第20話 向こうは俺を知ってるけど俺は向こうを覚えてないみたいパターン

「ご協力ありがとうございました。気を付けて帰ってください」


 取り調べは終わったけど、この日は事情聴取と言う名目で警察に呼び出された。

 まあ今日は平松刑事じゃなくて、相棒のイケメン刑事の佐々木さんが担当だったのですんなり終わったが。

 ちなみに佐々木さんは警部補、平松さんは警部らしい。

 課長は別にいるらしいけど、平松警部は千葉県警ダンジョン課の実質的なリーダーみたいだ。

 ダンジョン課はちょっと変わっていて、ダンジョン内での捜査が主な仕事になるのでダンジョン内での腕っぷし、レベルやステータスも問われる。

 つまりああ見えて、平松警部は腕が立つと言うことだろう。

 対して佐々木警部補はいい人を絵に書いたような好青年。

 もしかしたらテレビでよく見るってヤツなのかもしれないが……。

 刺々しかった平松警部とはいいコンビなのかもしれない。

 余りにも話しやすくて、佐々木警部補にリストラされたこととか、色々しゃべちゃったし……。

 グッドコップ恐るべし!


「あの!助けてくれた人って貴方ですか?ありがとうございました!」


 取調室を出たところで突然女の子に頭を下げられた。

 小柄でショートカットのかわいらしい子だ。

 誰?と佐々木警部を見る。


「15階層の大洪水に巻き込まれた子ですね。今回の事件の被害者でもあります」


 被害者!

 そういえば最後に流されてきた女の子二人の片割れの方だ。


「申し訳ありませんでした!お怪我はありませんか?お連れの方も大丈夫でしょうか?」


 こう言う場合は平謝りに限る。


「え?あ、ヨーコは色々ショックだったみたいで、まだ入院してます」


 入院!

 怪我をしてたのか?

 やっちまった……。


「心労が祟ったようですね。貴方のせいではありませんよ。怪我はないんですよね?」


 佐々木警部補が教えてくれる。

 え?そうなの?でも心労って……。

 ああ、そうか。

 ブラッドローズの奴等に襲われたっていうのもこの子達だったね。

 未遂で済んだって聞いてたけど、それでもショックだったんだろう。


「はい。本当にありがとうございました」


「いえ、助けたわけじゃなくて、罠を踏んだだけなので……」


 罠じゃなくて、俺の、いやで殺し掛けたんだからゴメンなさいしかない。

 【ドリンクウォーター】は封印するので許してください。


「でもすごい冒険者なんですよね?ネットで見ました。憧れちゃいます」


「え?ちょっと前に冒険者になったばかりの初心者ですけど?」


 この子は何を言ってるんだ?

 なんかキラキラした目で俺を見てくるけど、残念ながら人違いのようだ。


「え?」


「え?」


「くくっ。ネットでは罠を踏んだのは凄腕の冒険者ってことになってますね。だそうですよ?」


 佐々木警部補が笑いを堪えきれずに噴き出す。

 警察では俺のことをちゃんと調べたはずだし、さっきも色々話したからこの人は違うってからね。

 それにしても服部半蔵ってなんぞ?


「違うんですか?」


 ショートカット女子の顔が曇る。


「違います」


 きっぱり否定しておこう。


「どうだかな?」


 そこに平松警部がやってきた。

 出たな悪い警官役。

 この人は俺に当たりが強いのだ。


「いや、本当に初心者ですって。協会に問い合わせたんでしょ?」


 当目に見る分には出来る女っていう感じの美人刑事なのになぁ。

 どうもブラッドローズの仲間だと疑われているようなのだ。


「各階層のカメラの映像を確認した。貴様、本当に一人だったようだな?」


 あ……。


「15階層までですか?初心者が?ありえない……」


 ショトカ女子が驚く。

 カメラか……。

 あるのはわかってたんだけど、事件でも起こらない限りは調べられないって思ってスルーしてたんだよね……。

 事件、起こりました。

 ついてない……。


「驚くことはないさ。強い奴は最初から強い。ダンジョンって言うのはそういうところだ。だが問題なのはそれを隠していることだ。何故隠す?貴様、本当に服部半蔵なんじゃないのか?」


 だから誰?服部半蔵って!


「ち、違います」


「まあ、事件とは無関係なことですし、答えなくても大丈夫ですよ。悪いこともしてない訳ですし。警部、ブラッドローズとの関係の疑いも晴れたんでしょう?これ以上は無用な詮索です」


 佐々木警部補が助け船を出してくれる。

 流石イケメン。

 しかしなるほど、初心者が一人で15階層まで行ける訳がないからアイツ等の仲間だと疑われてたのか……。

 でも疑いが晴れたなら少しは当たりが優しく……。


「チッ。行け!だが忘れるなよ。斎藤春道、私はお前に目を付けた。冒険者で忍者で槍使い、私の大っ嫌いな人種だからな!」


 いや、槍はどこから出てきた?

