[第7話:Gerbera]
「鬼介様、第1部隊の皆様をお連れしました。」
日向に案内され、大きな扉の部屋の中へ入ると、そこにはソファーが2つ向い合わせに置いてあり、その奥にあるデスクに1人の男が座っていた。
彼は、第4部隊隊長
「それでは、私はお2人をお呼び致しますのでここで失礼します。」
日向はそう言うと部屋を出た。
「座れ。」
彩科院は部屋の奥にある大きな窓から外を眺めながら、3人に言った。
「失礼します。」
3人は、ソファーに腰掛けた。
すると、再び扉が開き、2人の男が入ってきた。
1人は、シャツにパンツのラフな格好で、頭にヘアピンをつけた茶髪の男。
もう1人は、袴姿で、左目に包帯を巻いた男。
「よぉ~お前ら。久しぶりだな。」
ラフな格好の男は、第4部隊隊員の
「久しいな。元気か?椎菜。」
袴姿の男は、第4部隊隊員の
「師匠!」
桂の姿を見るなり、迅雷寺は驚いて立ち上がり、頭を下げた。
桂 謙信こそ、迅雷寺の剣術の師であり、"桂流"の使い手である。
矢島と桂が、樫間たちの向かいのソファーに座ると、桂がデスクに座る彩科院に向かって言った。
「さて隊長、どうしますか?この1週間。」
桂は落ち着いた声で話す。
すると、彩科院は唐突に立ち上がり、5人のいるソファーに向かった。
彩科院は徐に箱装を解放し、樫間に"
「俺はこいつらに教える気も、こいつらと共闘する気もねぇ。やりたきゃ勝手にやれ。」
彩科院は刀で思いっきり床を斬りつけた。木製の床には、斬れ跡と焼け焦げた跡がついた。
「こうなりたくなければ、大人しく回れ右して帰りやがれ。ど三流共が。」
床に突き刺さる刀を引き抜き、冷静に鞘に収めた。
すると彩科院は部屋を出る為、扉へ向かった。
「桂、矢島、そいつら1週間ボコり倒せ。耐えられなきゃそれまでだ。」
そう言い残すと、彩科院は部屋を出た。
桂は、呆れた表情を見せ、3人に言った。
「隊長の無礼を申し訳なく思う。1週間の共同訓練は、我々が対応させていただく。」
桂が言うと、彩科院が出た扉を見つめ、矢島が言う。
「あいつ今日いつも以上にカリカリしてんなぁ。安心してくれ。俺ら2人はあんな鬼じゃない。ちゃんとお前らの面倒見てやるから。」
矢島は3人に笑顔を見せた。
「とりあえず、迅雷寺ちゃんは謙に任せるわ。樫間、白峰。お前らは俺と来い。1週間みっちり鍛えてやるぜ!」
矢島は、ニヤリと笑みを見せ言った。
「師匠、よろしくお願いします!」
迅雷寺は、桂に頭を下げて挨拶した。
「こちらこそ、よろしく頼むぞ椎菜。君の活躍は、私も耳にしている。」
桂は微笑みながら答えた。
その後、それぞれ2手に分かれ、彩科院の屋敷内で訓練を行う事になった。
矢島は2人を中庭に案内した。
「あの、いいんですか?ここの敷地使っちゃって。」
樫間は、恐る恐る矢島に問いかける。
彩科院亭の中庭は、野球グラウンドくらいの広さを誇る雄大な庭園であった。
「え?ああ、いいのいいの。ここうちらの基地みたいなもんだし。いっつもここの庭、自由に使ってるから。」
中庭の真ん中あたりで、矢島は2人の方向に振り向いた。
「よし、俺がいいって言うまで、俺に全力で攻撃してこい。」
矢島は言った。
樫間と白峰は、互いに顔を見合わせた。
「…来ないなら俺からいくぜ?」
矢島は、そう言うと笑みを浮かべ、箱装を解放した。
「…暴れまくれ。"
矢島は、解放した槍型の武器を振り回して、2人に向かった。
2人は恐る恐る箱装を解放し、戦闘態勢に入る。
「"
樫間は二丁銃を構えた。
「美しく、燃えろ。"
白峰も、炎を纏ったグローブを構える。
「…さぁて、かかってこいよ。」
矢島は、槍を振り回して2人に言った。
一方、桂、迅雷寺サイドー
桂は迅雷寺を連れて、屋敷の近くにある森に入った。
10分ほど歩くと、桂は急に立ち止まった。
「椎菜。私は君に、"桂流剣術"を伝授した。君はよく習得してくれた。しかし、まだそれは未完成だ。」
桂は急に話し始め、同時に箱装を解放した。
「今から24時間。私が君の桂流を完全なものにする。」
桂の手に、1本の刀が現れた。
「
桂は、右手に持ったその刀の刃先を地面に向けた。
「"桂流二の舞、
すると、桂はその刀を思いっきり迅雷寺へ向けて振った。
鋭い軌道を描いて、かまいたちが迅雷寺に向かって襲いかかる。
迅雷寺はその攻撃を避け、戦闘態勢に入った。
