素直になれない天才オタクと天才美少女による恋愛心理戦

田中又雄

第1話 俺があの人を好きにならないのかって?

 ◇相沢 恵良の目線


「答えはNoだ」


「その心は?」と、友人である坂本八は質問する。


 中学からの友人であり、同じ関町高校に通っている俺たちは、高校になっても二人で集まることが多く、現在もこうしていつものように八の家でゴロゴロとしながら雑談を繰り広げていた。


「あのなぁ、確かに俺は天才だ。この世にあるインターネットに流れる情報であれば、なんだって調べることができる。俺の手にかかれば未解決事件の犯人を特定することもそう難しくはないと思う。けど、そんなことは恋愛においてはなんの関係もないんだよ。俺は天才という一点を除けば、ただのアニメ好きの陰キャオタクに過ぎないってこと。そんな俺が彼女の横に立てると思うか?俺は3次元では理想の恋愛なんてしないんだよ。わかるか?リアリスト、現実主義なんだよ」と、漫画をペラペラとめくりながら返答する。


「でも、前に鞠乃宮さん、頭がいい人が好きって言ってたぞ」


「頭がいいって言っても色々あるだろ。勉強の有無とか、地頭の良さとか...。たぶん彼女が言ってるのは前者のほうだろ。だとしたら俺は並みより少しいい程度だし」


「ふーん。じゃあ、絶対に好きにならないと?」


「ならない。二次元と違って3次元の恋愛は相当に面倒くさいからな。二次元なら妄信的に片思いしても傷つくことはないし何より楽だし。そのほうが俺には合ってる。もう一度いうぞ。もし、3次元で恋をするとしても鞠乃宮だけはない」と、俺は言い切った。


 確かにこの時は本当にそう思っていた。

俺は理性的な生き物であり、本能で恋をするようなタイプではないと、本気で思っていたからだ。


 実際、鞠乃宮のことはかわいいとは思えど、それはテレビ越しのアイドルを見るのと変わらない目線、端から眼中にないのだ。

そういう目では見れない相手。


 そう...思っていたのだ。



 ◇鞠乃宮 リゼ目線


「答えはNoよ。本当に好きな人なんていない」


「本当は?」と、友人である牧野 璃々はしつこく質問をしてくる。


 中学からの友人であり、同じ関町高校に通っている私たちは、高校になっても二人で集まることが多く、現在もこうしていつものように璃々の家でゴロゴロとしながら雑談をしていた。


「本当にいないって。恋愛とかあんまり興味ないんだよね。人を好きとか嫌いとか、それで散々な目にあってきた人はたくさん見てきたし。少なくても、一目ぼれとか、運命の出会いとかは私は一生ないんだろうなとは思ってるよ。本能じゃなくて、理性で恋をしたいのよ。だからこそ、頭のいいひと、理性的な人のほうがいいって思ってるだけ」


「ふーん?体じゃなくて脳で恋をするってこと?難しいこと言うねぇ~。処女のくせにw」と、やや煽るように言ってくる。


「そうね。まぁ、処女をささげるに値するような人に一生に一度会えればそれでいいと思っているから。簡単に股を広げちゃうあなたと違ってね?」と、煽り返す私。


「誰がやりまんだ!そんなやってないわ!」と、立ち上がって否定する。


「はいはい」



 確かにこの時は本当にそう思っていた。

俺は理性的な生き物であり、本能で恋をするようなタイプではないと、本気で思っていたからだ。


 実際、今までそんな人に出会ってこなかったし、告白されても何も感じなかった。

きっと、友達のような感覚で居心地が良い人と結婚するんだろうなと、なんとなくそんな風に考えていた。


 そう...思っていたのだ。


 しかし、運命というものは大きな足音を立てることもなく、忍び寄るように私の近くに来ていた。


 そして...それは突然訪れたのだ。



 ◇2024年10月12日 土曜日 12:45


 この時期の北海道はすでに最高気温で15度程度で夜は冷え込むと5度前後まで下がることも珍しくなかった。


 特に何の用事もなかったが、映画でも見ようかと一人で駅前に出かける。


 しかし、映画館に到着し、ラインナップを見てから特に興味を惹かれるものがなかったため、口をとがらせてその場を後にする。


 このまま家に帰るのもなと思って、なんとなくで入った本屋。


 そうして、なんとなく興味がありそうなミステリー系の作品が並んでいる棚に行き、背表紙を眺めていた。


【10階の窓から今日も君を見る】という、少し興味が惹かれるタイトルの作品を見つけて、手を伸ばす。


 そして、俺の手にそっと触れるもう一つの手。


 少し驚きながらふと横を見るとそこに立っていたのは...鞠乃宮 リゼだった。


 何度も見てきたその顔...それを見た瞬間、胸の高鳴りが抑えられなくなる。


 ありえない...。あり得るわけがない...。俺が...。


 そう、こんな何度も描かれてきたであろうベタな運命に導かれて恋をするなんて...。


 すると、数秒硬直した彼女はそのまま走り去ってしまうのであった。


「...いやいや...あほか...俺は」

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素直になれない天才オタクと天才美少女による恋愛心理戦 田中又雄 @tanakamatao01

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