三題囃 ワンライ

功琉偉つばさ @WGS所属

じゃがいもの花 じゃがいも✕チャレンジャー✕紙粘土

 私はとても懐かしい夢を見た。今から10年前。小学一年生の頃の夢だ。


◇◆◇


「今日の図工の授業は『ワクワク!紙粘土で工作!』です。みなさん紙粘土を使って自由に自分の好きなものを作っていきましょう」


 先生がそう号令をかけると、みんなが一斉になにかを作り始めた。


 右隣の男の子は何やら最近はやっている「チャレンジャー」というスーパーヒーローを。前の女の子は自分が飼っている猫ちゃんを。左隣の男の子も何やらそのスーパーヒーローらしい。


 みんなが思い思いに作品を作っている中で、私は一人だけなにを作ろうか悩んでいた。自分が飼っている犬の「タロウ」、私の好きなりんご・・・・・・


 悩みに悩み抜いた後、私は自分の一番好きな花を作ることにした。私が好きなのは白くて少し紫がかっているあの花。名前はわからないけど、学校の裏庭に咲いていてきれいだなとちょっと前に一目惚れしたのだ。


 白に少しだけ紫が入っていて、花びらが一つにつながっていて星型をしているあの花。真ん中の雄蕊おしべ雌蕊めしべが黄色くて本当に可愛かったのを覚えている。


 今の時代。みんな自分のタブレットを使って自分の作りたいものの画像を検索して、その画像を見ながら作っている。でも、私はその花の名前を知らないので調べることができない。


 白い花。と調べてもぜんぜん違う花ばっかりが出てくる。だから私は自分が見たとおりに、自分が思っているとおりに作るんだ!


 小学一年生の手にはまだ細かい作業が出来なくて、花びらが破けたりしてしまった。よく色は混ざらないし、水をつけすぎてベトベトになるし・・・・・・


 そんな中でも私は頑張ってあの花を作った。1時間位ずっと集中して作業をして、授業が終わった。ギリギリ私は作品を完成させた。でも、結構不格好だった。花びらはしわくちゃで、茎は折れ曲がっていた。


 私はなんだか泣きそうになってきた。全然うまく出来なかった。周りの子達はみんな結構上手に作品を作っていて、こんな自分の作品に腹がたった。


 そんな中、一人のいじらるキャラの男の子がやってきて、


「お前、なに作ったんだよ。なんだ?この変な花。こんな花びらが星型の花なんて見たこと無いぞ! 」


 なんて言って私のことを笑ってきた。自分は確かに結構きれいな「チャレンジャー」の人形みたいなものを見せてきた。


「どうだ! すごいだろ。 それに比べてお前のはボロボロだな」


 そりゃそうだ。自分はタブレットで調べて動画を見ながらその通りに作っているんだから。失敗するはずがない。

 

 私はとうとう耐えきれなくなり、みんなの前で泣いてしまった。乾いた紙粘土でカピカピになって、絵の具で汚れた小さな手を涙で濡らした。


「こんな花どこにあったんだ? 」


 その意地悪な男の子は授業が終わっても、まだしつこく聞いてきた。なので放課後にその花を見た学校の裏庭に連れて行った。


 するとしっかりと花はあった。でも、少し枯れてきていた。


「本当にあったんだな。でもそんなにきれいじゃないぞ」


 なんて捨て台詞を言いながら何やら自分のスマホで画像検索をしだした。私はなにをしているのかわからなかった。するとなにかわかったのかいきなり、


「おい、これじゃがいもの花だって、ほら、見ろよ! 」


 そう言ってみんなにスマホの画面を見せてきた。確かにそこにあるのは私の好きな花の写真だった。


「うける〜 お前じゃがいもの花なんかが好きなのか? オモロ〜」


 なんてみんなが馬鹿にしてきた。私はどうしてもこらえきれなくなってその場に座り込んでないてしまった。


 悔しかった。私が好きなものを馬鹿にされて。別にじゃがいもの花だったって良いじゃない。みんなは凸凹した茶色いじゃがいもの実の方も一緒に想像したらしく、そんな花が好きなんて、と言い寄ってきたのだ。


 私はその後、学校の先生に泣いているところを発見されて、そのまま返された。先生がその意地悪な男の子のことを怒ったらしく、その子はもう話しかけてこなくなった。


◇◆◇


「凛・・・・・・凛! 起きろ〜」


「うん? あっ、夢・・・・・・かぁ」


 私は何やら6時間目の授業中に眠ってしまっていたらしい。帰りのホームルームの前に、中学校からかれこれ2年間付き合っている彼氏の元也に起こされた。


 6時間目の授業は生物で、ちょうどじゃがいもの花が出てきていた。授業の内容はさっぱり覚えていない。


 そして、その日の帰り道、私は元也といっしょに下校した。


「いや〜しっかしお前ぐっすり寝てたなぁ。生物じじいじゃなかったら確実に怒られてたぞ」


「てへへ。やっぱり6時間目って最後だし眠くなるじゃん」


 そんな事を話しながら帰っている途中に小学校の裏庭のところを通った。


「そういえばさ、この花ってなんなんだろうな」


「これはじゃがいもの花なんだよ〜 というか今日の授業の教科書に載ってたよ! 」


「そうだったか? 」


「もう、元也も寝てたんじゃん」


「いや、最初の方少しだけだし・・・・・・」


そうやって言い訳する元也が結構可愛く見えた。


「というか、俺、この花好きだなぁ。なんか小さくて可愛いじゃん」


「ほら! そうやってすぐ話をそらさないの! もう」


 と言いながらも、内心とても嬉しかった。自分が好きな花を元也が好きでいてくれて。今日の夢の悲しい出来事はどこかへと消えていった。


◇◆◇


 私はあの泣いた日の後、自分スマホをもつようになってからじゃがいもの花を調べてみていた。


 じゃがいもの花の花言葉は「慈愛」「恩恵」「慈善」「情け深い」。


 全然じゃがいもの花っていい意味が込められているんじゃん。そう思った。今でも紙粘土で作った私の大切なじゃがいもの花は心のなかでの一番の宝物だ。

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