第4話 青春レポートのネタは豊富にある?
そんな中、浅岡さんが俺のバイト先であるラーメン屋で昼食をとりたいと言ってきた。これも青春レポートのネタになると思い、彼女達を案内する。
「深谷くん。バイト先のラーメン屋はどういうところなの?」
歩いて向かっている途中、浅岡さんが声をかけてきた。
「高齢の夫婦が経営してる『ヤマト』って店だ。個人店だし内装・外装共に古いから、2人には合わないかもしれないな…」
特にSNSが好きな鍵染さんは厳しいかも。
「へぇ~。よくそのお店に入ろうと思ったね?」
「学食ばかりで飽きたから、大学周りを適当に散策してる時に偶然見つけたんだ。あの店は醤油ラーメンだけ出すんだが、なかなかうまいぞ」
その味に惚れて、俺はあの店に応募する決意をした。
「そういえば、深谷君は醤油ラーメンが好きらしいわね? 味の好みが合って良かったじゃない」
「鍵染さん。俺が梶田教授と話した事、覚えてたのか?」
「当然でしょ。友達の事なんだから」
「あたしもちゃんと覚えてるからね」
自己紹介をしっかり覚えててくれるのは、嬉しさと恥ずかしさが入り混じるぞ。
大学から歩いて数分後。俺達は『ヤマト』の前に到着する。
「ここだ。…何とか入れそうか?」
「全然問題ないよ? 深谷くんがあんな事言うから、お化け屋敷っぽいのをイメージしちゃった」
「深谷君、こういうお店は“レトロ”なの。味があって良いじゃない」
「2人共、受け入れてくれて助かる。早速入ろう」
俺は店の扉を開け、最初に入る。
…大将と奥さんの
「いらっしゃ…って何だ、
「
「大将・美香子さん。昼には早い時間ですが、大丈夫ですか?」
ここに来る前に鍵染さん・浅岡さんと連絡先を交換したり、
「大丈夫じゃなかったら『営業中』の看板は出さないぞ」
「そうよ。気にしないでちょうだい」
「ありがとうございます。実は俺だけじゃなくて、もう2人いるんですが…」
タイミングを察したのか、鍵染さんと浅岡さんが店内に入ってきた。
「深坊。お前、彼女作ったのか?」
「違いますよ。友達です」
「初めまして。鍵染 沙織といいます」
「あたしは浅岡 真弓です」
「2人共、礼儀正しくて可愛いな~」
「…お父さん?」
デレデレしてる大将を、ドスの利いた声で止める美香子さん。こんな彼女初めて見た…。
「すまんすまん。お前達、好きな席に座ってくれ」
「じゃあ、カウンター席で良いですか? 作ってるところ見てみたいです」
浅岡さんが興味を示す。
「もちろん良いぞ」
「ありがとうございます♪」
俺は浅岡さんの隣に座ろう。鍵染さんもそうすると思っていたが、何故か俺の隣に座ってきた。さっきの講義室みたいに挟まれたぜ…。
「お嬢ちゃん達、この店は醤油ラーメンしか出さないんだ。悪いな」
それは道中で俺が言ったが、“炒飯や餃子もない”という意味だ。言葉足らずだったかもしれないが、メニュー表がなければ察してくれるだろう。
「ラーメン1本で勝負するなんて凄いですね~♪」
「だろ? 男は1本勝負よ!」
「お父さんは不器用なタイプなの。こだわりがある訳じゃないわ」
「美香子。余計な事言わないでくれ!」
それでも経営が成り立つなら問題ないよな。
「大将。鍵染さんは小盛でお願いします」
俺と浅岡さんと違って、それほど腹は減ってないらしい。
「はいよ! すぐ作るからな! お嬢ちゃん達!」
大将、いつもより口数が多いぞ。女子2人の前だからか。
「できたぜ!」
大将が完成した醤油ラーメンを俺達の前に置く。
「うわぁ~、おいしそうだね。沙織ちゃん」
「そうね」
チャーシュー・メンマといった定番の具材はもちろん、ネギ・もやし・人参といった野菜類が多いのも、『ヤマト』の醤油ラーメンの特徴だ。
『野菜をたくさん食べて欲しい』という美香子さんの願いが込められている。
「お嬢ちゃん達、食べる前に聞いてくれ」
大将、アレを鍵染さん達に言う気か。
「オレは食事中にペラペラおしゃべりされるのが好きじゃない。だから食べ終わるまで、なるべく私語厳禁で頼むぜ」
俺もその考えに賛成だが、女子2人にはキツイんじゃないか? 小・中・高と、食事中に黙ってる女子を見た事ないぞ。
