旅立つ君の姿はもう分からなくて(パスポート×変身×花)

サブ煎じ

第1話

 とある日の朝。温もりを持った掛け布団を取り、私はむくりと起き上がる。


「ん……んんっ〜」


 起き上がって大きく背のびをした後、私はふと窓際の方を向く。よく晴れた、秋の空であった。


「さて、と」


 私は窓を開けて新鮮な空気を取り入れる。すると、ふと後ろで何かが動いたような気がした。


「今から長旅に行ってくるからね」


 私は後ろにあったそれに言い聞かせた後、出かける支度をしようと思い、パジャマを脱ぎ捨てて部屋のクローゼットを開け、そこから着ようと思っていた服を見つけ出す。

 女物が数多くある中、クローゼットから取り出したのは、Mサイズのスーツセット。私は戸惑いながらも、頑張って袖を通す。


「よし……後はネクタイ……うん。練習したから結べるはず」


 私はやや不慣れな手つきで、ネクタイを結ぶ。


「よし、出来た!」


 私は大きな鏡台に向かい、改めて服装を確認する。

 若干乱雑なショートの茶髪に、黒のコートと白のシャツに青色のネクタイ、そして黒のズボンといった、無難な配色のスーツ。


「うん……うん。すっごくいい感じに出来てる」


 ネクタイの位置や、スーツの着崩れが無いか、私は今一度しっかり確認する。


「それじゃ、昔の私。行ってきます」


 私はに行ってきますの挨拶を送る。

 それは取り入れた空気によって少し揺れ動く。何だか私に挨拶を返してくれたような気がして、嬉しかった。


 玄関具に向かうと、そこにはたんぽぽのキーホルダーが特徴的な、大きめのトランクケースが置かれてあった。私はそれを手に持ち、家に鍵をかけて外に出る。


「パスポートよし……荷物よし……服装よし……うん。おっけーかな」


 私は胸元からパスポートを取り出す。

 パスポートの表紙にはしっかりと、旧字体の「日本国旅券」という文字が刻まれていた。

 私は胸元にパスポートをしまうと、空港に向けて歩き出した。




――――――――――――――――――――




 電車に揺られながら移動することおよそ一時間。私は無事に空港に着いた。早速、私は諸々の手続きを済ませて足早に飛行機へ搭乗する。


「ふう」


 飛行機に搭乗すると、それまで感じなかった心臓の鼓動が感じ取れる。


「あっ」


 そういえばと思い、私はスマホを取り出してとあるアプリを開く。

 それは別の機器を通じて家の様子を確認できる、所謂見守りアプリのようなものだ。


 私は事前に設置してあった機器越しに私が今朝起きた部屋を見る。

 そこには私そっくりの人が、天井に括りつけられたロープに閉められて死んでいた。近くに置かれた椅子からも、自殺のような雰囲気が取れるだろう。


「今までの私はもうおしまい」


 アプリを閉じてスマホのホーム画面に戻ると、そこには元気に咲くたんぽぽの写真が写っていた。


 やがて飛行機は離陸し、私は日本を出る。もうここに戻ることも無いだろう。そう思うと、少し清々しい気持ちがしてきた。


「変身……いや変装だっけ。向こうではバレないといいな」

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旅立つ君の姿はもう分からなくて(パスポート×変身×花) サブ煎じ @sub_senji001

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