甘くなりたい。

@09130000

第1話

砂糖いっぱいの甘いお菓子、レースがたくさん縫われた可愛いお洋服、お人形さんのように染まった赤い頬。全て私には当てはまらなくていつまでも名前のようにはなれない。



「あまーおはーー」

「おはよ」

「今日転校生くるらしいよーめずらしくね」

「えーーー高校に転校生とか来るんだ」

そんな日常会話をしていると

キーンコーンカーンコーン

「おはようございます今日は転校生が来ています、入ってきて」

ガラガラッ

「初めまして、中村佳子です。好きなものは可愛いものと子猫です。お願いします。」

そこには黒髪縦ロールでBABYの髪飾りをしたまるでお人形さんのような少女が立っていた。教室中がざわついてみんなが驚いている中、私は彼女から目が離せなかった。私の理想を詰め込んだような子だったからだ。佳子に見惚れていると、いろんな声が聞こえてきた。

「ねえ、あの佳子って女キモくない?」

「何あの髪型笑笑へんなの。」

「頭悪そうな格好笑」

「あんなのぶりっ子じゃん可愛いものと子猫が好きって狙いすぎでしょ笑笑」

「ねえあまもそう思うよね!」

「……………う、うん。」

私は本当にダサい。周りに嫌われたくなくて本当の思いはいつも言えないまま流されてばかり。思っていないことまで「うん」と返してしまう自分が大嫌いだ。


佳子は派手な見た目でありながら性格にも棘があった。

みんなの新しい珍しいものに対しての好奇心からくる質問攻めに冷たい、この見た目からは考えられないような返しをするのだ。


佳子がクラスで浮くまでにそう時間はかからなかった。


やがて佳子は私の周りの人から嫌がらせを受けるようになった。グループ活動では必ずあまり、教科書や机に落書きされ、上履きに虫が入ってることもあった。

私は一人になって孤立することが怖くてそれを止めることはできなかった。いや、止めようとしなかったんだ。私は自分の好きなものをそのまま貫いている彼女に憧れながらも嫉妬していたから。そのままいなくなってくれれば私のこの気持ち悪い部分も一緒に消え去って無かったことにしてくれるんじゃないかと思った。


ある日、佳子に対しての嫌がらせで度を超えたものがあった。佳子がトイレに行っている間に、佳子がいつも大切に持ち歩いているうさぎのマスコットを壊そうとしていたのだ。マスコットの腕を切ろうか悩んでいたら佳子が帰ってきて勢いで止めようとしたが、遅かった。うさぎの腕は床に落ちてしまった。私はまた止めることができなかった。

「ふ、ふんこんな所に置いておく方が悪いのよ!!」

「みんな行こーー」

スタスタ……

「………。」


私はびっくりした。あんなに強気な佳子が今回は泣きそうになっていたからだ。いつもとは真反対な表情に不覚にもドキッとしてしまった。

マスコットは壊れてしまったけど、幸いにも斬られたのは右腕のみだった。私は小さい頃から裁縫が趣味だったのでこれくらいは治せた。

「佳子さん、ちょっと待ってて。」

「………え?」

そう言い、佳子に待ってもらいいつも持ち歩いている携帯用の裁縫道具を持ってきて、うさぎの腕をその場で治してみせた。

「すごい…佐藤さんこんなことができたの!本当に嬉しい…。ありがとう!」

佳子はみんなには見せたことのような優しい表情でお礼を言ってくれた。

「そんな…私はずっと見ていることしかできなかったし助けられなかった。お礼を言われる筋合いなんてないよ。」

「あのね、佐藤さんは私に声をかけてくる人の中で、初めて嫌味を感じない人だったんだよ。だから話すことができて、しかも大事なうさぎのことも救ってくれてとっても私嬉しいの。」

佳子が私に話しかけている。私と会話している。私が今知っている人間でおそらく1番可愛いらしい女の子が私だけに微笑んでくれて、お礼を言ってくれた。ずっと佳子がいなくなれば良いと思っていたのに、感謝の気持ちを向けられて私はやるせない気持ちでいっぱいになった。



