ファーストキスと言う魔法で美しくてあーだーこーだ

 俺は今天国と地獄の狭間にいる。右を見ると地獄で、左を見ると天国。俺は誰を選ぶのが正解なのか。こうなってしまったのは、たしか数分前。


 「今日から部活か、楽しみだな早百合」


 早百合の方を見るとひどく怯えていた。今は裏の顔なのに何に怯えているんだ、前を見ると、そこには美少女がいた。って普通のことやん。


 俺たちの方を見て走って来た。なんだよ、その天使みたいな走り方、毎日夢で出て来て欲しいレベル。


 で、なんで俺は抱き付かれているんだ。


「ちょっと、どちら様ですか?」


 俺には見覚えのない人だった。誰なんだ。


「私は早百合のお姉ちゃんの純恋(すみれ)です」

 え、えええ、なに、え、光と闇みたいな対決。やだ、光について行こうかしら。


「じゃ、後は頑張れよ!俺は純恋と幸せに暮らす」


「きも」


「調子に乗りました」


「お姉様ここで何をしていたんですか?」


「暇つぶし」


 なんて可愛んだ。ずっと見ていたい。


「そうなんですか。では、私たちはこれで失礼します」


「えーえー、拓哉を貸してよ」


「いいえ、拓哉は私の物です」


「そんなこと言わずに貸して?」


「あのー俺は物じゃ.....」


「うるさい」


 姉妹だなちゃんと。ちゃんと。


 階段を上がって来た男子が、純恋先輩に挨拶をしようとしていた。


「あ、さよ」


「話しかけないで」


 男子は泣きそうな顔をしながら帰って行った。

 え、怖い。もしかして、早百合は俺に冷たくて、純恋先輩は俺にだけ優しいってこと? 天国と地獄だな。


「どっちと仲良くしたいの?拓哉は」


 これは天国か地獄かを選べということだな。じゃあ、俺は、俺は、選べないに決まってるだろ。てか。


「俺は物じゃないって言ってるだろ」


「おい」


「はい」


「大丈夫よ」


「なんて優しい」


「そうですね、俺はパフェを選びますかね」


 天国と地獄から抜け、宇宙に来ていた。ここなら争いごとは起きないだろう。


「私は、チョコパフェ」


「私は、いちごパフェ」


「俺は、フルーツ特盛パフェで」


「すみません、チョコパフェじゃなくて私も彼と同じの1つ」


「すみません、いちごパフェじゃなくて私も彼と同じの1つ」


 あれ、なんか起きてない? てか、なんで同じもの頼むんだよ。


「え?な んか勝負してる? もしかして」


「そんなことないよ、びっくりさせてごめんね」


「いくらでもびっくりできます」


「ふふ、やっぱり面白いね拓哉って」


 どこか腑に落ちないがまあ、いっか。


「どうなの、最近」


「クラスからは変な期待をされてる感じがする。イメージが膨らみ過ぎてる気がする」


 不安な声を漏らす早百合、期待が大きなストレスになるんだな。そう、思いながら外の景色を眺める。

おいおい、外には同じ高校のカップルがいた。まずいこの店に入ってくる。


「まって、まずいぞ同じ高校でカップルが入ってくる。この状況まずくないか?俺トイレ行ってくるから何とかしてくれ」


 俺は急いでトイレに行った。急げ、急げ。トイレのカギの所が赤になっていた。詰んだ。


 やばい、と思っていたけどカップルは店に入って来なかった。俺は席に戻り、外を眺めていた。


 さっきまで和気あいあいとしていたカップルの姿はなく、一人ポツンと立っている美少女しか居なかった。


「パフェ溶けるよ?」


「う、うん」


 俺はフルーツパフェなんかより外にいる女性を眺めていた。

 明らかに元気がなく、空っぽな人になってる。


「私が食べるよ?最底辺さん」


「ああ」


 俺は急いで店を出た。赤信号だというのに彼女は歩き始めていた。俺の足速く、走れ、速く。


 顔が見えたけど、どこか暗そうな感じがした。車が来る。まずい。


 「おーい、危ないぞ」


 声が届かない。俺は彼女を助けるために飛び込む。どん、とでっかい音が鳴る。


「おい、大丈夫か?」


 手には擦り傷がたくさんできていた。まあ、いいだろうこれぐらい。


「ケガ、ないか?」


 店の方から、二人が出てきた。こっちに来てくれと声をかける。二人が俺の方に来る。


 次の瞬間俺のファーストキスが奪われた。


「好き」


「え?」


「え?」


「え?」

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