第6話 スラムの女の子、ルシアとニーナ
「レティ、このまま門を通行出来るのかな?」
「問題ありません。門番は私が亡き者にします」
「いやいや……!? 殺したら駄目だよ!? これは命令です! 手を出したら駄目です!」
「了解致しました」
はぁ……疲れた。もうおじさんの手には負えないよ……レティは色々とぶっ飛んでるし。どう言い訳するか考えなければならぬな。
「レティ、貴方は喋らず黙っててね。私が門番と話しをします」
「了解致しました」
「でも、馬車は流石に目立つよね……」
「姫様、馬車はここに置いて行きましょう。配下の者に回収を命じて置きます」
「じゃあ、お願いするね。ここから歩いて行こう」
あぁ、年甲斐も無くワクワクしている自分が居る。異世界へと来てから、紆余曲折あったけど初めての街だ。若い頃に冒険者等に憧れた気持ちが蘇って来るな。心が若くなったような気がするぞ!
「姫様」
「レティ……四つん這いになって何してるの?」
「私が姫様の馬車になります。ぽっ……さあ、お乗りくださいませ」
「いやいや……!? 恥じらいながら何とんでもない事を言ってるの!? 私にそんな性癖無いから! 流石にそれはおかしいからね!?」
「え、おかしいのでしょうか? 私は純粋に姫様の重さとお尻の感触を背中で感じたかっただけなのです……」
寂しげな表情をしながら、しれっとR-18禁になりそうな事を真顔で呟くレティ……これが俗に言う残念系美少女と言うやつなのか。一周回って最早清々しいぞ。
「良いから早く立って下さい!」
「むぅ……」
「頬を膨らませても駄目です。良いから行きますよ!」
街に酒場とかはあるのだろうか……キンキンに冷えたビールをクイッと一杯やりたいな。つまみと一緒にやりたいぞ!
「レティ、この街には酒場はある?」
「はい、ありますよ。規模の大きな街なので、様々な店や露店が出ております」
「おおぉ……! 街に入ったら酒場へ行こう!」
「了解致しました」
私はレティと歩きながら、レティに色々な話しを聞いてみる事にした。まだまだこの世界について分からない事だらけなのだ。まずはこの世界での常識等も色々知りたいからな。
「レティ、レアルカリアと言う街は何処の国に所属しているの?」
「はい、レアルカリアは東の大陸【グラムハーツ王国】に属する街で御座います。辺境の街にして、海に面している気候の暖かい活気に満ちている港街で御座います」
「なるほど、海があるのか……」
グラムハーツ王国……やはり、日本とは違うのだな。海に面しているという事は、海産物が食べれるのだろうか? 豪華な海鮮丼とか食べたいなぁ……いかん、お腹が空いて来たぞ。わさび醤油に刺身を付けながら日本酒をクイッとやるのがまた最高何だよなぁ。あ、でも日本にある食べ物がこの異世界にあるのだろうか……? たこわさ……イカの刺身、まぐろ。ダメだお腹が空いて来たぞ。
「姫様、街の中では呼び名を改めた方が良いかと存じます」
「うん、確かにそうだよね。レティ、私の事はソフィアと呼び捨てで呼んでね」
「分かりました。ですが、ソフィア様と呼ばさせて頂きます。ですので、私の事は……お姉ちゃんとお呼び下さいませ」
「百歩譲ってソフィア様は良いけど、レティの事をお姉ちゃんと呼ぶのは、ちょっと……」
「なっ……わ、私では不服と申すのでしょうか!?」
「いや、そういう事じゃないよ?」
似たようなやり取りがn回目だけど、先行きが不安でしか無いぞ……まだレティとは短い付き合いだけど、もう濃密な時間を過ごしているような気がする。さて、いよいよだ。
――――――――――――
「通って良し! 次!」
ついに私達の番が回って来た。私とレティは服の上から茶色の外套を羽織っている。流石にあんな際どい服装で人前には出たくないからな。もし何か聞かれたら旅をしている者だと言って何とかやり過ごそう。
「フードを外してもらっても?」
「はい……」
「おおっ……何と言う……美しい」
私達は門番に言われるがままに外套のフードを外して素顔を顕にする。男性の門番2人が、私とレティの美貌にどうやら見蕩れているようだ。
「あの……通っても良いでしょうか?」
「ごほんっ……通行料20ガルムで御座います」
「20ガルム? これで足りますか?」
「拝見します」
山賊達のアジトにあった硬貨らしき物を袋に詰めて持って来たのだ。人の物を盗むと言うのは気が引けるが、山賊達から取り戻したのだと言う事にしておこう。心が汚いおじさんですまんな。
「20ガルム確かに頂きました。ようこそ、貿易都市レアルカリアへ! お通り下さい!」
私は門番さんから小さな麻袋を受け取って街に入った。残りのお金は、慎重に使わなければならない。この国のお金の単位も勉強せねばな。後でレティに聞くとしよう。
「おおぉ……凄い光景だ」
「ここが貿易都市、レアルカリアで御座います」
石畳みの綺麗に整備された道、煉瓦造りの家が立ち並び、街全体の建物はオレンジ、ブルー、エメラルド等の鮮やかな色をしていて多種多様である。私も若い頃に社員旅行で、ヨーロッパの方へと行ったことがあるがその時の感動が今蘇るようだ。
馬車が緩やかに走っていたり、通りには沢山のお店や屋台が出店していて、人通りも多く賑やかで何処も活気に満ち溢れている。むふふ……興奮して来たぞ!