 それどころか【忍者】でもないです。

 しかも平松警部は行けと言ったのに、自分でどこかに行ってしまった。

 武器と言えばバットとか鞄も全部流されてどっかに行ちゃったんだよなぁ。

 出費ばかり……、ついてない。


「春道さんって言うんですね。私、朝日恵あさひめぐみって言います。ぜひお礼をさせてください」


 ショトカ女子は恵ちゃんというらしい。

 化粧もちゃんとしてるし、二十歳は越えてそうかな?


「ああ、そういのは大丈夫ですので。助けようとした訳でもないですし。佐々木警部補、これで失礼しますね」


「あ、待ってください!」


 ただ、経験上若い女の子と一緒といても碌なことになった試しがない。

 警察署なら冤罪は起こらないだろうが、外で会うのは避けたいな……。


「ケーコちゃん、終わった?あっ……。え?春道君?春道君だよね?」


「あ、マネちゃん」


 ん?え?

 マズいぞ!

 向こうは俺を知ってるけど、俺は向こうを覚えてないみたいパターン来た!

 しかもこの子と知り合い?

 え?ケーコちゃんって誰?

 メグミって名乗ったよ?


「久しぶりだねー。成人式にも同窓会にも来ないから、こうして会うのはもう20年近くぶりになるのかな?わー、変わんないねぇ」


 声を掛けてきたのはずいぶんと痩せて眼鏡を掛けた女性。

 若く見えるが同窓会ということは、同級生、同い年か?

 しかも成人式と言うことは中学……。

 そういえば成人式にも同窓会にも行ってない、中学にはいい思い出がなかったし。

 しかし同じクラスってことだよなぁ。

 何年の時のだ?

 いたっけ、こんな子?


「莉子さんの知り合いなんですか?」


「え?リコ?って、ガリ子?あっ、ごめっ」


 いた!隣の席に!3年間も!

 ガリガリに痩せた女の子で仇名はガリ子だった。

 しかも、つい当時の仇名で呼んでしまった……。


「あ、ヒドイ。私のことわからなかったの?もー、私はすぐわかったのになぁ」


 いや、今も痩せてるけど、当時はもっとガリガリだったからね。

 これはわからんよ。

 しかもこんなキャラだった?

 いじめられっ子でいつも下を向いているような大人なしい子っていう印象しかなかったけど……。


「いや、20年ぶりだしわかんないでしょ」


 人は変わるものだからね。

 寧ろなぜそっちはわかった?


「わかるよー。あれ?でもどうしてケーコちゃんと?」


「ケーコちゃん?恵ちゃんじゃないの?」


 ズバッと聞いてみる。


「あ、恵であってます」


 うん?


「え?ケーコちゃんのこと知らないの?まあ六位食品ならしょうがないか、あそこ、ダンジョン禁止だもんね」


 なぜ知ってる……。


「え?ダンジョン禁止?でも……」


 何故かダンジョンにいましたね。

 若い女の子にも久しぶりにあった同級生にもリストラされたとは格好悪くて言えないが……。


「ケーコちゃんは有名なダンジョン配信者なんだよ?偶にテレビにも出てるんだけど、見たことないの?」


 ブラックな企業にいたもので、ニュースくらいしか見ていない。

 しかもダンジョンの関係の番組は避けてたし。

 しかし、かわいい子だとは思っていたが、人気の配信者なのか。

 帰ったら過去の放送を見てみようか。


「いや、スマン。テレビはあんまり見ないんだ」


「えー、残念。ケーコちゃん達のマネージャーなの自慢だったのになぁ。それで、何で二人は一緒に出てきたの?」


「あ、そうなの。春道さんが私達を助けてくれた人だったの!それでお礼がしたいんだけど断られちゃって。マネちゃんからも頼んで!」


 いや、結構ですって言ってるのに……。

 引かないぁ。


「え?そうなの?あの罠を踏んで助けてくれたって人?でもダンジョンに……。そっかぁ変わってないね、やっぱり春道君は正義の味方なんだ……」


 はい?

 何の話だ?

 俺は正義の味方でも悪の怪人でもなく、そいつ等の戦いに巻き込まれて理不尽に車を壊される一般人だよ?

 しかも怪人に壊されるんじゃなくて、怒った正義の味方が投げる車の。

 ああいう車って絶対誰も保証してくれないよね?って言うついてない人ですよ?


