宗像 邦仁の結婚

いきなり始まる訳がない。

第1話

この世に生を受けて、16年が経とうとする頃。



タケノコが伸びる様ににょきにょき背だけ伸びて来た。


気が付けば、身長は174センチにまで成長した。



なのに、胸の膨らみは、決して良好な発育を見せてくれなかった。




「んだ? お前」



「やっちまうぞ、ガキ!」




知能は中の下。


容姿はまぁまぁ、同級生、バイト仲間、幼馴染談。


可愛いけど、綺麗ではない。



悪かったわね。



そう言って口を尖らせたら、『ぶっちゃいく』と言われてキレて暴れたのは、今となっては懐かしい想い出だ。




「顔のカタチ変えてやろうか、このアマ!」


「ガキがイキがってんじゃねえ」



世の中本当つまんない。







――――喧嘩は強いのに要領悪いよね。


この前、職員会議に掛けられてたけど、あんた何も悪い事してないじゃん?


騙されたり、嵌められたり、残念だよね。


まぁ、憎めないから愛されるじゃん?


慶子はそんな生き方で良いんじゃない―――――?




現実なんてクソ喰らえだ!




「黙ってねえで、帰れ。ガキ」



そう言って、私のセミロングの髪を男が掴んだところで私は我に返った。



「……痛い」



そうだ。


私、お祭りの会場準備に当たる、ヤクザの組関係者の中に飛び込んだんだ。


毎年、このお祭り会場で、3区画出店を出させて貰っていたのに、今年から、最近この辺りで家の組が弱って来たのを良い事に幅利かせだした宗像組が、町内会を抱き込んで私の組を締め出したのに抗議……いや、抗議じゃないか、殴り込みだ。



うん、殴り込み。



私たった一人だけど、力の限り、この組に殴り込みかけに来たんだった。



「んだ、前髪で顔隠れているから貞子みてえと思ったら、結構可愛い顔してんじゃねえか」


「やめとけよ、若がそう言うの好きじゃねえんだから」


「構やしねぇよ。こんなところに一人で来るなんて、とんだ不良だな、お嬢ちゃん。なんだおじさん達にお小遣いでもせびりに来たのか? ……そうだな。2万でど……」



髪を触られたのが気に障ったので、男の顎を鷲掴みして握り込んだ。


「はぁ……あっ……がっ……ぐぅっ」



ちなみに私は利き腕の握力が60ある(成人男性の平均40~50)。



「テメェっ!」



向かって来る、二人の男達を這いッキックで地面に沈めた。


ちなみに、母親はその昔、スパイク一つで繁華街のヤクザや警察を恐怖のどん底に陥れた伝説を持つ女傑である。



「大人に盾突くとどんな目に遭うか、思い知らせてやる!」


「しばらく外に出られねえカラダにしてやろうか!」



続いて向かって来る男達を、慣れた手付きでタコ殴りにして、足蹴にして、ボッコボコにして、武器を手にした男達からその武器を取り上げ、逆に自分の武器にした。


丈の丁度良い、角材を背に担ぎ、もう片方の手で『おいで』のポーズを取って挑発し、かかって来る男達に大きく振りかぶる。



「んだ! この女、どこの組の回しもんだ!」


「テメェヤクザに喧嘩売ってタダで済むと思うなよ!」



一応、潰れかけでも、私もヤクザだ。


んな事百も承知だ。



生まれてこの方、傾いて、貧しくて、惨めで、もうたくさんなんだ。


奪われて行くばかり。


墜ちて行くばかり。



両親にまとまった収入がなくて、高校入学を期に始めたバイトはセクハラをやり返してクビになり、最後の飯のタネだった、明日のお祭りも失くなって、私はこれからどうやって生きていけば良いんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る