第32話 決戦
俺達は三人で、第五層へと向かっていた。霧の中を慎重に進む中、俺はふと疑問を口にした。
「そういや、リリアってギルドでどんな役割なんだ?」
リリアは足を止めることなく軽く肩をすくめた。
「そうね。ギルドの中で“ある団”を預かっているわ。正式な肩書きは《
「《
リリアは足を進めながら、俺たちの質問に答え続けた。
「ギルドにはパーティーという小さな単位があるわよね。冒険者が集まって一緒に任務をこなすグループ。それが基本的な形。でも、人数が増えて一定以上の規模になり、さらに組織的に動く必要が出てくると“団”として認められるの」
「団って、ギルドの中でも特別な存在なんだな」
俺がそう言うと、リリアは軽く頷いた。
「そうね。団になるには、ギルドからの正式な承認が必要だし、それなりの成果を上げて信頼を得る必要があるわ。団員同士での連携や規律も求められるし、ただ人数を集めただけじゃ団にはなれない」
「じゃあ、《暁の縛鎖》もそうして団になったのか?」
俺が興味津々で尋ねると、リリアは少し笑みを浮かべた。
「私は特別な存在だったからギルドに入って1週間後に団を作れたわ」
「1週間後に団を作れたって……それ、普通じゃありえないだろ?」
俺は思わずリリアの言葉を疑った。ギルドに入ったばかりで、そんな短期間で団を作れるなんて、どんな実力と才能が必要なのか想像もつかない。
「まぁ、普通じゃないわね。私の場合はギルドの幹部たちが特例として許可してくれたの。」
「へえ、それってよっぽど期待されてたんだな」
俺が感心して言うと、リリアは小さく鼻で笑った。
やがて、霧が一層濃くなり、視界がさらに狭まった。周囲は白いカーテンに包まれ、足元すらよく見えなくなってきた。
「この霧、何か嫌な感じ」
フィオナが口を開いた。彼女も緊張しているのか、普段より少し硬い口調だった。
「確かに……不気味なほど静かだ」
俺が答えながら、周囲の空気を感じ取ろうとしたが、霧に遮られて感覚が鈍っている気がした。どこかから視線を感じるような、そんな感覚があった。
「しっかり警戒しなさいよ。霧の中では何が出るかわからないんだから」
リリアが指示を出し、俺たちは改めて気を引き締めた。
霧の中を進むたびに、足元の不安定さや湿気が僕たちの神経をさらに研ぎ澄ませた。周囲はまるで白い壁に囲まれたようで、視界は数メートル先までしか見えなかった。空気はひんやりと肌に触れ、霧の湿気が顔にまとわりつく。何かが近くにいるような感覚が、じわじわと押し寄せてきて、リリアもフィオナも警戒を怠らない。
「……気をつけろ、ここから先は特に危険だ」
リリアが静かに呟いた。彼女の言葉に、俺たちは自然と歩調を合わせ、息をひそめて進む。霧の中でさえ、無駄な音は立てないように心がける。
突然、足元に異変が起きた。霧の中から突如として現れたのは、視覚的にはわずかに形をとる黒い影。しっかりと見えるわけではないが、鋭い目がこちらを見ていることが伝わってくる。何かが近づいているのを感じ取ったその瞬間、リリアが素早く動き、俺たちを後ろに引っ張る。
「来るぞ!」
その声とともに、黒い影が一気に襲い掛かってきた。見た目はまるで霧の中に溶け込んだ怪物のようで、体は膨らんでいるが、足元が見えない。霧の中ではその正体を見極めるのは至難の業だ。しかし、どうやらその攻撃は予測できるような動きではなく、突然の速度で襲い掛かってくることが分かる。
「くっ!」
「鑑定」
リリアがそう呟く。
【鑑定結果】
名前:ダークビースト
職業:闇の獣
装備:するどい爪
スキル
霧隠れ:霧や煙の中で姿を消し、視覚での捉えにくさを強化する。
疾風突進:予測不可能な速さで移動し、急激に接近して攻撃を仕掛ける。
闇の爪:鋭い爪で攻撃し、切り裂かれた傷から闇のエネルギーを放出し、敵の視覚や精神に混乱を与える。
所有魔法
闇霧:広範囲に濃い霧を発生させ、敵の視界を奪う。霧の中にいる間、攻撃力と回避力が増加。
魔法属性:闇
【追加鑑定結果】
特徴:霧の中で感知能力を持つが、強い光には弱い。嗅覚や聴覚も優れており、霧の中で獲物を正確に狙う。
生息域:闇のエネルギーが濃い地域、特に霧が発生しやすい場所に生息。
弱点:光属性の攻撃に対して特に脆弱。身体の中心部にある「核」を光属性魔法で破壊することで即死する可能性がある。
戦闘パターン:初手は霧の中に潜んで敵の警戒を削ぎ、その後に疾風突進で奇襲を仕掛ける。攻撃の間隔は一定ではなく、混乱を狙うことが多い。
追加鑑定結果だと...!? 魔法を極めたらこんな事までできてしまうのか...。
俺は驚きの声を上げた。リリアのスキルがこれほどまでに詳細な情報を引き出せるとは思っていなかった。
「私の鑑定スキルは普通のものより少し特殊なのよ。訓練次第で追加情報を得ることもできるの」
「なるほどな、リリアの鑑定スキルはマジで頼りになるな」
俺がそう呟くと、リリアは短く「当たり前でしょ」と答えた。その声にはどこか余裕を感じさせる自信があったが、緊張の中で少しピリついた空気も漂っている。
「ただ、油断しないで。ダークビーストは強いわ。私たちの動きが少しでも遅れれば命取りになる」
リリアが言葉を続ける間に、黒い影――ダークビーストは再び霧の中に姿を消した。
周囲は白い霧と沈黙に支配され、どこから攻撃が来るのか全く分からない。息をひそめる俺たちの背後に、不気味な気配が忍び寄る――闇の中から新たな恐怖が牙を剥こうとしていた。
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