30. 友人が出来ました

 無事に王城に到着した私達は、馬車を降りると一度控室に通された。

 そこでドレスやお化粧の手直しを済ませてから会場入りするらしく、王城の侍女さん達の確認を終えてからライアス様のエスコートで会場へと向かう。


「少し早すぎたかもしれないね。

 普段ならここでも談笑する声が聞こえてくるのだが……」


「後の方だと緊張しそうなので、早い方が嬉しいですわ」


「それなら良かった」


そんな言葉を交わしてからパーティーの会場に入ると、談笑する令嬢令息の姿が目に入った。

 会場はアイシューヴ邸にある広間の何倍も大きくて、天井には大きなシャンデリアがいくつも煌めいている。


 まだ人は多くないけれど、入口の方からは次々と参加者が入ってきているから、これだけ広くても少し混みあうような気がしてしまう。


「始まるまではこの辺で待っていよう。」


「分かりましたわ」


 ライアス様に促されて会場の奥の方に移動すると、私達の周りに人が集まってくる。

 何かが始まると思って身構えると、ライアス様は次々と挨拶を受けていた。


 ライアス様への挨拶が終わると、今度は私が挨拶を受ける番になって……。




「お疲れ様。初めてなのに忙しくさせてしまって申し訳ない」


「ライアス様もお疲れ様ですわ。

 練習していたので、これくらいは大丈夫ですわ」


「そうか、それは良かった。だが、無理は禁物だから、休憩したくなったら声をかけて欲しい」


「お気遣いありがとうございます」


 挨拶をし続ける練習もしていたお陰で何とかなったけれど、練習していなかったら今頃私は疲れ切っていたと思う。

 練習のお陰でまだ疲れは感じていないけれど、ここから三時間の立食パーティーに耐えられる自信は無い。


 だからライアス様の気遣いは嬉しかった。

 主催者の婚約者が途中でパーティーを抜けても大丈夫なのか不安だけれど……。


「しかし、エリーと婚約したと言った時の皆が驚く顔は面白かったな」


「でも、皆さん納得した様子でしたわ」


「俺が一切女性に興味を示していなかったから、驚いただけだろう。

公爵令嬢と王太子の婚約には何も問題無いから、納得するのは当然だ。納得しない人が居ても、あらゆる手を使って納得させる」


「あまり危険な事はしないで欲しいですわ……」


 そんなお話をしているとパーティーが始まったみたいで、穏やかな曲調の音楽が流れ始めた。

 すると私の周りにはご令嬢方が集まってきた。


「エリー、ごめんなさい。貴女のことを話したら、一緒にお話しをしたいと言われてしまって……」


「大丈夫ですわ。皆さん、改めてよろしくお願いしますわ」


 これは貴族の友人を作る良い機会だから、レティ達の輪に加わる私。

 ライアス様は流石に一緒に居るのは無理みたいで、すぐ近くで数人のご令息とお話を始めていた。


「エリシア様、そちらの指輪は殿下からの贈り物でして?」


「ええ。ライアス様も同じものを着けていますわ」


「エリシア様の趣味を伺っても?」


「ずっと勉強や作法の練習で忙しくて、趣味はまだ見つけられていませんの。

 皆さんはどんな趣味をお持ちでして?」


「わたくしは読書を趣味にしておりますわ。

 今は王子様と伯爵令嬢の恋を描いたお話を読み進めておりますの」


「どこかで聞いたようなお話ですわね……」


 一斉に私へと視線が集まってくる。

 私は『元』が付くけれど、伯爵令嬢と王子様の恋で連想されても仕方ないのかもしれない。


「私は刺繍を嗜んでおりますわ。刺繍入りのハンカチーフを私の婚約者にプレゼントした時、すごく喜んでいただいて。毎月、必ず贈るようにしていますわ」


「わたくしは生花いけばなが趣味になりましたわ。

 邸の中を華やかにすると、気分が晴れやかになりますの。家族の仲も以前より良くなって、幸せが増しますから、エリシア様にもお勧めしたいですわ」


「皆さん色々な趣味をお持ちなのですね。明日から順番に試してみますわ」


「もし必要でしたらお勧めの本をお持ちしますので、いつでも言ってください!」


「ありがとうございます」


「わたくしも、いつでもご一緒しますわ」


「私もご一緒しますわ」


 最初は不安だったけれど、レティのお陰であっという間に皆と打ち解けられて、パーティーが楽しいと思えた。

 どういうわけか私がお茶会を主催することが決まったけれど、この人達とならどんな形でも楽しんでもらえる気がするから、主催するのが楽しみだ。


 けれど、そんな時。

 コリンナとエルウィンが私の方に近付いてきている様子が目に入ってしまった。


 私のことに気付いているのかは分からないけれど、コリンナは真っ直ぐライアス様の方へと向かっていて、あっという間に私の真横を通り過ぎていった。

 そして、コリンナはこんな言葉を口にした。


「ライアス様ぁ、私を婚約者にしてくれませんか?」


「断る」


「そんなぁ、まだ話もしていないのに……」


「これが見えないか?」


「指輪……? もしかして私にプレゼントしてくださるのですか?」


 ……信じられない。

 婚約者が居る証を眼前に突き出されても、そんなことを言えるなんて。


 コリンナとエルウィンは挨拶に来ていないから、ライアス様と私が婚約していることは知らないはずだけれど、そもそも関わりが無い王太子様に馴れ馴れしく話しかけることが非常識なのよね。


「レティ。

こういう時って、強く言っても大丈夫かしら?」


「ええ。むしろ強く言うべきだわ。

 こういう時に下手に出ると、これから見下されることになるもの。家名を盾にしても難しかったら、私も協力するわ」


「ありがとう。最初は一人で頑張ってみるわ。

 皆さん、お話が盛り上がっている途中でごめんなさい。少し、コリンナと話をしてきますわ」


 コリンナが何を狙っているのか判断に困るけれど、私をまた不幸にしようと企んでいるかもしれない。

 そんなこと絶対に許せないから、私はコリンナと戦うためにライアス様の隣に足を向けた。

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