徴兵されたニートは、フラグを立てて最前線を生き延びる。

王-wan-

第1話



 20xx年、春。

 中東の紛争から広がった戦火は、第三次世界大戦と呼ばれるほどに広がっていた。

 日本国政府も米国からの要請により自衛隊の派遣を検討したが、国民からの反発により別の案を取らざるを得なくなり、それに関する新たな法案が可決された。


 『戦時納税義務代替法』という名のその新たな法は、兵として志願、従事すれば今後生きていく限り納税義務が免除されるという物だ。


 しかしあまりにも志願兵が少なかった為に、一定の納税額に満たない者を強制的に徴兵する事になる。


 その低い基準の額に満たない者、つまり日本全国のニート達が徴兵される事になったのだ。


 そして現在俺は徴兵され、沖縄にて行われている日米合同訓練という名の地獄にいる。



「撃ち方用意!!」


「「「用意!!!」」」


「撃て!!!」


「「「ッテーーーー!!!」」」



 教官の指示を復唱し、横並びになった元ニート達が一斉に引き金を絞り、銃声がなり始める。


 最初に銃を渡された時はその重みや人を殺す事の出来る道具という重圧から緊張していた。

 しかし今となってはもうそんな事は考えることもない。

 ただどれだけ狙った場所へと正確に撃てるかという事のみを考えるようになった。



「撃ち方止め!!!」


「「「止め!!!」」」



 全員が弾を撃ち切り、銃声が止むと号令がかかる。


 射撃訓練という肉体的に楽な方に分類される訓練が終わり、これから昼食をとると午後からは基礎体力錬成というニートにはキツい訓練が予定されている。

 それを分かっている周りの者達は、皆同じような暗い表情で食堂へと向かう。



「フゥ……いただきます」



 カウンターで食事を貰い、いつもの窓際の席へと座ると、次々とルームメイト達がトレーを持って集まってきた。



「坂本くん、よく食べれるね」


「午後の事を考えると食っとかないと倒れそうだからな、それだけで大丈夫か?」



 トレーに老人でも満足しないような量の食事を載せて話しかけてきたのは中島だ。

 ヒョロガリ引きこもり系ニートだった彼は、この三ヶ月程の訓練で健康的な体になりつつあるが、嫌な事があれば一気に食欲がなくなる繊細な男だ。



「食える時に食っとかな死んでまうで」


「おめぇは食い過ぎだっつーの、ちったぁ痩せろや」



 そう言いながらてんこ盛りのカレーを書き込む関西デブニートの隅田は、その隣に座るヤンキー系ニートの佐藤にそうツッコまれている。


 小説家の真似事をしていた俺を含めたこの歪な4人が、小隊も同じのルームメイトだ。



「注目!!!」



 昼休憩という束の間の休息を満喫していると、勢いよく扉を開け、教官が入ってきた。



「第一派遣科連隊員の諸君、朗報だ! 君たちの派遣先が決定したので通達する!!!」



 その言葉に、ニート達は飯を食う手が止まり、絶望の表情を見せる。



「静粛に!! お前らの派遣先は中東、最前線だ!! 詳細は追って伝える!! 午後の訓練は中止とし、1300に中庭へと集合せよ!!」



 戦闘経験も無い、短い期間の訓練しか受けてない自分たちが最前線に行くという衝撃的なその指令を聞き、ニート達はざわつき始める。


 隣の中島はもう既に涙を流しながら、神に何かを祈るようなポーズをしている。



「……さっさと食べて向かおう」



 俺の言葉に返事をする奴はいない、全員が黙々と食べ進め、中庭へと向かった。



「なぁ、俺ら死ぬんか?」


「嫌だよ……行きたくない……」



 関西弁でそう言われるとなんだかギャグテイストに聞こえ笑いそうになるが、中島の顔を見ると笑う事はできなかった。

 しばらく中島を励ましていると教官が来て、今後の流れを説明し始める。


 教官の話によると5日後、軍の輸送機で現地に送られるらしい。

 自衛隊は国を守る事が最優先の為戦地には向かわないが、俺たちが最前線へと送られるのはどういったお笑いなのだろうか。


 部屋に戻り開いたSNSでは、俺たちの命を守ろうとしているのは人権団体だけで、世間はニートに厳しく『税金払わないんだから当たり前』『やっと役にたつ時が来たな』などという意見を飛ばしてくる。


 こんな事になる前になんとなく感じていたその空気が明らかに目に見えるようになると、苦しい訓練も相まって国に反逆してやろうかという気さえ湧いてくるが、そんな勇気や行動力などニートには存在しない。


 なぜちゃんと働かなかったのかという後悔と自己嫌悪、そして戦争に対する恐怖が押し寄せ、出兵するまでの5日間はほとんど眠る事ができなかった。

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