旦那様をお出迎え

第3話

ここ数日間で思うこと。


(とりあえず、とりあえず……)


めちゃくちゃリハビリして元気になってイェルガーをボコボコに殴りたいとだけ思った。


(でも、何からしたら良いの? ご飯食べて散歩してしっかり寝て……なんかちがくない? 平穏すぎるよね、もっと血のにじむ努力とかあると思うのよね)


それができないのがセイラであった。


セイラは必死に考えた。

(敵を知らねば倒し方もわからない。とりあえず、今の実力を知るためにイェルガーを殴りに行こうと思います)


家の中をうろうろする。

(広い、広いよこの屋敷)

玄関らしき空間のでっかい扉が開いた。目的の人物が帰ってきたようだ。


「イェルガー!!」

(覚悟!!)


ばっと右手を突き出したセイラ。

イェルガーは手を掴み取ると、上へあげてセイラの身体をくるくる回した。

今は社交ダンスしている場合じゃない。

セイラの腰を抱き寄せると、次に横抱きにして二階まで一気にかけ上がった。


セイラの部屋まで行くとベッドの上に投げ捨てた。

「ぬわっ!」

「旦那様をお出迎えとは感心した、なんのつもりだ?」

「一回殴らせろ!」

セイラはベッドの上でだだっ子のように暴れた。


イェルガーは髪をかき、ため息をこぼした。

「……そうか、そうだよな。女はめんどうな生き物だったな」


相変わらずの無表情で淡々と続ける。

「君はここ以外もう行くところはない。ここを出ていっても野たれ死ぬか、まぁ女を活かした仕事に就けるかもしれないが……」

セイラは胸くそ悪くなった。あまり頭が良い方ではないが脅してきているのがわかったからだ。


「取引しよう。俺の言う通りにすれば、衣食住は保障する」

「内容によるわ。もう一回事故に遭えとか無理だから」

「必要以上に俺に関わらずにこの家で暮らせば良いだけだ。簡単だろう?」

「仮面夫婦でいれば良いのね」


「まあそれで良い。ただ外では俺が君に惚れている事になっている……」

「はぁ? なにそれ? 全く意味わからない」

「結婚は断固として君が良いと言い張ったから、なんだかそういうことになってしまってな、でも君は俺を無視してもいい」

「は? ドMなの? 私にその手の趣味はなくってよ」

「引き受けてくれるかい?」

相変わらずの無表情で言われた。


「わかりました」




セイラは考えていた。

(このボランティア私にメリットが多すぎでは? 私は身寄りがないし、この身体だから子作りもドクターストップだし、しばらくは社交もしなくていいんだって。この家お金持ちそうだし、何よりイェルガーを無視してもいいし、条件が良すぎないか。そんなに女を避けたいのか)


セイラは認めたくないが確かにイェルガーの見目だけは良いと思う。とても良い。


(語彙力が無くて本当にすまん)


お金持ちで顔が良くて背も高い。社交界でキャーキャー言われているのだろうけど、セイラは鼻で笑った。


(人間、性格も大事よね。他の女性を騙せても私は騙されんぞ)


これからイェルガーへの復讐計画を立てるのだ。

(絶対に土下座させてやる。そうと決まったら情報収集だ)

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