セイラの目標

第4話

セイラは何人もの医者に一生目覚めないかもしれないと言われていた。

セイラは旦那様の愛の力で目覚めた事になっているらしい。

イェルガーは毎日、一日一回はセイラのところへ通い、手を握りしめ、祈っていたとか。


(たぶん内容は目覚めるな、だろうけどね。私にはわかる)


馴れ初めは、社交パーティーで見かけたセイラに惚れたらしい。

(ウソよ。あんな目立つ人、私は知らない)


そもそも意識の無い人間と結婚できるのか。書類上の手続きに不正を感じる。


(なんだ、このウソまみれの人、怖い)


恋した女が一生目覚めない厄介な女になっても愛を貫き通した健気な男という図式が出来上がっていた。

周囲の評判はうなぎ登りだったことだろう。


ここでセイラがイェルガーを無視して過ごしたら、ただの可哀想な男のできあがりだ。そしてセイラは恩知らずな厄介女。

(これまずくないか。でも必要以上に関われないし。全然土下座につながらない)

頭を抱えた。


「土下座、土下座……」

「土下座がしたいのか?」


びっくりして顔をあげるとイェルガーがいた。


「ノックくらいしてよ。レディの部屋よ」

「ノックはしたし、それはなんだ?」


紙に大きく土下座と書いてある。それを壁の「殴る」と書かれた紙の下に貼る。

「これは、私の目標なの!」

「殴るの次は土下座か?」

「そうよ、それより何しに来たの?」

イェルガーは窓のほうに向い、壁側に寄りかかった。

「見舞いの習慣がついているからな、一日一回は君のところに行かないと」

こっちを見ずに言うが、どうせ表情が一種類しかないので気にしない。


「ふーん。念入りな設定だこと。目覚めた私が山猿で嫌いになったとか設定付け加えれば?」

「山猿か、言い得て妙だな」

「あなたは人を化かす狐ってとこかしら」

「ほう」

すごく興味が無さそうなのでセイラは話をやめた。




時刻はもう夜十時。


「いつまでいるの? そろそろ帰れば?」

「いつもならとっくに執事に呼び出されている頃だが、今日は気を利かせているのだろう。一応、夫婦だし」

「みずいらずってやつですか、いらないわ」

「そうだな。君が寝たことにして、もう戻る」

「へいへい」


返事した時にはもうイェルガーはいなかった。入れ換わるように部屋に侍女が入ってきた。

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