次の日の朝、席に座っていたら横から甘いバニラの香りがした。振り返るとそこには佳子がいた。

「佐藤さん、おはよう」

「…お、おはよう」

「何その返事笑びっくりしすぎ」

「そうかな」


この日から佳子が私に話しかけてくれるようになった。

佳子のことをいじめていた人達は嫌な目で私を見ていた。今までの私なら人に嫌われたくないと言う恐怖できっと押しつぶされそうになっていた。だけど今は中村佳子という私の憧れで、私が初めて興味を持った人間が話しかけてくれている。今回は1人になりたくないから好きな物を知りたいんじゃない、佳子が気になるから好きなものが知りたいんだ。学校でも周りからの反応は前より気にならなくなった。


佳子とたくさん話して、LINEでやり取りをするようになって、一緒に下校した。1人じゃない帰り道はいつもより時間の流れが早く感じた。

「私、こんなに人に気を遣わないで話せたの初めて。」

「私も!こんな人に出会えるなんて思ってなかったから嬉しいよ、転校してきて良かった。」

「そういえばさ」

「うん?」

「なんで佳子さんは転校してきたの?ずっと気になってて」

「ああ、前の学校でねいじめられてたの。それでいじめてきてた人に万引きしたって濡れ衣着せられて学校にいられなくなって転校してきた。」

なんで毎回佳子はこんな目に遭わないといけないんだろう。可愛いことの代償がこんなに大きいなんておかしいと思った。

「正直、転校しても何も変わらないだろうと思ってたんだけど、あまちゃんが私を助けてくれた。うさぎを救ってくれて私の心も救われたの。こんなに楽しい学校生活初めて、あまちゃんは私のヒーローだよ。」

口から出る言葉まで綺麗でやっぱりこの子は生粋のお姫様なんだと確信した。

「それはこっちのセリフだよ、佳子さんこそヒーローだよ。」

「ええ!笑笑なんで?」


「……私今まで人に合わせてばかりの人生だったの。人に嫌われたくなくて好きなものも言えなかったし、独りになるのも怖かった。でもそんな時私の前に佳子さんが現れた。私の欲しいもの全部持ってる人が現れた。好きなものを全力で楽しんでて、周りの視線なんか気にしないで一人でいてすごくかっこよかった。そんな佳子さんを見て、関わって思ったの。独りになるのは怖いってずっと思ってたけど、好きなもの、言いたいこと押し殺してまで誰かと一緒にいるほうがよっぽど独りぼっちだって事。だから今佳子さんと話していてやっと二人になれてる気がするよ。」


「あまちゃんにとって私がそんなカッコよく写ってるなんて思ってなかったから嬉しいな!でもね、私はそんなに強くないよ。どんなに好きなもの、可愛いもので着飾ってお洒落しても中身までは着飾れない。嘘つけない。周りのみんなからは気が強いと思われているけどそれはコミュニケーションを取るのが苦手なのと、私の事馬鹿にする人とただ話したくないだけ。」


「そうだったんだ」


「うん、私可愛いものが大好きだけど本当はマカロンよりラーメンが好きだし、家ではジャージでいたい。毎朝早く起きてお化粧するのも面倒くさい。みんな私を本物のお姫様だっていうけど全く違うの。ただ可愛く着飾って弱くてどうしようもない自分を偽ってるだけ。馬鹿みたいでしょ?笑」


「そんな事ない!!!馬鹿なんかじゃないよ。でも、私も佳子さんをお姫様みたいな人だと思ってた人間だからそんな所もあるんだってびっくりした。」

「引いたでしょ?」

「ううん、もっと好きになったよ。」

「なにそれ笑」

ずっと佳子を「お姫様」だと思って美化していたけど、「お姫様」なんて簡単な言葉では済ませちゃいけない人で、佳子も必死に自分にとって醜いと思うところに抗って生きてるただの女子高校生だって事に私は安心した。

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