第四話 ワタシの全部は、あなたを守る為。


ワタシは、お姉ちゃんの恐ろしさを再確認した。

今、目の前でそれを証明されている気分で、何故か体が緊張してしまう。


「出た…。ニアお姉ちゃんのパンペルシェラ…。」


神々しく光るお姉ちゃんの大鎌は、回転しながら飛来し、のたうち回るお兄ちゃんの前に轟音と共に突き刺さった。


「お兄ちゃん!早くそれであいつをっ!!」


ワタシがそう言った時には、もうお兄ちゃんは微動だに動いていなかった。


カッコン。


コッキング音が聞こえた。

次の弾が装填される…。


「ルゥダミサイル八号九号十号!!」


ワタシは三本のタバコを炙り、人差し指と中指で摘み、狙撃銃のスライドレバー目掛けて投げつけた。


ドカーーーン!!


以前に増して大きな爆風に煽られ、体がふらついた。

しかし爆風の中、狙撃銃はもろともせずにワタシに銃口を向ける。


「ひっ!」


ワタシに次のルゥダミサイルを準備するより先に、狙撃銃の引き金が引かれた、その時だった。


キイィィィン!!


金属と金属がぶつかる音が響いた。

ワタシの目の前で放たれた銃弾を、大鎌が真っ二つに切り裂いていたのだ。

一人でに、動いていた。

所持者であるお兄ちゃんの意識無しに。

ワタシにもこんなの、見たことがなかった。

お兄ちゃんの方をよく見ると、体は動いていないが、一箇所だけ不自然なところがあった。


「お姉ちゃん…!?」


カッコン。


お姉ちゃんの右目だけが、眼窩内をビー玉のようにツルツルと動いていた。

鎌の位置に合わせ、瞳はキョロキョロと動く。


「鎌を、目で追ってる…?」


ダン!!


銃弾は放たれたが、またしてもワタシの目の前で見事に真っ二つに裂ける。

大鎌の斬撃が全く見えないくらいに素早い動きを見たワタシは、まるで瞳にお姉ちゃんの意思が入り込んでいるような気分になり、ゾワっとする。

お姉ちゃんの瞳が先に動いた瞬間、鎌も同じ位置に移動をする。

お兄さんが鎌を動かしているんじゃない。

お姉ちゃんの瞳が、鎌を動かしている!!


カッコン。


「今!ルゥダミサイル全弾突撃ーーー!!」


残り十一号、十二号、十三号、十四号、十五号を一斉に銃口目掛けてぶん投げた。

それはもう、まるでダーツのブルズアイを狙うように。


「うりやあああ着火ァァァア!!」


ワタシはある程度、狙撃銃から離れた距離からそう叫ぶと、狙撃銃は内側から爆発した。

銃口は焼け爛れ、公園の蛇口のようにねじれ、形を崩していった。


「ふぅ。いっちょ上がり。」


狙撃銃は、浮遊する力を失い、地面に落下した。

そのままズルズルとまるで何かに引きづられるように私の元から離れ、近くにいつの間にか存在したアタッシュケースの中に入り、スッポリとハマった。

そして、それをひょいと持ち上げる人影が見えた。


「あいつが本体かっ!」


ワタシはタバコの箱を開くが、中には一本も入っておらず、逆さにすると葉クズがポロポロ落ちるだけだった。


「クソッ!」


クシャッとタバコの箱を潰した。

そうしている内に、もう人影の姿はどこにもなかった。


「むぅ。せっかくチャンスだったのに…。また爪が甘いって言われちゃう…。」


ワタシはライターに向かって「公衆電話!」と言い、耳元に持ってきた。


「こちらメブ親衛隊一番隊隊長、ルゥダです。」


『……、はい。こちら五番隊隊長ヘキザ。』


「ニアお姉ちゃん、いや、ニア先輩の言ってた人物、見つかりました。」


『いや、俺に対してはお姉ちゃん呼びをしていたって別に怒らないさ。彼、見つかったのかい?今どうしてる?』


「怒らないで聞いてくれる?」


『ああ。俺は大抵の事は怒らんだろう?』


「お兄ちゃん、こめかみに大きな風穴開いちゃって…、右目一つ飛び出しちゃってる状態なんだけど…。」


『な、なにいいいいいいい!!?』


あれ…?電波切れちゃった…。

ワタシは急いでお兄ちゃんの元へ駆け寄った。


「お兄ちゃん、大丈夫…?」


右目の眼窩は砕けちゃってはいるが、こめかみに風穴なんて開いちゃっていなかった。

またオーバーな事伝えちゃったかな…。


「君…名前は…?」


お兄ちゃんが小さく口を開き、声を絞り出していた。


「大丈夫!?ワタシはルゥダ!あなたは?」


「ルゥダちゃん…。僕は刹李。白嶺刹李はくれいせつり。君は僕の命の恩人だよ。」


その言葉を言われた途端、急に胸の鼓動が早く鳴り始めた。

より一層、あの日のお姉ちゃんの言葉を思い出す。


『私が彼をここに連れてくる。目印は私の目。この病院にきっと迷い込むはずだから、あなたが助けてあげて。あなたがここにいる意味は、彼を守る為なんだから。』


メブ親衛隊に入って、初めて任務を成し遂げた。

こんなに胸が高鳴ったのは、七年間生きてきて初めてだった。


「大丈夫!あなたを守る事が、ワタシがここにいる意味だよ!」


「……、何言ってんのさ…。」


「えっへん!」


ワタシはそう言いのけた!


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