第31話 再会
「なんだって……? 出られない?」
俺たちの目の前にそびえ立つ石の扉は、見えない力で固く閉ざされているようだった。何度試しても微動だにせず、その威圧感すら感じられる。
「くそっ、どうする……」
苛立ちを抑えきれず、俺は拳で扉を叩く。その冷たく重たい感触が手に伝わり、逃げ場のない現実を突きつけられる。不安が胸を締め付け、頭の中を黒い影のように渦巻いた。「このまま閉じ込められるのか?」という疑念が心をよぎる。俺の横でフィオナも険しい表情を浮かべ、辺りを見回して出口を探そうとするが、周囲に漂う霧がさらに濃くなり始めていた。
「何か方法があるはず……」
フィオナが自分に言い聞かせるように呟きながら、杖を握りしめる。その姿には焦りがにじんでいた。だが、行き詰まった空気を切り裂くかのように、低い振動音が耳に届いた。
ごごご……と鈍い音が響き渡り、俺たちの目の前の扉がゆっくりと動き始めた。重厚な石が擦れる耳障りな音が周囲に反響し、冷たい霧が扉の向こう側に流れ込む。俺とフィオナは思わず息を呑み、視線を扉の奥へと向ける。その先に何があるのか、得体の知れない恐怖と好奇心が入り混じる。
「……誰かいる!」
フィオナが突然声を上げる。その指さす方向には、人影があった。金色の光を帯びた長い髪、緋色のマントが揺れる――それは、ギルドの一員であるリリアだった。彼女はまるで俺たちを待ち伏せていたかのように、冷静な表情で立っていた。
「ようやく開いたわね。思ったよりも時間がかかったじゃない。ってヨウマ!? こんなところで何をしているの?」
リリアの淡々とした声が静寂を破る。驚きと戸惑いが交錯する中、俺はどうにかして言葉を絞り出した。
「それはこっちのセリフだ。なんでリリアがこんな初心者用ダンジョンにいるんだ?」
問いかける俺に対し、彼女は肩をすくめながら、どこか余裕のある表情を見せた。
「初心者用のダンジョン、ね。確かにここはそのはずだったわ。でも、状況が変わった。それを確認するために私はここに来たのよ。」
「状況が変わった……?」
フィオナが眉をひそめ、慎重な様子でリリアの言葉を問い返す。リリアは鋭い目で俺たちを見つめながら、少しだけ声のトーンを低くした。
「このダンジョンの魔力濃度が異常に高まっているという報告を受けたのよ。それに加えて、このダンジョンに“何か”が存在しているのを感知したの。ギルドの調査でもそれが何なのかは特定できなかったけど、放置しておくには危険すぎるわ。」
「“何か”?」
曖昧な表現に引っかかりながらも、俺は彼女の説明に耳を傾けた。リリアは一瞬視線を遠くに向け、険しい表情を浮かべた。
「正確には、“強力な魔力の波動”が感知されているの。でも、それが魔物なのか、人工物なのか、それとも別の何かはまだ不明よ。ただ一つ分かっているのは、その存在がこのダンジョン全体に影響を与えているということ。」
「じゃあ、俺たちが出られなかったのも……?」
俺が扉を指さしながら言うと、リリアは軽く首を振った。
「それはギルドが仕掛けた封印よ。低ランクの魔物なら脱出できないようにね。でも、高ランクのモンスターならこんな封印くらい簡単に破るわ。私たちは、その魔物を排除するために来たの。」
「つまり……この先に進むつもりってことか?」
俺が確認するように問いかけると、リリアは微かな笑みを浮かべて頷いた。
「その通りよ。ここまで来た以上、原因を突き止めなければならない。それが私たちギルドの役目だから。」
「でも、一人で? いくらあなたが強いとはいえ、相手が未知数だと……」
フィオナが心配そうに声を上げる。その様子に、リリアは少しだけ表情を緩めた。
「一人じゃないわ。ヨウマたちもいるでしょう?」
「えっ?」
俺とフィオナが同時に驚きの声を上げた。リリアはその反応に笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「冗談よ。でも、力を貸してくれるなら歓迎するわ。この異常事態を放置するわけにはいかないでしょう?」
彼女の言葉に俺は押し黙った。確かに、このまま見過ごせば危険が街を脅かす可能性がある。
「どうする? カイ」
フィオナが真剣な目で俺を見つめて問いかける。その視線には、不安と共に強い決意が込められていた。
「……仕方ない。ここまで来たからには、やるしかないだろう。」
そう答えると、フィオナは小さく微笑み、リリアも満足そうに頷いた。
「決まりね。それじゃあ、先に進みましょう。原因を突き止めて、これ以上の被害を防ぐわよ。」
リリアの言葉に従い、俺たちは未知なる危険が待ち受ける第五層へと足を踏み入れた。
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