23 酒癖


「すみません、行儀悪くて」


 申し訳なさそうに久我が頭を下げたので、穂浪は「いやいや」と笑いながら両手を横に振った。


「なんか意外です。逢坂さんっていつもシャキッとしてて、隙がないイメージだったから」


「これが逢坂せつなの本性ですよ。仕事中の姿は作り物です」


「仕事中は気を張ってるってことですね」


「でないと仕事になりませんから」


 穂浪は「確かに」と笑いながら、隣で眠っている逢坂の顔を見下ろした。


「気の抜けた逢坂さんも魅力的です」


「そうですか?」


 久我はチラリと逢坂を見下ろした。左腕を枕にして眠っている逢坂の口は半分空いている。この間抜け顔が魅力的かどうかは個人の判断に委ねよう。


「なんだか無防備で可愛いじゃないですか」


「穂浪さんも物好きですね」


「寝顔なんてなかなか見れないから新鮮だなぁ」


 穂浪はもっと近くで見てみたくなって、身を屈めて逢坂の顔を覗き込もうとした。すると、


「酒飲むとすぐ寝るから、こっちはいい迷惑ですよ」


 ため息混じりに言いながら、久我は立ち上がり、寝ている逢坂を抱き上げた。


「……久我さん、もしかして慣れてます?」


「そりゃ嫌でも慣れますよ。学生の頃からコイツが飲み会で寝る度に介抱してやってたんで」


 パイロットにお姫様抱っこされたと大騒ぎしていたが、寝ていて記憶がないだけで、酔う度に久我にお姫様抱っこされていることを、逢坂は知らない。



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