良い様に


心残りは父に会った事が無いことだ


父は戦争で若くして亡くなったと聞く


母は私を身籠り 父方の両親と暮らしていたと聞く


母はすでに身内を亡くしていたらしい


「ろくでもないな!戦争!」


そんな母も 私が14の時 他界した


祖父母も物心がつく頃には他界していた


闇市 食堂 靴屋の下働き等々で なんとか生きながらえた


高度成長期を工場勤務で過ごし その後は


商社の事務で おつぼね揶揄やゆされながらも 定年まで働けた


順風満帆じゅんぷうまんぱんとまでは言えなくとも 絶望する事なく


やってこれた・・・、


天涯孤独てんがいこどくと言う言葉以外は 満足往まんぞくいく人生だっただろう


〇●〇●


私は白刃しらはの光の中 目を覚ます


・・・「また、起きてしまった」と思い な が ら ・・・?


・・・??


うーん???


いつもと 景色が違う・・・?


六畳ほどの団地の寝室・・・?


では 「ない!」


何処どこまでもつづく雲の上の様な光景が


眼前に広がっていた


そうか 私は人生を終えたのだ


今日は朝からヘルパーさんが来る日だったから


すぐに見つけていただけるだろう 事故物件にしてしまったのは


心苦しいが 致し方ない


しかし ここは何だろう まさか死後の世界があるとは


思いもしてなかった


死んだら すべてが無になるとばかり これは予想外だ


私は自分の手を見る


そこには疲れた年老いた手があった


「死んだら若い頃に戻るとかないのか!」


「がっかりだ!これなら無の方がよいんじゃないか!」


「うっ!腰も痛い!」


「うるさいぞ!」


何処からか声がした


声のほうへ目をやると そこには少女が立っていた


如何いかにも神?女神?といういで立ちで


「あなたは誰ですか?」一応聞いてみた


「神じゃ!見てわからんか?」


・・・疑問形ぎもんけい


・・・ とりあえず閻魔様えんまさまではないようだ


「神様 ここは何処で 私はこれからどうなるのでしょう?」


「そうじゃな それをこれから説明しよう」


説明してくれるらしい


「ここは神の住まうところ おぬしらの言うところの神界しんかいじゃ」


「で おぬしはこれから別世界に転生する」


「また 人生をやれと?」


やっとお迎えが来たと思ったらまた 一からやれと・・・


「不満か?・・とは言ってものう わしも約束をたがえるわけにもいかんのじゃ」


「約束ですか?」


神社にお参りにはいったことはあるが 宝くじが当たりますように


ぐらいしかおぼえがない


「そう そなたの父親とな」


神が言うには 戦争を終わらせるにあたり 父に命を懸けて・・・


文字通り命がけの任務をあたえたらしい


その見返りが 生まれてくる子の幸せだったと言う


「ならば若くして亡くなった父にもう一度 せいを与えていただけないでしょうか?」


ねがわくば 母にも」


「それは既に行なったぞ 二人とも幸せな人生を全うして眠りについた」


そうか 二人とも幸せな人生を送れたのか・・・


「よかった・・・本当に・・・我が人生にいなし!」


「いや そこは悔いれ!」


「おぬしは 決して幸せには見えなんじゃったぞ!」


「いつもひとりぼっちで・・・」


人の幸せは人それぞれ・・・しかし 神に不幸認定ふこうにんていされるとは



・・・わたしって


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