12. 久々のドレス
「早速だけれど、衣装部屋を案内するわ」
「お願いします!」
メアリ様に促されて、少し奥にある扉の方に向かう私。
その扉が開けられると、沢山のドレスが目に入った。
程よく間隔を空けてかけられているから、ここから見てもデザインはある程度分かる。
社交界に出るために使えそうなデザインのものから、部屋着に使いそうな簡素なデザインのものまで、数えきれないほど並んでいた。
「全部フィリアが一回も着なかったものだから、自由に着てもらって構わないわ。
趣味と違ったら、新しく仕立てましょう。お金は私が出すから、気にしなくて大丈夫よ」
「一回も着なかったものがこんなに……。
ありがとうございます!」
フィリア様というのは、王女様のことだと思う。お金に困ることが無い王家だから、買いすぎてしまったドレスが余ってしまったみたい。
こんなに準備をして頂いたのに断る方が失礼だと思うから、断る気にはならなかった。
けれど、どれも高級な生地を使っているから、うっかり汚した時のことが怖くなってしまう。
「まだどうなるか分からないけれど、エリシアさんは貴族令嬢らしい生活に慣れた方がいいから、今から着替えましょう!」
「えっ……今からですか!?」
「ええ、今からよ。
貴女達、手を貸してちょうだい」
「「畏まりました」」
私が戸惑っていると、メアリ様は侍女達を呼んできてしまった。
ライアス様は衣装部屋には入らずに部屋の方で待っているから、助けを求めることも出来ない。
コリンナはいつも派手なドレスを好んで着ていたから、着させ方は分かるけれど……今の私が着ても似合わないと思う。
「エリシア様、まずはお好みのドレスをお選びください」
「えっと……こんなに沢山あると選びきれません。
どういうのが良いでしょうか……?」
「エリシア様はまだドレスで動くことに慣れていないと思いますので、お好みが無ければ動きやすいデザインのものが宜しいかと思います。
この辺りは装飾が少ないので、動きやすいかと。ただし、この辺りのものは丈が長く踏んでしまうかもしれないので、こちらの方をお勧めします」
そんな言葉と共に差し出されたのは、飾り気が少ないシンプルなもの。色は私の髪と同じだけれど、ドレスの方が濃い色をしている。
今着ているのは、私がライアス様に助けられた日にイリヤさんが近くの町で買ってくれたものなのだけど、平民向けに売られているものだから王宮で過ごすには似合わないのよね。
だから着替えた方が良いのは分かるけれど、いきなりお高いドレスだと抵抗感がある。
うっかり転んで破いてしまったら、何かの拍子に汚してしまったら。考えるだけでも恐ろしい。
「こちらで宜しいでしょうか?」
「は、はい! これでお願いします」
「畏まりました。では、そちらでお着替えを致しましょう」
侍女さんに促されるままに姿見の前に移動すると、あっという間に着ていた服を脱がされてしまった。
ドレスを着せられるのもあっという間で、気が付けばどこかのお嬢様のような雰囲気になっている私と鏡越しに視線が合う。
「お待たせしました。いかがでしょうか?」
「すごく良いと思います! ありがとうございます!
この辺りが大きすぎる気もしますけれど……」
もともと私のために作られたドレスではないけれど、他のサイズはピッタリ。
だから着心地は良くて、少し動いてみても不快感は全くなかった。
「エリシア様はまだまだ成長されると思いますので、悲観されることは無いと思います」
「もうずっと背が伸びてないので、無理だと思います……」
そういえば、コリンナとエルウィンには成長期があったのに、私には無かったな……。
思い出すと悲しくなってしまう。
遅くても良いから成長期が来ると良いのだけど、期待は出来ないと思う。
女の子の方が男の子よりも成長期が終わるのが早いから、きっとこれ以上背は伸びない。
「孤児が十六歳になってから平均くらいの背丈まで一気に成長した例もございますから、悲観するには早いですよ。
それと、王家には無理やり背を伸ばす薬もあるようなので、どうしてもの時はそれを使われると宜しいかと」
「ありがとうございます!
もう少し希望を持ってみますね」
そんな言葉を交わしてから衣装部屋を出る。
するとイリヤさんとライアス様と目が合って、すぐに笑顔を向けられた。
「エリシア様、雰囲気がかなり変わりましたね。
ドレスの方はお気に召されましたか?」
「はい! 着心地がすごく良くて、満足しています。
でも、汚すのが怖くて落ち着かないです」
「気に入られて良かったです。
汚れても洗えば大丈夫ですから、お気になさらないでください」
確かにイリヤさんの言う通りかもしれない。
でも、中々落とせない汚れもあるから、どうしても気になってしまうのよね。
「エリー、似合っているよ。
もし汚れても、新しいドレスを仕立てればいいから、気にしなくて良い」
「それは勿体無いので、大切に着ます!
このお金は大切な税金ですから、贅沢なんて出来ません」
「王家のお金は、殆ど貿易で賄っているのだ。
そのお金で国内の物を買うことで、市井の経済を潤すことが出来る。だから、遠慮はしなくて良い」
「分かりました……」
ライアス様は洗うよりも新しいものを買う方が良いと考えている様子。
この贅沢は国民のためだと言われると、反対なんて出来ない。
私の感覚と違いすぎて、慣れるのが大変そうだ。
でも、慣れてしまったら取返しが付かないと思うから、今まで通り物は大切にしようと決めた。
そんな時、今度は執事さんが部屋の扉をノックして、声をかけてきた。
「ライアス様、エリシア様。
夕食の用意が出来ましたので、ダイニングまでお願いします」
「分かった。
エリー、王宮の説明が全然出来ていなくて申し訳ないが、先に夕食に行こう」
「分かりました」
そうして、私はライアス様の案内でダイニングに向かうことになった。
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