Vtuberに恋したらリアルにもてはじめたんだが

関原みずき

丸山金彦は気付かない

『鏑木ミルクのお悩み相談教室』



「僕の迷える子猫ちゃん(視聴者)達、今夜もミルクのお悩み相談がはじまるぜっ、投稿をいつでも待ってるからな。」


「早速、今夜もたくさんのお便りがきてるからな、どんどん消化していくぜっ!」

 鏑木ミルクのお悩み相談は視聴者のお悩みを面白可笑しく鏑木ミルクが解決している人気コーナーである。今夜もミルクに助けを求める視聴者がたくさん待っていた。


『ミルクさんこんばんは、私には好きな人がいます。どうしても相談したいことがあってここに投稿しました。…』


「これは恋愛相談かっ、僕は恋に悩む子猫ちゃんが大好きなんだ。恋愛マスターであるこの僕に任せなさい。最高の結果をもたらして見せようか。」


『私と彼は幼馴染で中学に上がるころまではよく遊びに行くほど仲が良かったんです。でもだんだんと話さなくなってしまって、今では朝少し話すくらいで学校でもほとんど話しません。


 しかも最近好きな人が私以外にできてしまったようで私に話しかけもしてくれなくなりました……』


「これは子猫ちゃんにとってもショックかもしれないね、きっと君にはもっと似合う彼ができるはずだから、新しい出会いを見つけよう。ねっ。それが賢明さっ。…続きがあるみたいだ。」


『その女をそれとなしに聞いてみたのですが、どうやらそれはVtuberと言う人でした。さらによく聞いてみると、特に「鏑木ミルク」という人にどうやら本気で恋をしているそうです。』


『それがあなたです。私の彼を返してください。あなたなんかに渡しません。絶対に許しません。でも配信を見始めてからミルクちゃんに少しはまってしまった私もいます。一体どうしたらよいでしょうか』


「今回のお便りはずいぶんヘビーなお便りになってしまったようだ、なんだなんだこれ。子猫ちゃんの好きな人が私だってこと?それはなかなか僕にとってはとっても嬉しいが子猫ちゃんにとってはのっぴきならない自体じゃないか。」


「私は子猫ちゃんの恋敵になってしまったのか。困ったな、しかも子猫ちゃん私のファンでもあるのか。ほかの子猫ちゃん達はどう思うかい」


『草生える、www』

『これで彼氏ができましたね、人の男を奪うなんてなかなか大胆』

『朗報、鏑木ミルクさん彼氏ができる』

『宣戦布告されたミルクさん、どうするのか』

『俺にはこんな高校生活はなかった…』


 コメント欄は甘酸っぱい青春の香りに花を咲かす視聴者が大量のコメントをしていた。中にはこの投稿主が指しているのは自分ではないかと勘違いするものまで出てきていた。大半の視聴者たちにはこの話題は眩しすぎたようである。


「どうやらほかの子猫ちゃんには解決策はもっていないようだ。全く、僕も持てすぎて困っちゃうな~。今回は本当に困った、困った。僕にガチ恋している子猫ちゃんはもう僕の物だからな。君には渡さないよ。君のライバルだ。」


「今配信を見ているのかどうかわからないけど、君も僕のことを好きになり始めているんだろ。僕は男も女もみんなまとめて愛してあげるからさ。僕のとりこになりな。きらっ!」


「このお悩みは解決したな次の迷える子猫ちゃんを救わなくては」

 配信は次の悩みを解決しようとしていた。配信は夜遅くまで続いていく『鏑木ミルクのお悩み相談』は夜が更けるまで続いていった。





 この配信を見ているひとりの高校生がいた。丸山金彦である。当然この配信を見ていたがお悩み相談で自分を指しているとは思いもしていなかった。


 毎日高校に行き、部活をさぼって配信があるかどうかの確認をして夜になったら生放送を見るのが俺の最近の日課だ。姉に教えてもらったが、配信に参加しているだけでは俺の嫁である「鏑木ミルク」に名前を憶えてもらえないのでファンアートを描くことを最近の日課にしている。


