糸使いはダンジョンに舞う
@sasakitaro
第1話
「じゃあ初配信、始めていきたいと思いまーす!」
命がけでダンジョンに入り、モンスターを倒す。それを配信する職業、ダンチューバーは今最も熱い職業だ。小中学生の将来なりたい職業ランキングはずっとダンチューバーが一位だし、トップダンチューバーともなればその給料は億どころではない。
俺はそんなトップダンチューバーを目指している初心者ダンチューバーだ。まだ配信すらしていないので、登録者は当然0。それでも、一攫千金の夢を見ている。
まあ夢はあくまで夢なので、九割がたただの暇つぶしだが。
「お、始まったかな。初めましてー新人ダンチューバーのサトルでーす!」
さっそく視聴者数が増えていく。普通なら登録者0人のチャンネルなんてオススメすらされないが初配信だけは別だ。初配信の時は他と比べて格段にオススメに乗りやすくなる。
初配信で成功できるかどうかが、ダンチューバーとしての明暗を分けるらしい。人によっては満足のいく初配信ができるまでなんどもアカウントを作り直してリセマラするんだとか。
:スキル何?
「お、スキルですか!俺のスキルはなんと、、糸使いでーす!!」
そう言った瞬間、視聴者数が目に見えて減った。まあそりゃそうか。初心者を見漁る人はマイナーマイナーとか呼ばれているが、彼らのお目当てはルックスのいい奴と、有望な奴だ。
:糸使い笑笑笑笑
:かわいそ
:ハズレスキルじゃん
「おー、やっぱり糸使いって人気ないんだなー」
スキルは、ダンジョンに入る人間誰しもが持っている能力のことだ。火を出したり水を出したり、魔法を使えたり腕が増えたり。
そんな中で、糸使いはハズレとして有名だった。剣士が剣を、魔法使いが魔法を使うのに対して、糸使いは糸だからな。格落ち感ある。
それに糸使いってできることが少なくて、糸をちょっと動かすことと、ちょっとだけ硬くしたりすることしかできない。これでどうやって凶暴なモンスターを倒せというのか。
このスキルを手に入れてから1ヶ月、ずっと修行してたが、最初にモンスターを殺せた時には俺も涙が出たからなあ。
「まあちょっとだけ見ててくださいよ。これでも修行してきてるんで」
:修行笑笑
:糸使いって戦えんの?
:最弱スキルさん笑笑
「じゃあとりあえずその辺のモンスターと戦っていこうと思いまーす」
:これ、死ぬな(確信)
:グロ配信は勘弁してくれよー
:忘れがちだけど、死んだら死ぬんだよなあ
「お、ゴーレムじゃん」
ちょうどいい。彼にお相手願おう。
:ん?
:ゴーレムって中層のモンスターじゃ
:やっぱここ中層じゃん!
:糸使いがどうやってここまで?
コメントが邪魔だな。一旦閉じるか。配信用端末をいじってコメントを視界から消す。
この端末と、自動追尾型高性能カメラがセットでお値段50万ポッキリである。高い!
さて、初戦闘と行きますか。
1分後、ガリバー旅行記のガリバーのような状態になったゴーレムさんが通路に横たわっていた。とっくに絶命している。
「さて、初戦闘終了かな。コメント表示をオンに戻して、っと」
:はあ!
:え
:なに
:あ
…なんか、コメントの流れ速くない?人増えてるし。てかもう直ぐ同接100人超えるんですけど。なにこれ。コメントもなんかよくわかんないし。
「なんか人増えてない?ま、いっか。えーと、今のが基本の戦い方になります。え?意味わかんない?」
あーなるほどね。
「さては糸使い初見の方ですね?糸使い界だと今のはまだ初歩です。まあでも確かに、初見に優しくがモットーなので、次のゴーレムは解説しながら倒していきましょうか」
お、第二村人発見。
「えーと、まずゴーレムに対して機動力で有利を取るために、天井に糸を貼り付けて振り子の要領で移動します。2本以上の糸を使えばスムーズに出来ます。一本でも出来なくはないですが、事故ったら死ぬのでおすすめはしません」
:ちょっと意味わかんないかも
:いやこれミスったら死ぬじゃん
:狂ってんの?
コメント開いてないから分からないが、なんかボロクソ言われてる気がする。まあともかく、
「で、次後ろに回ったら斜め上方向へのベクトルを利用してゴーレムの足に糸を引っ掛けて転ばせます。この時糸を離すタイミングをミスると壁とかに激突します。運が悪いと死にます」
:えぇ(困惑)
:意味わからん
:何これ、こわい
「で、転ばせたらあとは簡単です。首とか腕とか好きなところから破壊します。破壊するためにも逆方向へのベクトルが必要になるので空中を移動しながらやりましょう」
:いやいやいや
:何平然と言ってんの?
:もっと命大事にしろって
「まあ、こんなもんです。このくらいは常識ですね」
:どこの常識だよ
:異世界から来た?
:命は一個しかないんだよ?
蒼井レイア:なにこの人…
:レイア様もよー見とる
:前線組にもドン引きされてて草
糸使いはダンジョンに舞う @sasakitaro
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