「わかりました」
「あたしお腹ペコペコだから、おしゃべりする余裕ないです」
そんなに減ってたのか、浅岡さん…。なんて事を思いながら、醤油ラーメンを頂く。
左右の2人の様子を見た限り、難なく食べ終わったようだ。…浅岡さんはスープを飲み干している。結構豪快だな。
「おぉ! そっちのお嬢ちゃんは、スープを全部飲んでくれたのか!」
「コスパが気になるので…」
「無理しなくて良かったのに…」
心配そうな様子を見せる美香子さん。
「全然無理じゃないです! 飲みやすいスープだったので飲んじゃいました!」
一般的にラーメンのスープは全部飲むべきじゃないが、口を挟む必要はない。
……食器が下げられ、美香子さんが洗い始める。
「深谷くん・沙織ちゃん。今日のレポートはこの店の事で良いよね?」
「俺は最初からそのつもりだ」
「『ヤマト』さんは、レポートを書くのにふさわしいお店よ。書かない理由はないわ」
「レポート? 食レポの事か?」
大将が気になるのは当然だな。説明するとしよう。
「青春が詰まったレポートねぇ…。教授ってのは、何考えてるかわからん」
良い機会だから訊いてみようかな?
「良ければですが、大将の青春の思い出を教えて下さい」
「青春の思い出? 色々あるが、すぐ思い付くのは友達とどこかに遊びに行った事だな。 今は夏だし、お嬢ちゃん達と海なんてどうよ?」
2人の反応が気になるので、顔色を窺う。
「水着はまだ恥ずかしいな~♪」
「深谷君。嫌らしい目で見ないでくれる?」
満更ではない様子の浅岡さんに対し、鍵染さんは厳しそうだ。その段階はまだ早いな。
「オレがガキの頃は、友達の弟も混ざって一緒に遊んだもんだ。一緒に遊べば、歳の差なんて気にならなかったぜ」
そういえば、俺達3人には1歳下の妹がいる共通点がある。その妹達と遊ぶのは無理でも、何かしらの接点があれば“青春レポート”の役に立つかも?
「後は何と言っても『恋』だな。恋抜きで青春は語れないだろ」
青春レポートは今日から土日を除いた、来週の金曜日までの10日間書く必要がある。そんな短期間で恋なんてできる訳がない。これはパスだな。
「あれこれ言ったが、青春に正解・不正解はないはずだ。好きなようにやれば良いんじゃないか?」
「…確かにそうかもしれませんね。大将、ありがとうございました」
「良いって事よ」
大将の話を聞いた後、俺達は『ヤマト』を出た。俺は従業員割が適用され、鍵染さん・浅岡さんは俺の紹介って事で少し安くなった。
それでも学食よりだいぶ高いが、それに見合う満足度はあるように思える。
「深谷君・浅岡さん。悪いけど、私そろそろバイトがあるの」
鍵染さんは、ファミレスでバイトしてるんだったな。
「そっか。明日の事はこれから深谷くんと決めるから、後で連絡するよ」
「ありがとう、お願いね」
そう言って、鍵染さんは足早に去って行った。
「深谷くん。あたしの水着見たい? 正直に言ってね」
大将の話を掘り返してくるか。
「……見たい」
この場で嘘を付けるほど器用じゃない。
「そう言うと思ったよ。でも、今はまだその時じゃないの。ゲームでいう『好感度』が足りないから」
俺達は今まで顔見知りだったものの、話したのは今日が初めてだ。好感度が足りないのは当然だろう。
「さっきの大将さんの話で、弟君の事が出たじゃない? あれ聞いて、
「紗矢?」
「あたしの妹だよ」
彼女も俺と似たような事を考えたようだ。
「あの子と会えば、深谷くんの青春はもっと充実するかもしれないよ? どう? 興味ある?」
「あるといえばある…」
断言すると“女好き”に思われそうだ。濁すのが正解だろ。
「わかった。紗矢に話してみるね」
その話をしてから、俺は浅岡さんと別れた。彼女の妹さんに会うなら、いずれ鍵染さんの妹と俺の妹の
最近聡美とロクに話してないが、その時が来たらどうすれば良いんだ? そんな事を考えながら帰路に就くのだった。
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