僕は終末世界で臓器を売買している
浜彦
蛮姫
第1話
僕はチューチューが昔、冒険者だった頃の話を聞くのが好きだ。ヒューマノイドたちの間で「風の詩」と呼ばれていた時代の話を。いや、むしろチューチュー自身も、午後のティータイムに昔の冒険談を語るのを楽しんでいるようだ。外の世界に出ることがほとんどない僕にとって、チューチューの話は外界への想像を補ってくれる。
以前、僕はチューチューに、なぜ冒険者になったのかを尋ねたことがある。彼女は少し考えたあと、微笑んでこう答えた ――世界平和のためだよ、と。
僕にとって、「世界平和」という言葉はもはや陳腐な響きに過ぎないが、チューチューたちにとっては今でも追い求めるべき目標のようだ。
世界はすでに荒廃している。 今、外を動き回っているのは、人類が「ヒューマノイド」と呼んでいる人工生命体と、ヒューマノイドたちが「魔機」と呼んでいる防衛用ドローンだけ。
僕は一枚の写真を手に取った。そこには、実験衣を着た四人の男女が、不慣れな笑顔で肩を並べて写っている。写真の埃を拭い、思い出の海から思考を引き上げ、僕は遠く扉の外を眺めた。
ここにはいつも濃い霧が立ち込めている。この廃墟の都を拠点に選んでから、一度も晴れた空を見たことがない。霧の隙間から陽光が金色の糸のように降り注ぎ、灰色のコンクリートとガラスでできた建物群が光を反射している。
霧の中を何かが通り抜けた。まるでベールが剥がれるかのように、景色が蜃気楼のように歪み始める。そして間もなく、灰色のマントを羽織り、巨大な荷物を背負った一団が現れた。
光学迷彩。そんな旧時代の軍用装備を多用するヒューマノイド組織を、僕は一つしか知らない。
その一団は僕の目の前、およそ七、八歩の距離でぴたりと止まり、整然と一礼した。僕が手を軽く振ると、先頭の者が顔を覆っていたフードを外し、小走りでこちらに近づいてきた。
それは額に小さな角を生やした少女だった。白い肌に、角の先端はわずかに赤みを帯び、目元には赤い化粧が施されていた。彼女は前合わせの服を着ており、胸元には車輪を模した小さなバッジが付いている。
少女は両手を合わせて礼をした。
「お久しぶりでございます、ビージェー様。古き盟約に従い、灰衣のレイジャク、貴方様にご挨拶を。」
「気楽にしてくれ。ここではそんなにかしこまる必要はないと言ったはずだよ。」
僕はレイジャクと彼女の従者たちを屋内に招き入れた。レイジャクは恭しく指示に従い上座に座り、灰色の服を着た従者たちは慎み深く彼女の後ろに控えていた。
「チューチュー。」
僕がそっと呼びかけると、長身の女性がすぐに僕の隣に現れた。彼女の見事なスタイルは、旧時代で「メイド服」と呼ばれる黒と白の従者装束に包まれており、腰まで伸びる滑らかな金髪が輝いている。腰には長剣と銃を携え、頭の両側からは長い耳が伸びている。鋭い目元には澄んだ青い瞳が輝き、その美しい顔には、朱色の薄く引き締まった唇が添えられていた。
チューチューは少女に茶を差し出した。少女は小声で礼を言いながら、慎重に一口含んだ。
「今回は君一人かい?」
「お祖父様はすでに引退なさいました。今は私がその役目を引き継いでいます。」
「そうか。もうそんな時期か……時が経つのは早いものだね。あの頃、君は祖父の後ろにくっついていた小さな子供だったが、今やすっかり一人前になって。昔のレイジャクも、ずいぶんと立派になったものだ。」
「ビージェー様、それ以上はおからかいにならないでください。」
レイジャクは頬を赤らめ、少し唇を尖らせた。
「はは、悪かった。」
僕は微笑みながら、気持ちを切り替えた。
「それでは、持ってきた品を見せてもらおうか。」
レイジャクは後ろの者たちに合図を送り、灰衣の従者たちはいくつかの包みを運んできた。白い布で包まれ、赤い飾り紐で結ばれた包みだ。チューチューはその一つを受け取り、慎重に開封した。
「ビージェー様、これはお酒でございます。」
「ふむ。」
チューチューは僕に箱を持ってきた。レイジャクはそれを両手で受け取り、少しだけ蓋を開けて中身を確認すると、一礼した。
「確かに受け取りました、ありがとうございます。こちらもどうぞお納めください。」
レイジャクが再び手を振ると、白い棺のような大きな容器が慎重に地面に置かれた。
「……棺?」
チューチューが小声で呟き、僕は棺に掛けられた小さなカードを手に取った。純白のカードには何の情報もなく、ただ流麗な字で「あなたの誠実なる友」とだけ書かれていた。
僕はため息をついた。
「……チューチュー。」
「承知しました。」
チューチューは棺の蓋を押し開けた。蓋が開くと同時に、大量の冷気が立ち上った。
チューチューは息を呑んだ。彼女の表情が変わったのを見て、僕は棺の中を覗き込んだ。
「はあ」
僕は思わず眉をひそめた。棺の中には、冷却液に浸かったヒューマノイドの残骸があったのだ。
僕はその残骸の手首を軽く押さえた。脈はなく、循環ポンプも明らかに止まっている。手首には深い穴が二つ。衣服を剥ぎ取ると、褐色の肌はやや白みがかっており、唇は脱水のために色褪せていた。胸には小さな切れ目があり、巻き髪の下に隠された首筋には、何かで締め付けられた痕がはっきりと残っていた。
僕はこの棺に横たわっている残骸を知っていた。まるで嘆くように、僕はその残骸の名前をそっと呼んだ。
「……レオナ。」
銀色の花が散らばる棺の中、そこには数日前に僕たちと夜通し語り合った、ケモノヒューマノイドの冒険者が眠っていたのだ。
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