「レティ! あそこの露店から良い匂いがするよ!」
「ちょっと……!? ソフィア様お待ち下さい!」
何かの串焼きだろうか? あんな良い匂いが漂って来たら、もう食べるしかないでは無いか!
「すみません! 串焼き2本下さい!」
「お、可愛いお嬢ちゃんだね〜まいどあり! 2本で3ガルムだ!」
「これで足りますか?」
「十分だよ! この銅貨3枚で足りるよ!」
お、山賊さん達そんなに溜め込んで居たのか。どうやらガルムと言うのが、お金の単位らしい。小さな麻袋には、銅貨、銀貨、金貨が入っていたな。
「はい、レティの分だよ」
「え、良いのですか? では頂きます……」
う〜ん♡ 熱々で食べる肉は最高だ! 柔らかい肉から溢れ出す肉汁……良い酒のつまみになるな。美味しいぞ!
「どうだい嬢ちゃん達? うちのオークの串焼きは美味しいかい?」
「めっちゃ美味しいです!」
「良い食いっぷりだね〜もう一本サービスしとくよ!」
「おお! ありがとうございます!」
「そちらのお嬢さんにもサービスしとくよ!」
「どうも……」
オークの串焼き……良いね! よし、お昼ご飯は……おつまみはこの串焼きにしよう! 20本くらい買ってこうじゃないか!
「すみません! 後20本下さい!」
「おお! 毎度あり! 沢山買ってくれてありがとな!また来てくれよ!」
「はい♪ では失礼致します」
お、あっちには何かのデザートかな? 向こうでは木の実のジュースか! おお! あれは魚かぁ!
「レティ凄いよ! 次はあっちへ……」
「ソフィア様、落ち着いて下さいませ」
「はっ……!? ご、ごめん……」
「まずは先に宿屋を確保してしまいましょう。お店巡りはその後でも」
「そ、そうだね」
年甲斐も無くはしゃいでしまった……あぁ、恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。
「ソフィア様……うふふ」
「おお!? レティが笑った!?」
無表情を崩さなかったレティが笑った! やはり美人は笑顔が似合うなぁ〜
「では参りましょう。護衛は私に任せてくださいませ。こう見えても剣には自信があります」
「うん、ありがとう。串焼きも沢山あるから、後で一緒に食べよう♪」
私達が宿屋へ向かおうとしたその時だった。建物の隙間からこちらを見つめる視線を感じて、そちらへと目線をやるとボロボロの服を身にまとった子供達が居たのだ。
「レティ、あの子達は?」
「ソフィア様、あれはスラムの子供達ですね。この街にはスラム街、貴族街、市街地と一般市民が暮らす区画に別れております。身寄りの無い子供達は盗人や廃棄で出たゴミ等を漁って生きているのです」
あんな小さな子までもか……あんなガリガリにやせ細って……辛い思いをしているのだな。
「レティ、ちょっと待ってて」
「ソフィア様!? お待ち下さいませ!」
あんな光景見せられてしまったら、見て見ぬふり何か出来るわけないだろ……国は一体何をしているのだ? 子は国の宝だろ!
「ねぇ、君達。パパやママは居ないのかな?」
「―――――――――!?」
「あ、待って! 別に怪しい者じゃないよ!」
「もう、その手には乗らないぞ!? 大人は皆んなそう言って俺達をいつも虐めるんだ!」
「お姉ちゃん、お腹空いたよぉ……ぐすんっ」
小学生高学年くらいの女の子と幼い女の子が1人。ん? お姉ちゃん? この子達姉妹なのか? お姉ちゃんの方はボブカットヘアーの勝気な表情の可愛い女の子だ。もう1人の小さな女の子は、目が大きくパッチリとしてとても愛らしい子で庇護欲をそそられる。しかも、2人とも奇遇にも私と同じ金髪の髪色だ。
「大丈夫だよ、良かったらこの串食べる?」
「ふぇ? 良いの?」
「ニーナ! 毒が入ってるかもしれないぞ!? 食べちゃ駄目だ!」
「えっ……でもぉ」
お姉ちゃんの方は物凄い警戒しているな。ここは私がこれを一つ食べて、毒は入って居ないとこの子達の目の前で証明をしよう。さすれば食べてくれると思う!
