自分は知らない、キラキラした世界
かがみゆえ
君は知らない、キラキラした世界。
.
今日、インフルエンザのワクチン接種に行って来た。
初診の病院で予約無しでもインフルエンザのワクチン接種が出来ると知り、受付を終えて番号が呼ばれるまで長椅子に座って待っていた。
何人目かが診察室へ入っていくと中から子どもの泣き声が聞こえてきた。
そういえば、ちょうど外靴からスリッパに履き替えていた時に2歳くらいの女の子を連れた女の人がいたなと思い出して、泣いているのはその子だなと予想がついた。
数分後に診察室の扉が開いて、中にいたのはやはり予想していた親子だった。
女の子は泣き顔だったけど、看護師から何かを受け取るとにこっと可愛い笑顔を見せて診察室から出てきた。
「こっち! こっち!」
女の子が母親を手招きする。
椅子に座るのかなと思っていたら、女の子が直行したのはカプセルトイの台だった。
どうやらこの病院は診察を終えた子どもに専用のコインを渡してガチャガチャを一回やることが出来るようだ。
「待って。待ってね」
早く早くと急かす女の子から専用コインを受け取ると、母親は専用コインを入れてレバーを回した。
取り出し口から出て来たカプセルを取り出す女の子。
「見てー。ピンク! 取って!」
「待って。座ろうね」
ピンクのカプセルを母親に差し出して中身を開けるように急かす女の子。
母親は制止しながら女の子が座るのを待ち、カプセルを開けた。
女の子はちょうどわたしの前の椅子に座り、中身が見えた。
「ピンク! ピンク好き!」
カプセルから出て来たのはピンクの輪っかだった。
「なにこれ!」
「なんだろう? あっ、これピンクのテープだね」
母親は触ってピンクの輪っかがテープだと判明したらしい。
「お家帰ったらペタペタしようね」
「うん!」
きゃっきゃっとはしゃぐ女の子。
座っていた椅子から降りて片手に持ったテープを周りに見えるように掲げた。
嬉しそうにテープを見るその姿が可愛かった。
周りにいた大人たちは微笑ましく見ていた。
数分後に番号が呼ばれ、親子は病院から去って行った。
女の子はずっと大事そうにテープを持っていた。
数年後、女の子は今日の出来事を覚えているだろうか?
診察を終え、頑張ったご褒美にもらったカプセルトイの専用コイン。
取り出し口から出て来たピンクのカプセル。
カプセルの中に入っていたピンクのテープ。
母親との会話。
些細なことでも、わたしにはとてもキラキラとした出来事に見えた。
自分にもこんな出来事があったかもしれないけど、もう何十年も前のことで物心がつく前だから覚えていない。
君は知らない、キラキラした世界。
だけど、わたしを含めた誰かの記憶に残る微笑ましくて羨ましい出来事。
.
自分は知らない、キラキラした世界 かがみゆえ @kagamiyue
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます