単位を落としたら、何故かお見合いが始まりました(ライトVer)

あかせ

第1話 お見合いを始めよう

 「“マクロ経済学入門”落としちまった…」


俺は自室でスマホを見ながら独り言を漏らす。大学1年の春学期が終わり、今は夏休みに入ったばかりだ。


大学の専用ページで単位の取得状況を確認できるので、一通りチェックしてみた。取る気がない単位の行方はどうでも良いが、マクロ経済学入門は取るつもりで必死に勉強したのに…。


秋学期は春以上に真面目にやらないと。そう思った時、“おしらせ項目”に書かれている、あるお知らせが目に入る。


『マクロ経済学入門をわずかな点数不足で落とした者に告ぐ。救済措置を与えるので、希望者は指定日時にいつもの講義室に来る事』


救済措置? よくわからんが助かる。あのじいさん、気が利く事するじゃないか!


担当の梶田かじた教授は口調や雰囲気が柔らかく、気さくな人だ。それがあの講義を受け続けた理由になる。科目はもちろん、教授との相性も大切な要素だろ。


指定された日時に予定は入っていない。忘れずに向かうとしよう。



 梶田教授が指定したのは、8月最初の月曜日の午前中だ。具体的には1限に相当する時間になる。この講義自体1限だったから、何ら違和感はない。


いつもの講義室に入ると、男子4人・女子3人が不規則に席に座っている。あと何人来るんだ?


「深谷君。君が最後だ」

教壇にいる梶田教授が優しく語りかける。


「すみません、遅くなりまして…」

遅刻してないのにラストかよ。


「気にせんで良い。わしの予想以上にみんなが早く集まっただけだから、深谷君が気に病む事はない」


「わかりました。席はどこでも良いんですよね?」

今日は講義じゃないから、念のため確認だ。


「もちろん。今まで指定した事があったか?」


「ないですね」

安心した俺は適当な席に座る。


「全員揃った事だし、これから救済措置について話そう」


一体どんな話になるのか?



 「今いる8人は、ほんのわずか合格の基準を満たさなかった。おまけしても良かったが、不正してはいけない」


当然の話だな。


「とはいえ、君達が努力したのは事実。その努力を無駄にしないために、救済措置を考えたのだ」


問題はその内容だ。何をすれば良いんだろう?


「わしが考える救済措置は…、『今いる8人でお見合いして、恋人を作ってもらう』事だ」


「は?」


つい声に出してしまった。周りが気になったので見渡すと、みんな呆然としている。梶田教授、ついにボケたか?


「この中で彼氏・彼女がいる者は?」


………誰も手を挙げない。良かった、男子で仲間外れにならなかったぞ。


「今の若者は携帯があって出会いやすいのに、何故有効活用しないのか…」


そんな愚痴言われても知らねーよ。


「未来の日本のために、そして若者に道を示すために、お見合いを決意したのだ」


こんなふざけた内容でも、誰も講義室を出ようとしない。単位のためか、他の人の動き次第かもな。


「今いるのは男子5人・女子3人だから、恋人が3グループ出来る事になる。その3グループの進展をレポートにまとめてくれたら、特別に単位を与えよう」


ちょっと待て。そうなると、男子2人が余るぞ。


「惜しくも選ばれなかった男子2人は、救済措置の対象外になる。申し訳ないが諦めて欲しい」


救済措置自体が特別だから、選ばれなかったとしても文句は言えない。


「これから教壇に立って、1人ずつ自己紹介してもらう。その後は質疑応答だな。全員済ませた後、アンケートを取るからな」


それでマッチしたら付き合う訳か。俺を選ぶ女子はいるのかな?


「この救済措置は初めてやるから、どうなるかわからん。とりあえずやってみようじゃないか」


確かに考えてるだけじゃ始まらない。


「やっぱり無理そうなら、今すぐ講義室を出て意思表示して欲しい。今回辞退しても、他のわしの講義に影響する事はないぞ」


梶田教授がここまで言うんだ。嫌な人は今すぐ出るはず。


………俺の予想に反し、誰も講義室を出ない。みんなOKって事か。俺も残るぞ。


「それじゃ、早速始めよう。最初は…深谷君にお願いしよう」


「俺ですか!?」

よりによって最初かよ!?


「最初は大変でもあるが、楽でもある。頑張って欲しい」


どうせやるなら、さっさと終わったほうが良いか。


「わかりました」

俺は席を立ち、教壇に向かう。

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