「正義の味方?なにその話、聞きたいです!」


 恵、いや、ケーコなのか?どっちが本名かわからん、がまた目を輝かせる。


「あ、聞きたい?じゃあお昼食べながらにしようか?春道君も一緒に行こっ。ケーコちゃんを助けてくれたお礼もしたいし。ご馳走させてよ」


 断りたいんだが、話が気になる。

 まあ、この子も諦めそうにないし、これで終わると思って奢られようか。

 お腹空いたけど……、驕りならお代わりとかは無しだな。





「じゃあ、3年間ずっと同じクラスだったんですか?」


「それだけじゃないよ?ずっと隣の席だったんだから!すごいでしょ?」


 すごいよね。

 くじ引くと絶対一番前の席を引くんだよ。

 ガリ子は目が悪かったとかで、前の席に座るのは確定してたみたいだけど……。

 当時はイジメられてたこの子隣に座るのが嫌だったなぁ。

 今になって思えばついてないのは寧ろガリ子の気がする。

 いや、本当に申し訳ない。


「それで、それで?正義の味方って言うのはどういうことなんです?」


「うん、私ね、家が貧乏で小学校の頃すごいイジメに遭ってたんだぁ」


 いや、中学校でもガッツリイジメられてたような?


「なにそれ、酷い!」


「そうだよねぇ。子供って時々酷いことをするんだよねぇ。でね、中学校に上がったのはいいんだけど、またそのイジメてた子達と同じクラスになっちゃったの。案の定またイジメられてさ、毎日紙クズとか投げられてて、学校行きたくないなぁって思ったりもしてたんだよね」


「そんな……。でも正義の味方が現れたんですよね?」


 誰だ?

 俺ではないぞ?


「そう!席替えがあってね。隣の席に坊主頭の野球部の子が座ったの。で、私一番前の席だったから当然後ろからまた紙クズとかが飛んでくるでしょ?そうしたらパッて。その子がキャッチしてくれるの。それが何回か続いたあと、その子が後ろを向いてキッて一睨み!そうしたらもう何も飛んでこなくなったのよ」


 そんなことあっただろうか?

 いや、心辺りはある。

 ウチの父親は所謂ジャイアン〇親父という奴だった。

 プロ野球大好きおじさんね。

 贔屓のチームが負けるとそれはもう荒れると言うどうしようもない親父なのだが、そんな親父達が見る夢とは何かご存じだろうか?

 そう、息子を巨〇軍に入れることである。

 俺は物心が頃がついた頃から〇人の星よろしくな特訓を受けて育ったせいで、飛んできた物を左手で取ろうとする習慣がついているのだ。

 ダンジョンのスキルではない自前のスキル【キャッチ】である。

 まあボクサー程の反応速度も持ち合わせていなかったので、投げられた缶コーヒーを落とさない程度のささやかなスキルなんだけどね。

 で、恐らくなんだけど、その自前のスキルが勝手発動してそのゴミをキャッチしていたんだと思う。

 睨んだ覚えはないけど、当時の俺は今の話に合った通りに坊主頭の野球部。

 初めての席替え後なら、すでにスクールカーストでは天下御免の存在である。

 ただガラが悪かったのかもしれないが……。

 まあ俺に向かってゴミを投げちゃった形になったになるから、文句を言われては敵わんってことで、それ以降は控えたのだろう。

 やっぱり正義の味方はいないじゃないか……。


「カッコイイ!!じゃあそれが?」


「そう、春道君!すごいでしょ?それからもね、自分の席に座っている間はイジメられなくなったの。そこだけは自分の居場所になって、学校に行ってもいいんだってなったの。ね?正義の味方でしょ?」


「お前、それ、自分の席以外ではイジメられてるじゃないか……。本当に俺が正義の味方なら、そういうのからも守ってるはずだろ?やっぱり俺は正義の味方じゃないな」


 アホらし。

 そういうのは服部半蔵とやらにでもお願いしてくれ。


「そんなことないです!本当に困ってる時、本当に助けてほしいと思った時に、手を差し伸べてくれた。その事実が大事なんです。だからマネちゃんにとって春道さんは正義の味方なんです!私にとっても!もう助からないって思ったあの時、助けてくれた春道さんは紛れもなく正義の味方です!」


 真っ直ぐ俺の目を見てそんなことを言う。

 その目に耐えられなくなって……。


「大体それ本当に俺か?小山辺りだったんじゃない?」


 話題を逸らす。


「小山君とは同じクラスになったことないよー。はいはい、ケーコちゃん座って座って」


 声が大きくて店中から視線を浴びた恵ちゃんが、真っ赤になって座る。

 周囲がソワソワしだして、こっちを指差したりしてる。

 この子、本当に有名人なのか……。


「後ね後ね、よく教科書を破られたりしてたんだけど、そういう時は席をくっ付けて見せてくれたりしたんだよ?」


 もうやめてー、とっくに俺のHPは0よー。

 って言うかイジメられ過ぎじゃないですかね?



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