万葉奇譚集

雛形 絢尊

かかし


私は田舎に住んでいます。

田舎といっても、ある程度の嗜好品、日用品は手に入るので、車での移動が多いです。その日も仕事帰りに、車を走らせていました。

職場までは車で20分、私はいつものようにカーラジオを聴きながら家路に向かいました。

片側が田んぼ、向かい合うのは住宅、その真ん中を車で走っていると助手席側、田んぼの方に男性が立っていました。後ろ姿です。時刻は7:30。辺りは真っ暗闇です。しかも田んぼの中に立っているのです。

おかしいと思いましたが、仕事の疲れが溜まっていたのかと、忘れようとしていました。

田んぼの敷地はとても大きく、まだ田んぼは続いています。少しずつ忘れようと努力を重ねましたが、やはり気になりました。なぜこんな時間にあんな場所で。

よくよく思い返すと少し両手を広げていました。

怖い怖いと、私はまた運転に集中していました。

するとまたそれは現れました。

完全に肩の高さまで両手をあげて。

私は頭がまっしろになりました。

一度だけでなく、2度見てしまうとは。

やはりあれは幽霊なのかと思いました。

田んぼを抜けると丁字路があり、その場所の信号が赤信号になりました。

ふと、運転席側の窓の外を見ると、まだ添えたての花が置かれていました。この場所は以前から事故が多く、たくさんの人が亡くなっていることを思い出しました。その事故の原因と、先ほど見てしまったものを結びつけてしまった私がいました。

自宅に無事に着き、リビングでテレビを見ている祖母にあの場所について聞いてみました。

すると、こんな背景があったのです。

そのまた昔、この地域では食物が不作であり、生贄として差し出された若者がいたこと。かかしのように磔となり。

私はその瞬間、恐怖が哀しみに変わりました。

あの場所で今もこの地域の豊作を祈っているのでしょうか。それとも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る