第2話 滾る闘争心と2人の聖女
「ちょっとすいません。どうかされましたか?」
俺は聖女とナンパ男たちの間に割り込み、聖女たちを自身の背中に庇うようにして声をかける。
「あ? なんだてめぇ」
「てめぇには関係ねーだろ」
当たり前だが男たちは明らかな嫌悪感を示し、俺に睨みを聞かせてくる。聖女たちはさっきまでの怯えた様子はなくなったが、今度は突然の俺の登場に困惑しているようだ。まぁ今はそんなことはいいか。
「関係ないのはそうなんですけど、こちらの女の子二人が怖がっているように見えたので声をかけさせていただきました。無理強いをするナンパなんてイマドキ流行りませんよ?」
「てめぇ‥‥俺たちのこと舐めてんのか?」
「言わせておけば好き勝手言ってくれるじゃねーか」
「痛い目に合わないとわかんねーみたいだな」
少し挑発をすると男たちは完全に頭にきたようで、各々臨戦態勢を取り始めた。聖女たちは男たちが臨戦態勢を取ったのを見て、恐怖と不安が入り混じった視線を俺に向けてくる。というかこんな安い挑発に乗るのかよ‥‥。
(う~ん、こんなところで殴り合いの喧嘩はしたくないんだけどなぁ。けど後ろの2人に被害が及ぶのも避けたいし‥‥)
「すいません聖女‥‥じゃなかった。お2人とも少し下がっていただいてもいいですか? 少し危ないことになるかもしれないので。あ、それとこれ持っててもらっていいですか?」
「「は、はい‥‥」」
俺は2人にそう伝え、持っていた買い物袋を渡すと、2人は袋を受け取り困惑しながらも素直にその場から下がってくれる。俺は2人が離れたのを見て、1度息を大きく吸い、自分の中にあるスイッチを入れる。
(あぁ、この感覚‥‥久しぶりだ)
俺は微かな高揚感を感じながら、俺を取り囲む3人の男たちを鋭い目で見据える。俺が全く怖がっている様子を見せなかったからか、男たちは多少びくつきながらも、人数有利の余裕からか口元に浮かべた不敵な笑みは崩さない。
「あの‥‥やっぱり危ないですよ。いくらなんでも3人相手なんて」
「柴乃ちゃんの言う通りですよ。私たちのことはいいですから」
後ろにいる聖女2人が心配そうな声で俺を諭そうとしてくるが、俺は心配には及ばないと静かに首を横に振る。見たところこの男3人は、武術の経験だったりそういうのはなさそうで、ただ人数有利で強気になっているだけに過ぎない。そして俺はそんな素人相手に負けるほど、ヤワな生活を送ってきたわけではない。
「かかってこいよ‥‥3人まとめて相手してやる」
「へぇ‥‥言うじゃねぇか」
「後悔しても知らねぇからな」
そう言い終わると同時に、俺を囲んでいた男のうち、向かって左側に立ってい男が俺に殴りかかってくるが、武術経験のない人間の遅い攻撃を避けるなんてことは造作もない。俺は体を捻って半身になり相手の拳を避けると同時に、攻撃を外してバランスを崩した男の腕を片手で引っ張り、そのまま顎にアッパーをかます。人間、顎に強い衝撃を味わえば簡単に脳震盪を起こすため、どんなに強い人間でも簡単に失神する。その男も例にもれず、そのままの勢いで地面に衝突したため、どうやら気を失ったようだ。
「さて、どうする? お前たちの仲間は1人気を失ったわけだが‥‥お前らもこいつと同じ目に遭いたくなければさっさとこいつ連れて失せろ」
俺が男たちを睨みそう告げると、男たちはさっきまでの威勢のよさはどこへやら、舌打ちをし「覚えてろよ」と言いながら失神した男を担いでどこかへと走り去っていった。
それを見届けた俺は、さっきと同様に息を大きく吸いさっきまで纏っていた緊張感を解く。それと同時に俺は周りの状況がとんでもないことになっていることに気付く。
「兄ちゃんすげえな!!」
「かっこよかったぞ!」
いつの間にかショッピングモールにいた他のお客さんが大勢集まっており、今の一部始終を見られていたせいで、周囲は拍手喝采の嵐となっていた。
そりゃそうだ。元々聖女2人が視線を集めていて、その2人がナンパされていたところを助けに入れば視線が集まるのは当たり前だ。あんまり大事にしたくなったのに、これはちょっと誤算だ。
「あ、あの‥‥」
「はい!?」
俺が周りの状況に困惑していると、後ろから控えめに声をかけられる。びっくりして振り返ると、聖女2人が申し訳なさそうな表情を浮かべながらおずおずと口を開く。
「助けていただいてありがとうございました。あの人たち、何回もお断りしてるのにしつこくて正直困ってたんです。なので本当に助かりました」
「私からも‥‥ありがとうございました」
「えっと‥‥ご無事でなによりです‥‥」
聖女2人から頭を下げられ俺はさらにいたたまれなくなる。なんとしてでも早くこの場から立ち去りたい。
「お礼させていただきたいので、お名前を教えていただけませんか?」
「いや! お礼とかほんとに大丈夫なので! 荷物持っていただいてありがとうございました! 俺はこの辺で失礼するので、あとはお2人でゆっくりどうぞ! それじゃ!」
白聖女からの申し出も断り、俺は半ば強引に預けていた荷物を引き取り、足早にその場を離れる。これ以上ここにいたらもっと面倒なことになりそうだし、あれだけのお客さんがいたんだから、同じ高校の生徒がいてもおかしくない。そうなったら俺の穏便な学校生活はおさらばだ。
(あぁ‥‥神様お願いします。どうか俺の穏便な学校生活を壊さないでください)
俺は心の中で祈りながら帰路を急いだ。
「ねぇ柴乃。さっき助けてくれたあの人、なんか見たことある気がしたんだけど気のせいかな?」
「ううん。多分‥‥気のせいじゃない。同じ学校‥‥いや同じクラスだったと思う‥‥」
「へぇ~。じゃあ私、狙っちゃおうかなぁ」
「いくら桜でも、そう簡単にはいかない‥‥」
「お? 柴乃も乗り気だねぇ。じゃあ勝負しよっか」
「望むところ‥‥負けないから」
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