「大丈夫だからね♪ はむっ……ほら、毒は入って無いよ♪」
「じゅるりっ……」
「えっと、ニーナちゃん言うのかな? 冷めない内にどうぞ♪」
「ありがとうお姉ちゃん!」
うんうん♪ 成長期の子供は良く食べないと行けないよ♪ 美味しそうに食べてる姿を見るとこちらまで胸がホッと暖かくなるな。
「お姉ちゃんの方もどうぞ♪」
「うぅっ……俺は信用しねーからな」
「どう言おうが構わないけど、ちゃんと食べないと大きくなれないぞ?」
「…………」
余程お腹が空いていたのだな。2人とも一心不乱に良く食べてるよ。しかし、2人ともやせ細って汚れてはいるけれど、成長すれば将来は間違い無く誰もが振り向く様な美少女ちゃんになりそうだ。
「レティ、このお金で飲み物を全員分買って来て」
「了解致しました」
こういう事をしても偽善と言われるかもしれないが、やらない偽善よりやる偽善だ。しかし、スラム街か……宿屋に行く前に少しこの目で見ておきたい。
「ごほっ……ごほっ……」
「ゆっくりと良く噛んで食べないと駄目だよ? よしよし♪」
「美味しい……お"い"し"い"よ"」
「ニーナ……うぅっ……」
「ルシアお姉ちゃん……こんなに美味しいもの……わたし初めてだよ!!!」
美しい姉妹愛と言うやつだな。私まで涙が出て来ちゃうよ。急がなくても良い、ゆっくりとお腹一杯になるまで食べなさいな。
――――――――――――
「ソフィア様、お飲み物を買って参りました」
「レティ、ご苦労さま。ありがとね」
さてと、この2人をどうしようか……ニーナちゃんの方はお腹一杯に串焼きを食べてから、私の膝の上でスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。ふふ……可愛らしい寝顔だな。
「ありがとう姉ちゃん……俺の名前はルシア、こちらは妹のニーナだ」
「私の名前はソフィアって言うんだ♪ 宜しくね」
「よ、よろしく……で、でも俺お金が無くて何も返せないぞ……」
「お金の事は気にしないで、良かったら飲み物もあるよ。どうぞ」
これからどうしようかな。流石にこの子達を見捨てる訳にも行かないし……てか、今までどうやってこの子達生きて来たのだろうか?
「ルシアちゃん、この街には同じ様な境遇の子は沢山居るの?」
「うん、親に捨てられたやつもいるし事情は様々だよ。国も領主も俺達みたいなスラムの人間何て、手を差し伸べてくれない……領主の方も人身売買やら色々と黒い噂を聞くしな」
「そ、そっか……ルシアちゃんもこちらへおいで」
こんな子達が沢山居ると言うのか……この国と領主は何をやっているんだ! ルシアちゃんもニーナちゃんもまだ親が必要な歳だと言うのに……おじさんは別に偽善者では無いが、この状況を見てしまったら見て見ぬフリは出来ないでは無いか。
「2人とも、今まで良く頑張ったね……よしよし♪」
「なっ……!? い、いきなり何だよ!」
あれ? 子供は頭を撫でてあげると喜ぶのでは無いのかな? ルシアちゃん顔を赤くして怒っちゃった?
「あ! お礼と言う訳じゃ無いけど、もし良ければ俺達の家に泊まって行ってくれ!」
「え、ルシアちゃん良いの? 丁度宿屋を探す所だったから助かるよ♪」
「こっちへ付いてきてくれ! ニーナは俺がおんぶするよ!」
「ルシアちゃん大丈夫、私がニーナちゃんを抱っこして連れて行くからね♪」
何とか今晩の宿は確保出来た。今はルシアちゃんに付いて行こう。まだ手持ちは十分ある筈、山賊さん達に襲われたのは不幸中の幸いだったな。山賊さん達のアジトから
「んんっ……ままぁ……」
「あらあら、ニーナちゃん♪ 私の事をママと思って甘えて良いからね♪」
「すぅ……すぅ……」
ニーナちゃんの寝言を聞いた瞬間、何故だか私の中で何かが変わろうとしている感覚が……気の所為なのかな? 今まで独身でずっとボッチだったからだろうか? 人と接する事がとにかく嬉しかったのかもしれない。やっぱり、私が求めていたのは友人や家族だったのか……今の私の心は、晴れやかでポカポカと暖かった。
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