第24話 第三層Ⅰ
薄暗いダンジョンの中、俺たちは慎重に足を進めた。第三層はこれまでの階層とは違い、湿気が多く、壁や床はツルに覆われている。俺は先頭を歩きながら、フィオナに向けて声をかけた。
「フィオナ。この階層には毒を使う魔物が多いとゴードンから聞いている。気をつけて進もう。」
「わかった」
俺たちは訓練の成果を信じ、慎重に進んでいく。
数分後、静寂を破るように低い唸り声が響いた。音の方向に視線を向けると、霧の中から姿を現したのは、巨大なサソリ型の魔物だった。
「
【鑑定結果】
名前:ポイズンスコルピオン
職業:魔獣
装備:外殻甲殻
スキル:なし
所有魔法:毒針、麻痺付与、振動感知
魔法属性:なし
鑑定の情報が脳裏に流れ込む。
「硬い外殻と毒が厄介だ。しかも振動感知で周囲の動きを察知する能力もあるみたいだ。」
フィオナは鋭く頷き、作戦を練り始めた。俺たちの間には無言の緊張が漂う。
「まずは様子を見るわ。直接攻撃は危険だから、罠を使って動きを封じるのがいいと思う。」
フィオナはそう言うと、腰に下げた小さな袋から何かを取り出した。中には光を放つ石が入っていた。
「何だ?」
「これは魔力石っていうの。この石に更に魔力を溜めると、周囲に強い振動と光を発生させられるの」
「これで振動感知を逆手に取る。魔力石を使って注意をそらし、隙を作るわ。」
俺は彼女の計画に頷き、サポートに回ることにした。手にはフィオナから借りた短剣を握りしめ、背後から奇襲をかける準備を整える。
フィオナが魔力石を投げ込むと、それはサソリのすぐ近くで爆ぜ、眩しい閃光とともに音を立てて振動を生み出した。ポイズンスコルピオンは反応して一瞬だけ動きを止める。
「今だ!」」
フィオナの合図で俺は一気に距離を詰め、弱点と思われる腹部を狙った。短剣が外殻の隙間に深く刺さり、サソリは苦悶の唸り声を上げた。
しかし、毒針が素早く俺に向かって伸びてきた。間一髪で身を引いたものの、針先が掠めた感覚が腕を駆け抜ける。
「やらせない!」
フィオナが素早く魔法を放ち、火球がサソリの胴体に炸裂した。その勢いでポイズンスコルピオンはふらつき、完全に戦意を喪失したようだった。
「ねぇヨウマ。このポイズンスコルピオン、結局は第四層のボスじゃないよね?」
フィオナが疑問を投げかけると、俺は頷きながら言った。
「ああ、こいつはただの手下だ。ボスはもっと奥にいるはずだ。」
はっきり言って、手応えがなかった。恐らく、このポイズンスコルピオンはボスじゃない。
俺たちは一息ついて戦闘の余韻を振り払った。フィオナが魔力石を再度確認し、俺も装備を整え、気を引き締めた。
「この先に本当のボスがいるなら、次はもっと手強いはずだ。フィオナ、準備はいいか?」
「うん、いつでも行けるわ。」
俺たちはポイズンスコルピオンの死骸を迂回しながら、さらに奥へと進んだ。湿度がさらに増し、視界を遮る霧も濃くなっていく。フィオナが手にした魔力石のわずかな光だけが、道を照らしてくれる。
「これ以上進むと、間違いなくボスの領域に入るわね。」
フィオナが小声で告げる。その言葉に俺も頷いた。ここから先は一瞬の油断が命取りになる。
やがて、道が大きな空間へと繋がっていることに気づいた。開けた場所の中央には、まるで祭壇のように盛り上がった岩の台座があり、その周囲を毒々しい紫色の霧が漂っている。
そして、台座の上に鎮座していたのは、全長3メートルを超える巨大な魔物だった。鋭い爪、甲殻を纏った強靭な体躯、そして尾には異様に太く輝く毒針を持つ。その威圧感は、これまでのどの敵とも比べ物にならない。
「…間違いない。こいつがこの階層のボスだ。」
俺がそう言うと、フィオナが真剣な表情で魔物を見つめる。
「
【鑑定結果】
名前:ヴェノムエンペラー
職業:階層主
装備:毒刃甲殻
スキル:毒霧展開、麻痺針連射、自己再生
所有魔法:毒霧操作、衝撃波
魔法属性:毒
「厄介な能力が揃ってるわね…。特に毒霧展開はこの狭い空間じゃ逃げ場がないかもしれない。」
フィオナの声には緊張が混じっていたが、それでも彼女は動揺を見せない。
「俺が囮になる。その間にフィオナが決定打を狙ってくれ。」
そう提案すると、フィオナは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに鋭い目つきで頷いた。
「いいわ。でも無理はしないで。毒針や霧には絶対に触れないように動いて。」
「了解だ。」
俺たちは視線を交わし、戦闘態勢に入った。その瞬間、ヴェノムエンペラーが低い唸り声を上げ、巨大な尾を振り上げて警戒心を剥き出しにした。
俺たちの第三層攻略が、今始まる。
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