第二部 彼女たちには俺の隣で笑っていて欲しい

やがて拓哉は気付く


「帰って来たー」

 俺たちは日本の空気を吸う。これが日本か。

 俺たちは予定帰国より早く帰って来てしまった。たった数日しかいなかっただけなのに懐かしく感じてしまう。

 早百合はさっきから落ち着かない様子で俺をチラチラ見ている。

「その、一年だからね」

 早百合は俺に猶予をくれた。付き合うか付き合わないかの猶予を。

 正直まだ、気持ちの整理や誰のことが好きかすらわからない。だから猶予を貰った。

 こんな半端な気持ちで好きとか言うのは二度としたくないから。

 そして、自分の気持ちに気付きたいから。

「じゃあ、帰ろっか」

 俺の手を握り、指を絡ませ繋ぎ歩き始める。

 一応付き合ってはいないからね。あれだ、猶予を貰う代わりに甘えてもいいかな? って提案されたんだ。

 俺は、いいよ、って言ったけど、そのここまでとは思いもしなかった。

 俺たちはバス停に向かう。

 18時40分に来るのか。

「後、十分くらいだな」

「うん」

 ただ、俺の手を強く握る。

 まるで、この時間が一生続けばいいのにと願っているように。強く繋ぐ。

 そして、神様の悪戯なのか、わからないがバスはいつもより来るのが遅かった。

 完全に沈んでいる空。

 今日見ている空はいつもと違っていて、どこまでも、どこまでも、広がってるように感じる。

 俺はもう誰も失わない。全員救ってやる。

 そして、天国か地獄で雪と会った時、笑って話せるような人生を送ろうと、広がっている空に誓った。

 





「じゃあ、送ってくれてありがとね」

「おう、じゃあ明日な」

「うん」

 俺は歩き始める。

「拓哉」

 後ろを向く。

「大好きだよ」

 それだけ言い、家の中に入っていく。

 訴えたらギリギリ勝てると思うんですけど。

 俺は自分の家に向かって歩き始める。

 歩くこと数分やがて俺の家が見えてくる。

 そして、俺の家の前に、誰かが座っているのも見えてくる。

 黒髪で容姿端麗である。そんな人が俺の家の前に座っている。

 その人は俺に気付き、俺の方に走り始める。

 この走り方どこかで見たことあるよな、思い出したぞ。楓だ。

 楓は髪を黒に染めていた。

 めっちゃ雰囲気良いやん。しかし俺の気持ちとは裏腹に楓は泣いていた。

 そして俺に飛び付く。

「学校やめないで」

「え?」

 

 

 

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