ロネとマセンティアの物語

大前野 誠也

六色の聖女のひと欠片(1/3)

 土の聖女は国中の土壌を豊かにし、飢餓に苦しむ民たちを救う。

 水の聖女は国中の水を浄化し疫病を防ぎ、土の聖女の剥ぐぐんだ土壌に恵みの雨をもたらす。

 火の聖女は国中の寒さから守り、凍えるもの全てにに温もりを授ける。

 風の聖女は国中に植物の種子を風に乗せて運ぶ、緑は広がり食料に困る事はもう無いだろう。

 光の聖女は国中の瘴気を払う。魔物も、疫病ももう恐れることは無い。この国は救われるのだ。

 そして、闇の聖女は―――




 「ああ!女神様!心から感謝いたします!この化け物を闇の聖女に選んでくださった事を―――」


 女は痩せた手を組み、天に祈りを捧げる。その表情は真に救われた者の顔をしていた。


 「ああ……おまえ。これまでの苦労が報われるのだ。この化け物を処分出来るどころか、国が大金で買い取って下さるぞ!」


 女と同じようにやせ細った男が女の肩を抱き寄せて喜ぶ。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。



 聖女達は十二歳になると、それぞれ額に自らの属性に因んだ紋章が浮かび上がる。

 そして十五歳になると、その力が発現し国の為に生涯祈り続ける事になる。


 この国、ワーロウズ聖王国は聖女の力で成り立っている。聖女無くしては10年も持たずに滅びてしまうだろうとさえ言われている。それほど過酷な立地から人々が逃げ出さずこの場で生活を続けているのは、逆を言えば、聖女さえいればこの国は何処の国よりも安泰だからだ。


 気温は一年を通して温暖で、水不足の心配もなく、肉も野菜も豊富なのだ。

 そう聖女さえいれば。


 国民は常に感謝を忘れない。

 太陽を見上げ光の聖女に感謝し、汗を流せば火の聖女に感謝し、コップ一杯の水を飲むときは水の聖女に感謝し、畑の土を耕しながら土の聖女に感謝し、風に揺れる作物を見ては風の聖女に感謝するのだ。


 では


 では闇の聖女は?


 瘴気は闇から生まれるとされている。

 闇無くして瘴気は生まれないのだと。


 闇の聖女の役割、それは生贄だ。


 闇の聖女を生贄にする事で、この国を取り巻く瘴気は薄くなり、そうして薄くなった瘴気を光の聖女が払うのだ。

 

 闇の聖女は他の聖女達と違い、12歳になり額に紋章が浮かび上がったその瞬間にその運命が決まる。


 先ずは親元を離される。これは他の聖女もそうだが、他の聖女が親元を離されるのは14歳になった時だ。それから1年掛けて聖女としての御勤めを覚えるのだ。

 比べて闇の聖女は闇の紋章が額に現れた娘の親は、当日、遅くとも翌日までに国に報告し引き渡す義務が生じる。

 親の情を少しでも薄くするための処置だ。親の情、この日新たに生まれた闇の聖女の両親にとっては無用な心配だろう。むしろ、やはく保護しなければ15歳の生贄の儀式まで生きられぬ可能性すらあった。


 黒髪に黒い瞳、魔族と呼ばれる種族の特徴の一部を持って生まれたが為に闇の聖女ロネは周囲から迫害を受けた。とはいえ、一致する特徴はそれだけで、角も無ければ、耳も尖っていし、肌も青くないのだが。

 その迫害はロネを生んだ両親にまで及んだ。石を流られ、罵声を浴びせられ続けるうちに、3人の心には修復不可能なほどの深刻な傷が生まれた。

 母親は何度もロネの首を絞め、父親は何度もロネの頬を手で打った。

 そしてロネは、早く解放される事をひたすらに願った。


  (父さんも、お母さんも、嬉しそう。最後に役に立てて良かった……)