「おいで。"
迅雷寺は、雷を纏った刀を構えた。
唸るような音を立て、雷が強くなる。
「行きます、師匠。"四の舞、
そう叫ぶと、迅雷寺の姿がその場から消えた。すると、桂の周辺に大量の雷が発生した。
桂の背後から、迅雷寺が現れる。
「"七の舞、
そう言うと桂は、背後から近づく迅雷寺の攻撃を、振り向きもせず避けた。
そして、刀で宙に弧を描き、その弧を思いっきり刀で突いた。
攻撃を避けられ体制を崩した迅雷寺は、避ける暇もなく、その攻撃を刀で受け止めた。
迅雷寺は、攻撃の勢いに勝てずにどんどん押されていく。
(桂流の九つの舞は、全て師匠に読まれている…。師匠を倒せなくとも、師匠に少しでも攻撃を当てるには…型を使ってはいけない…。)
迅雷寺は足を踏ん張り、攻撃を受けている刀を力尽く振り下ろし、攻撃を横へ受け流した。
(こうなれば…。)
迅雷寺は、何かを思いついたように顔を上げ、再び刀を構えた。
「…"八の舞、
迅雷寺は刀を後ろに引き、その刃に雷を溜め始めた。
そしてその態勢のまま、桂に向かって走り始めた。すると、左右に高速に移動し、まるで雷を描くように無規則に移動しながら桂に向かった。
("交避獅子"…その無規則な動きで敵を誘惑し、思わぬ方向から攻撃を仕掛ける型。その型は既に見切っている。)
桂は刀を構え、次の攻撃態勢に入った。
「"四の舞、
桂の構える刀に、無数の木の葉が集い始めた。
桂は迅雷寺の位置を確認しながら、狙いを定めている。
すると、迅雷寺は移動しながらその刀を振り、桂に向けて雷を放った。
雷は鋭く軌道を描きながら、桂に襲い掛かった。
桂は構えた刀でそれを防いだ。しかし、雷は次から次へと放たれ続けた。
迅雷寺は不規則な動きから、桂を円で囲むように周囲を移動しながら雷を放つ。
(この型…私が教えた中にはない動き…。まさか、瞬時に編み出したと言うことか?)
周囲を移動し続ける迅雷寺のスピードが次第に速くなる。そのスピードに合わせて雷の量も多くなり、桂は防ぐ事で精一杯の状態であった。
スピードが速くなるに連れ、その円はどんどん狭まっていく。放たれる量とスピードも多くなり、少しずつその攻撃は桂に当たっていた。
(桂流応用、新生!"十の舞、
迅雷寺は刀に雷を集中させ、桂に向けて斬りかかった。
スパッ…!
迅雷寺の刀は、何かを真っ二つに切り裂いた。
それは丸太であった。
桂がいた場所には、真っ二つに割れた丸太が転がり、少し離れた場所で、木の葉の竜巻が起きた。
「"一の舞、
木の葉の竜巻の中から、桂は現れた。袴に付いた木の葉を手で払いながら桂は言った。
「椎菜、今のは一体何だ?」
桂の問いに迅雷寺は答えた。
「今のは、"八の舞、交避獅子"と"一の舞、雷鳴獅子"を、自分なりに組み合わせてみました。
"交避獅子"の不規則な動きから、"雷鳴獅子"の雷を放ち続け、そこから相手を囲んで追い込み、斬りつけるという攻撃をイメージしてやってみました。」
迅雷寺は、得意げな表情を見せた。
桂は驚いた表情からニヤリと笑みを浮かべ、刀を鞘に収め言った。
「組み手はここまでだ。椎菜。桂流剣術の舞は、全部で十六種あると言われている。私が教え、君が作り出した九つの舞。これは代々伝わる型の動きだ。
残り七つの舞。それは、君自身が生み出す舞だ。
こうして、基礎の九つの舞と応用の七つの舞。これが全て完成して、初めて桂流剣術の完成だ。
君の編み出したその舞、威力と精度は今一歩だが、確かな流れを感じた。この調子で、応用の舞七つを完成させて、真の桂流剣術を手に入れるのだ。」
桂の話を聞き、迅雷寺は考えた。
「応用の舞七つ…。師匠!今、私が生み出したこの舞。新生"十の舞、
迅雷寺は、目を輝かせ桂に言った。
「"雷迅"…ふむ。いい名だ。その名に恥じぬよう、威力と精度の向上に励むのだ。」
桂は、ニコリと笑い迅雷寺に言った。
「はい!師匠、ありがとうございます!」
迅雷寺は嬉しそうに答えた。
「椎菜。新たな舞を生み出すには、まずは自然エネルギーを感じるのだ。そっと目を閉じ、雑念は消して、エネルギーの流れを体で感じるのだ。できるか?」
桂は言った。
「やってみます!」
迅雷寺は答えた。
こうして、桂と迅雷寺の修行は24時間どころか、3日3晩続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます