白聖女と黒聖女の間に挟まりたくはない!

海野 流

第1話 不意の遭遇

「灰斗くーん! お昼一緒に食べよー!」

「私と一緒に食べますよね?」


 片腕には小柄で明るい雰囲気を放つ美少女、片腕にはモデル体型で落ち着いた雰囲気を醸し出す美人。

 異なるタイプの女子生徒2人に両腕に抱き着かれ拘束されているこの状況。普通の男ならば、涙を流しながら喜びそうな状況であるが、実際に間に挟まれている俺――板間いたま灰斗かいと――は涙を流しながら叫んでいた。


「どうしてこうなったあああああああああああああああ!?」



 遡ること数日前――――


「なかなかいい買い物ができたなぁ。今日はいい日になりそうだ」


 温かく心地よい春の陽射しが照りつける4月の日。つい最近高校2年になったばかりの俺は、朝からショッピングモール内に併設されている、オタク御用達のアニメショップへと来ていた。元々は、自分が好きで読んでいるラノベのシリーズの新刊を買うだけの予定だったのだが、面白そうな新シリーズのラノベを見つけてしまい、それも一緒に買ってしまった。そのせいで俺の財布の中は、かなり寂しくなってしまったが、対照的にに俺の顔はホクホクとしており、ほぼスキップに近い状態で歩いていた。


(すぐに家に帰って、買った本を読んでもいいんだけど‥‥せっかく休みの日にショッピングモールまで来てるんだし、もう少しぶらついて行こうかなぁ‥‥)


 せっかく休みの日に出かけてきているのだから、ウインドウショッピングでもして行こうかと、俺は適当にモール内をぶらつくことにした。モール内は、休みの日だからか、家族連れやカップルなどいろんな層のお客さんでごった返しているが、万年ぼっちの俺にそんなのは関係なく、たくさんの客の間をスルスルと抜けていく。


(このスキルは1人で歩いているからこそ使えるスキルなんだよなぁ。複数人で歩いていると俺のような自分勝手な行動が許されるわけがないからな。ハッハッハ‥‥はぁ)


 心の中で勝手に憂鬱な気分になっていると、俺はふととある光景が目についた。

 たくさんのお客さんがいるモール内で、その場所だけは輝いて見え、神々しいオーラを放っていた。俺は、目についた光景をよーく観察してみることで、その場所だけが輝いていた理由を察した。


「あれは聖女様じゃないか。まさかこんなところでお目にかかれるとは‥‥」


 モール内で神々しいオーラを放っていた人物は、俺が通っている学校でそれぞれ「白聖女」「黒聖女」と呼ばれる2人の女子――白咲しろさきさくら黒木くろき柴乃しの――だった。


 遠目からでもわかる2人の美貌は、学校の中でも圧倒的な人気を誇り、たびたび『白聖女派』と『黒聖女派』で衝突が起きているとかいないとか‥‥。

 そんな感じで校内で数多のファンを獲得している聖女たちだが、俺もその2人のファンである。当たり前だ。同じ学校、そして同じ学年に桁違いの美人が2人もいるのだ。こんな状況を、ラノベオタクの俺が推さない理由などないのだ。


(そして俺は、どちらか1人しか推すことのできない弱者どもとは違う。俺はあの聖女2人が仲良くキャッキャウフフしているところが好きなんだ!)


 休日に2人でショッピングモールに来ている今の状況からわかる通り、あの2人は学校生活を送る中で常に一緒に行動をするほど大の仲良しである。登校も一緒、移動教室も一緒、昼休みのお弁当も一緒、下校までも一緒なのだ。これは、1年、そして2年と同じクラスで2人のことを観察してきた俺が言うのだから間違いない。いくら変態と罵られようが関係ない。俺は彼女らを初めて見たその瞬間から、推しとしてずっと見続けてきたんだ!


 とまぁこんな感じで聖女たちに対する俺の感情をいろいろ吐いたわけだが、白聖女派と黒聖女派で共通する暗黙の了解が存在する。それは『聖女2人に接するべからず』だ。あの2人は、2人でいるからこそ気高く、美しく、そして輝いているのであり、その間に挟まるなど、男であっても女であっても許されることではないのだ。もしここで俺があの聖女2人に「こんにちは」とでも言ってみろ。聖女2人には「なんだこいつ‥‥」と軽蔑されるのがオチであり、最悪の場合、そのことが学校中に知れ渡り、生徒全員から目の敵にされること間違いなしである。そうなれば俺の平穏なスクールライフは終了し、常にビクビク怯えながら生活することになってしまうのだ。

 というわけで俺がここでとるべき行動は、遠くから聖女2人を眺め、天に感謝をすることだ。


(あぁ神よ。この出会いに感謝を‥‥)


 目を瞑った状態で天を仰ぎ、感謝の意を心の中で唱える。

 そして俺は去り際にもう一目聖女たちを目に焼き付けようと、先ほどまで聖女たちが立っていた場所へと目を向ける。しかし、さっきまで輝かしいオーラを放っていたその場所は、その輝きを失い、反対に怪しげな雰囲気を漂わせていた。


(あの男たちはなんだ‥‥?)


 その場にいたのは2人の聖女を取り囲むように立っている男3人。それぞれ金髪だったり、ピアスだったりといかにもチャラい大学生といった雰囲気を放っている者ばかりだ。十中八九ナンパだろう。


(さて、どうしたものか‥‥)


 聖女たちは明らかに恐怖の色を帯びた表情を浮かべているが、彼女たちの周りを通る人たちは、チラチラ見るだけで誰も助けようとはしない。面倒ごとには巻き込まれたくないだろうしそりゃそうだよな‥‥。

 そうなると周りの人間に助けを望んだところで協力してくれる可能性は低いだろう。


(俺が助けに行くのが一番いいのかもしれないが、鉄の掟があるんだよな‥‥)

 ここで俺が助けに入れば、俺は暗黙の了解を破った人間として、学校中の人間から適しされることに間違いはないだろう。


(‥‥そんなことより、ここで見て見ぬふりをする方が問題に決まっているか)


 俺は闘争心に火が付くのを感じながら、ゆっくりと聖女たちの方へと近づいた。

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