 この間書いた渾身の一枚が珍しくのなんと本人から『いいね』されたのでとてもうれしい。ノートの端に書いただけであり、これならいくらでも描けることに気が付いた。


 もはや結婚まで近いのでは。明日高校で自慢をすることにした。


 昨日も配信を見ていたので眠いが太陽は燦燦と照り付けているので仕方なく起きて電車に乗ると有馬紫乃に会った。家が近所だからいつも会うが。


「おはよう金彦。なんかいいいことあったの?いつもスマホばっかり見てるのに私に話しかけるなんてめずらしいじゃない」


「ちょっと見てくれ、これ。」

 いつでも見せられるように準備しておいたスマホ画面を見せる。そこにはたくさんのいいね通知の跡が残っていた。


 何がそんなに良かったのか不思議がっていたが、通知欄を見つけると目を大きく見開いて異常な通知の数を見つけて驚いている。


「何でこんなに『いいね』があるのよ、まさか何かやらかしたんじゃないでしょうね。」


「違うって、昨日描いたファンアートがバズったんだよ、やっぱり『ミルク』ファンは見る目があるね。」


「そんなにいい絵なら見せてもらおうかしら」

 ホームにある投稿一覧をみると明らかに数値が多い『ミルク』の絵が乗せられている。我ながら渾身の出来だが果たしてなんて言うのか。


「まあ、金彦にしてはそこそこ、書けてるんじゃないかしら。私の方が100倍上手く書けるけど」


「なんでだよ、こんなにバズるくらい人気になったんだからもっと驚いてくれてもいいだろ」

 確かに驚いてはいたがなんだか思っていた反応と違っていて、少しがっかりした。どこがそんなに気に入らなかったのか。少し不満な表情をしていたのかもしれない。言い訳をしてきた。


「確かにこんなにいっぱいあって、私うらやましいわ。こんちくしょうめ!でもコメントを見なさい。」


 スマホを返されるとコメントは明らかにたくさんついていたが、一つ一つのコメントをよく見返すと。


『ミルクはやっぱりカワイイですね』

『やっぱり絵の初心者はミルクを書くに限りますよね。私も最近書き始めました』

『昨日の名場面はめちゃくちゃ笑っちゃいました』

『まんまるお目目がかわぅいいいい』


 と絵を褒めているんだか、いないんだか。なんだかまあ『ミルク』がかわいいということが伝わっていたのでよしとはするが。でも絵についてはそんなに褒められはいなかった。


 少しだけショックを受けたがかわいさはきちんと描けているのだからいいだろう。


「私もこの『ミルクちゃん』書いた事あるわよ。ほら。」


 紫乃のスマホを渡されて見てみると明らかにレベルが違った。絵を投稿していたが明らかにフォロワーが多い、絵もどこをどう見てもかわいい。


 俺の嫁である『ミルク』がお腹を出してパジャマで寝そべっている姿を描いていたが表情に服装に可愛さに、レベルが一段上である。


 同じ「ミルク」を書いてあるはずなのにこんなに違うのか。コメントもたくさんある。


「かわいいでしょ、みんな褒めてくれたわ、これ。」

『もはやこれは写真です、上手でかわいい』

『ミルクの良さが前面に出ていますね~絵もめちゃくちゃうまい!』


 どのコメントも確かに誰もが絵のかわいさを文句なしに認めていた。


「私の絵もいいでしょ、あんたのと比べなさいよ」


 別に責められる筋合いはない。もとより俺よりうまいことは分かっている。昨日見たテレビなどの話していると最寄りの駅に着いた。


 勝負ではないが駅についたから今回の勝負は引き分けである。スマホを返して学校に歩いて向かう。


「さっきの絵かわいかったでしょ。私がおんなじ恰好をして写真に撮って書いたのよ。つまり、あの絵がかわいいなら、私もかわいいわ」


「それは『ミルク』がかわいいからだ。紫乃は2番目だろ」

 全く何を言っているのか、この世に『ミルク』に勝てる存在などいないというのに。それと紫乃が知っているなんて意外であった。最初に配信を見るように勧めたときは全然興味がなさそうにしていたのに


 いつの間にかにはまっていたのだろうか。


「私の写真をもっと見たいでしょ、もう一個見なさい」


 今度渡された写真には同じポーズで下着姿の紫乃が映っていた。少し恥ずかしそうに顔を赤らめさせている。黒いスポーツブラジャーに白いパンツが見えていてエッチである。『ミルク』よりももしかしたらかわいいかもしれない。


「これ俺に見せちゃいけないやつだろ。なんも俺は見てないぞ」


「何照れてんのあんた。これは見せてもいいブラとパンツよ。そんなに私の体は安くないわ。私の体形いい感じでしょ。ちゃんと運動してるのよ。あなたにはいつでも見せてあげるわ」


 まあ紫乃が恥ずかしがっていないのは、別にいつでも見せられる恰好なのだろう。もう一度見ようと思ったら紫乃にスマホをひったくられてしまった。


 結局高校につくまで紫乃は俺の前を歩き一度も顔を見せてくれることはなく、耳は少し赤くなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る