第7話 曲作るの?
「あー、竹沢くん。来てたんだー」
オーナーはいつもの調子で竹沢さんに話す。
「今さっき来ました」
「そーだったの」
「んで、さっき海斗くんと何話してたんですか?」
オーナーは何ていうのだろうか。髪型的にフォークソング聴いてそうって言うのかな? そんなことを思っていると
「竹沢くんが作曲と編曲してることを話してたんだよぉ」
と話した。
「そんなこと話さなくても・・・」
竹沢さんは少し恥ずかしそうにしていた。
「麻倉くんが作曲することになったって言ったから、竹沢くんに聞いたらいいんじゃないって言ったの」
「そういう事か」
妙に納得した表情を見せて竹沢さんは俺の方を向いた。
「作曲するの?」
「そうです」
「へえ、どんな感じの曲を作りたいの?」
と興味津々で聞いてきた。
「まだそこまで考えられてなくて・・・」
俺は期待に応えられるような返しをすることができなかった。
「なるほどね。まあ、最初はそんなもんだよ」
呆れられるかと思ったが、竹沢さんは慰めてくれた。
「俺はコードを決めてから歌詞とメロディーを決めて作ってるよ」
「なるほど」
コードを決めてからメロディーを考えればいいのか。メロディーの作り方ばかり考えていたから目から鱗だ。
「でも、この作曲法はあんまり当てにしないほうがいいかもしれないな」
「なんでですか?」
「一曲作るのにとんでもなく時間がかかるから」
「そうなんですか?」
「うん、歌詞とメロディーを同時に考えるから歌詞で行き詰まるとメロディーも行き詰まる」
言われてみればそうかもしれない。歌詞が決まっていないとメロディーがあやふやになってしまう。それに、由那の歌詞ができてから曲を作る俺にはあまり向いていないかもしれない。でも、いいアイデアを聞けた。
「参考になりました」
「ライブハウスとかに出るの?」
「いや、文化祭に出るだけです」
「文化祭、俺もやったなぁ。あんま盛り上がんなかったけど」
このスタジオで働いている人たちはみんな文化祭に何かしらのコンプレックスを抱えているのだろうか。そう思っていると
「どんな曲やったの?」
とオーナーが竹沢さんに聞いた。
そんなこと聞いて大丈夫なのか。少しヒヤッとした。
「どうせ言ってもわからないでしょ」
と言いたくなさそうな感じだ。
「私と麻倉くんは七十年代、八十年代の曲には詳しいわよ」
「『安心地帯』ってバンドのコピーやったけど・・・」
オーナーと同じだ。勝手なイメージだが、『安心地帯』の曲はイントロで盛り上がって、サビで気持ちが最高潮になると思うのだが。
「いい曲ばかりだと思うんですけどね」
そういうと、竹沢さんは目を輝かせて
「海斗くん『安心地帯』知ってるの?」
と聞いてきた。
「知ってますよ」
「本当に!? 俺の周り、全然知ってる人いないから嬉しいな。高校の時の奴らは流行ってる音楽がいいと思ってるんだよ。やっぱり、音楽はイントロがないとな」
竹沢さんは音楽への熱い思いを語り始めた。
「私も『安心地帯』は知ってるし、コピーしてたよ。『LOVEの予感』とか」
すかさずオーナーは会話入ってきた。
「だって、オーナーは歳いってるから。俺まだ二十歳だから」
竹沢さんの見た目からしてとても二十歳には見えない。三十歳手前という感じだ。
「私だって三十路になったばかりだ。女性にそんなこと言うなんてありえない」
どっちにしても世代ではないことは明らかだ。
「まあ、そんなに怒らなくてもいいじゃん」
「そんなんだから、女子のファンが付かないのよ」
「俺のバンド、結構女子人気高いっすよ」
「そのビジュアルで?」
「フォークシンガースタイルをバカにしてるんすか?」
やっぱり。フォークシンガーを意識していたんだ。竹沢さんはジーパンにヨレヨレのTシャツを着ている。
「どちらかというと、フリーターみたいだけどね。地下鉄のトンネルとか掘ってそう」
オーナーは笑いながらそう言った。
「そんなこと言わなくてもいいじゃん」
「駅前の銭湯に一番乗りに並んでおじいちゃんたちと瓶牛乳とか飲んでたり・・・」
「俺の風貌でイジらないでよ。大学入ってから一生懸命伸ばしたんだから」
「絶対に髪の毛切ったほうがいいって」
「そんな親みたいなこと言わなくてもいいじゃん」
俺はこの会話をどんな気持ちで聞いていればいいのだろうか。
「ってか、オーナーが変なこと言ってるから、海斗くん困ってるじゃん」
「私だけじゃないよ。竹沢くんもだって」
「お気になさらず」
「まあバントはさ、楽しくやれたらなんでもいいんじゃないか?」
「そうね、バンドは楽しければなんでもいいもんね」
そう言われて確かにと思った。楽しく出来なければ、聞き手にも気持ちは伝わらない。
「そうだ、海斗くん。連絡先交換しようよ」
「いいですよ」
俺は竹沢さんとLIMEを交換した。
「なんかあったら連絡して」
そう言って、竹沢さんは裏口の方に行ってしまった。
「あんな見た目してるけど話したら面白いでしょ?」
「そ、そうですね」
今日、俺に新たに音楽仲間ができた。
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