第8話


結局その後も勉強会は雰囲気の悪いままだった。


下校時刻が迫り、図書館の司書が生徒たちに帰宅を促し始めた時俺は正直ホッとした。


ようやく拷問のような時間が終わったと開放感に包まれながら帰り支度をしていると、六道が言い出した。


「よかったらみんなでグループチャットルームを作らないか?」


六道はまたこのメンバーで勉強会をすることがあるかもしれないし、テスト明けには打ち上げも考えているのでここにいる全員が参加するチャットルームを始めないかと言い出した。


「いいねそれ!」


「賛成!」


「いい提案だな、六道」


六道の意見に取り巻きたちが賛同する。


六道が星宮の方を見た。


「どうだ星宮。グループチャットがあれば、家にいる時でもわからないところを誰かに聞けるわけだし便利だと思うんだが」


「うーん…そうだね…」


星宮が俺を見た。


「加賀美くんはどうする?」


「え…」


いや俺に聞かれても。


俺は六道を見た。


六道が無理やり貼り付けたみたいな笑顔を向けてきた。


「加賀美も参加するよな?数学得意なんだろ?ノートとか写真で見せてくれないか?もちろん加賀美も何かテスト勉強に関して聞きたいことがあったら俺含め他のメンバーに遠慮なく聞いていいからな」


「…そういうことなら」


断ってあまり波風立てたくないと思った俺は、グループチャットに参加することを了承する。


「じゃあ私も入ろうかな」


流れで星宮も参加をOKする。


「よし、全員追加OK。これからよろしくな、星宮、加賀美」


果たして、その場にいた全員が参加するチャットルームが作成され、今日はその場で解散となった。


「はぁ…やれやれ」


帰り道。


俺はため息を吐きながら一人、家路についていた。


ぼんやりとスマホの画面を眺める。


そこには先ほど作成されたチャットルームが表示されている。


六道をはじめ、ほとんどのメンバーがこれからよろしくと挨拶をし合い、さっそくさまざまな会話を始めている。


チャットルームの参加者の一覧から、星宮のアイコンをタップしてみる。


すると星宮のプロフィール画面が表示された。


星宮のアイコンは、何かのドラマで共演した女優俳優たちと一緒に撮った集合写真で、ヒロイン役の星宮は真ん中で笑っている。


またプロフィールに添えることのできる一言には、誰のかはわからない、おそらくどこかの偉人のものと思われる力強い格言が書かれていて、妙に星宮らしいなと思ってしまった。


「…」


申請する、という文字の上に試しに指を乗っけてみる。


指を離せば、おそらく星宮に友達申請が届

き、受諾されれば、星宮と個人間で連絡が取れるようになる。


もし俺が今友達申請すれば星宮は受諾するだろうか。


それとも拒否するだろうか。


「馬鹿馬鹿しい…」


俺は自分で自分の考えを笑った後、そのまま画面を消してスマホをポケットにしまおうとした。


そのタイミングでスマホが振動。


確認してみると、俺が誰かの手によって新たなグループチャットに誘われたという通知が届いていた。


「星宮…?」


謎のグループチャットに俺を誘ってきたのは星宮だった。


グループチャットの部屋の名前は『勉強会2』となっていた。


メンバーは俺と星宮と六道の3人のみとなっている。


どうやら部屋主は六道であり、すでに星宮は参加済みのようだった。


「これは参加した方がいいのか…?」


部屋主の六道から誘われたわけではない俺は、参加していいのかどうか迷う。


この部屋は一体どういう目的で作られたものなのだろうか。


すでに全員が参加するチャットルームがあるのに、わざわざこの3人の部屋を新たに作る意味は?


そんなことをくどくど考えていると、また通知があり、今度は星宮からの友達申請が飛んできた。


驚いた俺は数秒間の間“星宮華恋さんから友達申請が来ています“という文字を見つめてしまう。


迷った後、静かに俺は受諾の文字を押した。


”追加ありがとー。これからよろしくねー“


星宮からさっそくそんなメッセージと共に可愛らしいスタンプが送られてくる。


”よろしく“


俺もそんな一言と主にスタンプを返しておく。


”加賀美くん、別のグループに誘ったんだけど気づいてる?“


”ああ。気づいてる。あれなんの部屋なんだ?“


”なんかついさっき六道くんに誘われて入った部屋なんだけど、二人きりで気まずいから加賀美くんを勝手に入れちゃった。ごめんね“


いやごめんねじゃねぇよ。


そこは察しろよ。


どう考えても二人きりで話したいという六道の意思表示だろうが。


”部屋主は六道だし俺は参加しない方がいいんじゃないか?“


”えー、私六道くんとあんまり話したことないし、気まずいんだけど“


“俺も話したことないのは同じなんだが”


“じゃあ、私抜けちゃおっかな”


おいそれだけはやめろ。


それだとあのチャットループに六道だけ取り残されてなんか不憫な感じになるだろうが。


“わかった俺が参加する”


“やったー、ありがとー”


「はぁ」


俺はため息を吐いて、六道と星宮と俺の3人のチャットルームに参加する。


“なんか誘われたので入りました。よろしく”


参加すると同時に俺はそんな文字を打った。


すぐに既読がついた。


星宮だろうか。


六道だろうか。


ちょっとした間が空いた。


俺がドキドキしながら動きを見ていると、1分後、メッセージが送られてきた。


“加賀美も入ったのか。よろしくな”


字面からもあまり歓迎されていないことがわかる挨拶と共に、取ってつけたようなスタンプが送られてきた。


“よろしく”


すまんな、六道。


そんなことを思いながら、俺はこちらも適当にスタンプを貼り付けて返事をしたのだった。

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