第4話 ちーちゃん先生

「え、蓮はなんでちーちゃん先生に呼ばれてるの?」


 ホームルームが終わり、俺の元にやってきたクール美人、如月澪きさらぎみおは首を傾げながら俺に問いかけた。


「え、しょーじきまじで全然わからん」


そうすると、夢乃と海斗が俺の元にやってきた。


「ほんとうに蓮くんは心当たりないのー?」


「いや、まじでないんだよな。ボーッと外眺めてたから、いきなりクラスの視線に刺されてめちゃびっくりした」


「蓮? 本当なのか? もしかしてお前の今まで誰にも言ってこなかったあんな秘密やこんな秘密が先生にバレちゃったんじゃないのか?」


 少しふざけた口調で海斗が俺に尋ねてくる。


「え、何それ」


「俺が知ってる蓮で、ちーちゃん先生に怒られる要素、かぁ……。やっぱりあれしかないなっ」


「海斗、お前は俺の何を知っている!?」


「全部さ。俺は君の全部を知ってるよ」


 海斗が少女漫画の王子様みたいなセリフっぽくないセリフではあるが、少女漫画のセリフっぽく行ってきた。


 謎に様になるのが腹立つな。でもかっこいい。海斗かっこいい。


「あっ!男同士でイチャイチャして!びーえるってやつだ!!」


 そう言って美春が騒ぎ立てる。BLて……。


「でもなんなんだろうな蓮が怒られる理由って……」


「悠斗!? 俺は怒られる前提なのか!?」


「ちがうかぁ……?」


 当然かのように怒られる前提の話をしてくる悠斗。薄々そうなのでは無いか、とも思っていたがなんせ心当たりが無さすぎる。

 

「でも私、海斗が怒られる理由分かるよ」


 え、美春お前は知っているのか。

 みんな美春の言葉に耳を傾ける。


「ちーちゃん先生と、蓮って仲良いじゃん?だからちーちゃん先生が蓮のこと職員室に呼び出してね、そんでちょっとここだと周りの目線があるから着いてこいっ、ってちーちゃん先生が言うの。

そして体育館倉庫に連れこんで、ふふ、ここなら二人きりで秘密の授業ができるなってちーちゃん先生、ちょっ、ちょっと待ってくださいよ、俺とちーちゃん先生の積は求められないですぅって蓮が答える。

その後二人きりであんなことやこんなことを……」


 「──真剣に聞こうとして損したわっ!」


 俺がみんなの意見を代弁した。てかなんだ積は求められないですって。


積ってなんだ!掛け算なんだろうが。何かを遠回しに言いたいんだろうがやめておく。


「はわわわ、」


 しかし、なんか一人だけ脳内お花畑状態?な人がおいでになられるので、


「おーい、夢乃さーん、戻ってきてください」


 夢乃はもしやの中のもしや、俺とちーちゃん先生の積を一人脳内で暗算で求めていたらしい。


答えは出たのだろうか。てかそもそも計算すんな。

 えーとなんだ君たち。

 

 みんな面白いからそのままでいてくれよなっ!



 ******



「お、来たか小野寺。待ってたぞ」


 そう言って手を挙げるちーちゃん先生。それに応えて俺も控えめに手を挙げる。マジでこの人はフレンドリーすぎる。


そのフレンドリーさから、生徒からの人気は確かなものではある。しかし先生の威厳のようなものは無い。ある種友達みたいなものだ。


 時間は昼休み。職員室の中も先生同士でお話したり、ある先生はプリントの作成に追われたり、ある程度の喧騒に包まれていた。

 

「どうしましたかちーちゃん先生」

 

「齋藤先生って呼べと、言ってるだろうが」


 これは何回もしているいつものやり取りだ。


「だってちーちゃん先生、の方が齋藤先生って呼ぶより可愛げありません?」


「まぁそれは否定しないけど私にも一応教師としての尊厳というものがあってだな……それをちゃんとみんなに見せておかないと舐められたりするんだよ」


 そう言ってはぁ〜とため息をつくちーちゃん先生。どうやら彼女は生徒に舐められる、ということにお悩みの様子だ。


 しかしそれは今更だ、と彼女に言ってあげたい。

 もうみんなから『みんなの友達』と見られてしまっているちーちゃん先生、尊厳を気にするだけ意味ないと思います、手遅れです。


「どうしたら何考えてんだこいつ?みたいな生徒達と相互理解を深めることができるんだろうなぁ……」


 そんなことを呟くちーちゃん先生。いきなりどうしたんだちーちゃん。


 いっそ開き直って生徒たちみんなと仲良くなればいいんじゃないでしょうか!そう言ってあげたら、ちーちゃん先生は俺たちと友達になるしか無くなる。……?


 しかしどの口が言っているんだという話ではあるが教師は大変だと思う。


 俺たち生徒は関わりたい人だけを選んで、その人たちとつるむだけでいい。


 しかし教師は違う。歳が違うのは大前提。

 多種多様な人を相手にし、相手に対する理解を深めようとしなければならない。


 相互理解するのはもちろん大事だが、生徒全員との相互理解、だなんて机上の空論だ。


 しかしそれを本気で目指しているのが俺の目の前にいるちーちゃん先生だ。先生かっこいい!


「なんで、先生たち誰もが望んでいる生徒との相互理解の夢、叶わないんですかね?」


「そんなの答えは分かりきってる」


「?」


「小野寺、お前みたいな何考えとるかわからん様な訳分からない奴がいるから、私たち教師は生徒との相互理解に苦しむんだ」


「えっ、ちーちゃん先生ストレートすぎる、泣きますよ……?」


「なくな、あとちーちゃん先生って呼ぶな!」


 あー、ちーちゃん先生と喋っていると楽しい。俺のボケに欲しいツッコミを欲しいタイミングでくれる。


 しかしさすがに先生に申し訳ないので、今日はここまでにしておこう。


「先生、今日はどうして俺を職員室に?」


「えーとだな……」


 もうちーちゃん先生との会話は十分に楽しんだのでそろそろ本題に入ろう。

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2024年10月6日 12:13 毎日 12:13

オタクな俺の青春が陽キャに囲まれている件。 やこう @nhh70270

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