もう、下がることはないから

俺は先輩が学校にいるとは限らないのに学校に向かっていた。


居ても居なくても関係なかった。ただ、今は学校に向かう。


 こんなに怒っているのは人生で2回目だ。怒りの感情で冷静な判断はできなくなっていた。停学じゃ収まらないかもしれない。

 それでもいい、彼女の苦しみと、壊れそうなほど痛い胸の痛みが消えるなら。


 学校に着き、2年の教室に向かう。神様は俺に味方してるようだ。


 話し声が聞こえる。


「ねえ、相馬、あの子は大丈夫なの?」


 ちゃんといた、俺が憧れていた、相馬先輩が俺は冷静になり盗み聞く。


「志保は馬鹿だから、利用してるよ。今日浮気バレたけど、噂を流すぞって脅したらおとなしくなったよ」


 頭の片隅で、先輩はこんな人じゃないはずだって否定していたけどもう、消えていた。怒りの感情しかなく何も考えることができない。


 今起きてる事は本当で俺の憧れだった。先輩はクズ。それだけが真実だった。


 教室に居る二人は話に夢中になっていた。少し開いてるドアを全開に開ける。


「あれ、拓哉じゃん」


 少し慌てていた。


「久しぶりだな。まさか同じ高校なんてな勉強頑張ったんだな」


 先輩の声は耳を通さない。声を聞くだけで虫唾が走る。


「大丈夫か?拓哉?」


 俺は机の上に乗り、ゆっくりと先輩の方に歩いた。


「おい、どうしたんだよ?」


「なにか変だよ彼」


 隣にいる女性が言った。黙れよ、変なのはお前ら二人なんだよ。人を利用する?  馬鹿が、キモすぎだろ。何様なんだよお前ら、人の気持ちを弄んで楽しいか? 人の弱みに付け込んで楽しいか?


 俺は次の瞬間先輩に飛びついた。


 でかい音が響く。


 転がった先輩の上に馬乗りになる。


「少し話をしましょう」


 俺は冷静に言う。


「先輩は、志保を利用していたんですか?嘘を付いたら殴ります」


 「大丈夫? 相馬、」


「うるさい静かにして下さい」


 隣にいる女性は静かになった。


「お前ってバカだな? 利用するしか使い道ないだろ」


「そっか」


「なあ、今なら許してやるから純恋よこせよ」


 こいつは、こんなにクズだったのか。ダメだ殴ってしまう。落ち着け落ち着くんだ。

「志保はお前のことが好きだった。その気持ちを知ってたのに、なんでそんな酷いことができる」


「お前って本当にバカなんだな、あんな奴と付き合う奴なんていないだろ。普通に考えて。まさか、お前がこんなに馬鹿なんてな」


 ドンと鈍い音が鳴る。


 「痛って、お前殴りやがったな」


 「これは俺の怒りの分だ」


「やめてよ、動画撮ったから」


 脅しか?なんでこんなクズな仲間してるんだよ。


「よくやった。お前も終わりだな、可哀そうに早百合がこんなクズ男をみたら、どう思うかな」


 こいつ、早百合のことなんで知ってるんだ。


「1つ忠告すると、動画なんか撮っても意味ないぞ、俺も最初から撮ってるから、どっちが信憑性あるか一目瞭然だな」


「最後に聞く、志保を好きじゃなかったんだな」


「だから、あんな奴好きになるやついないだろ」


 今まで聞いたことのない、鈍い音が鳴る。


「調子に乗りやがって」


「黙れよ、クズ。いいか次志保に近づいてみろ、次は二発じゃすまないからな」


 階段を上ってくる音がする。どうやらここまでみたいだ。


 純恋先輩、早百合に先生達もいた。


 早百合は引いていた。俺の姿をみて。本当の君はこんな人なのみたいな目で見ていた。


「なにしてるんだ」


 教室は酷く荒れていた。相馬の隣にいる女性も泣いていた。


 この状況を見るに俺一人だけが悪いだろう。


「助けてくれ、急に殴られたんだ。こいつが」


 演技をする相馬。こうやって、たくさんの人を騙して来たんだな。冷静になった頭で理解する。


 先生がこっちに来る。


 俺は先生にバレないように相馬に忠告する。


「あの、動画を流したら、俺も流す。そして、二度と志保に近寄るな」


 先生たちが俺の肩を引っ張る。


「おい、拓哉行くぞ」


 体育の先生が俺に言う。多分失望している。


 早百合と、純恋先輩とすれ違う。


「なんで、どうして」


 二人は混乱していた。俺とはもう仲良くしてくれないだろう。


「ごめんな」


 そう、一言だけ言い先生について行った。


 大丈夫だ、俺は元からスクールカーストは最低辺だ。


 これ以上下がることはない、悲しい気持ちを押し殺し前を向く。

 

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