 安堵からか、疲労からか、ロネの意識は不意に彼女の制御を離れた。

 どさりと床に倒れるロネを、両親はそのままにし、国に報告する為にその場を離れた。



 ロネが目を覚ました時、彼女は牢屋の中にいた。


 聖王の座するレサンバネ宮殿から南に一キロメートルとほど近い場所にある、闇の聖女を十二歳から十五歳の間まで閉じ込めておくための牢屋だ。この位置に闇の聖女専用の牢が設置されているのには訳がある。他の聖女達の住まいが近い事、光の聖女の住まいがレサンバネ宮殿の南に五百メートルの位置に存在している事から牢の位置は此処が選ばれた。万が一闇の聖女の力が暴走するような事態になっても、光の聖女が聖王を、国を守ってくれるという考えだ。とはいえ、有史以来そのような事例は記録に残されてはいないのだが。


 この牢の見張りを務める看守は一〇日ごとに変わり、一度看守に選ばれた物は三年間は二度目の看守に選ばれる事はない。

 これも万が一にも看守が聖女に情や恋慕を抱かない為の処置だ。


 国中から憎まれている闇の聖女だが、十五歳になるまでは決して死なせてはならない。

 だから食事は一日三回、一般的な女性が食べる量を摂取させる必要がある。あるのだが、ロネは長年碌に食事を与えられていなかった所為で極端に胃が縮まってしまっていた。

 看守は面倒臭そうにかゆを無理やりロネの口にねじ込む。


 「ごぼ!!が……ごほ!ごほ!!!!」


 まるで陸で溺れるようにロネが苦しみ藻掻くので、看守は慌ててかゆを流し込む手を退ける。情けからでは無い、闇の聖女を殺めてしまう可能性を恐れての事だ。


 「いいか、良く聞け。お前にはそのかゆを食う義務がある。ゆっくりでいいから全て食べろ。それがお前の仕事だ」


 「……はい」


 「……っち」


 こうして、看守は毎日ロネの遅すぎる食事に根気よく付き合った。

 そして漸く看守の補助なしでも全てのかゆを食べれるようになった時、看守を配置換えの辞令を受けるのだ。

 ほんの僅かな情は、国を亡ぼす理由にはならない。精々ロネをこんな姿にした彼女の両親に憤りを覚える程度に留まるのだ。


 そうして、ロネが肉を食べれるようになり、軽い運動を出来るようになった時には、彼女は十五歳を迎えるのだ。


 ロネの十五歳の誕生日まで後五日と迫った日、彼女は久々に牢の外に出た。

 牢の外には六人の兵士と二人の女性。

 女性の片方はロネと近い年齢に彼女の目には映った。緊張しているのが一目でわかるほどに固くなっている。いや、これは緊張というよりも恐怖かもしれない。美しい淡い蒼色の髪の毛先がふるふると小刻みに震えている。見た目から感じ取れる齢は二十歳前後だろうか。

 もう一人はセミロングの白髪の初老の女性だ。無表情とも微笑んでいるともとれる不思議な表情を見せるその女性の金色の瞳は真っすぐとロネの漆黒の瞳を見据えている。そこにどのような意志が宿っているのかは理解出来なかったロネだが、不思議とその視線から目を外してはならないと思った。


 「私は今回貴方の護送と儀式を担当する光の聖女、名はルーシェアです。こちらは同じく光の聖女のラルラララ。この旅に同行し、私と共に貴方の最後を見届けます」


 「……闇の聖女、ロネです」


 「ひぃ!喋った!?」


 ラルラララは飛び跳ねるようにルーシェアの後ろに身を隠す。


 「何と情けない。それでも光の聖女ですか」


 「だ、だって。アイツのあの黒い髪、黒い瞳、伝え聞く魔族のそれではありませんか。きっと今までの闇の聖女とは比べ物にならない程の闇の力を有しているに違いありませんよ。言葉一つ一つに呪いの力が有るかもしれません」


 「だとすれば、既に彼女を担当をした看守たちに何らかの兆候が表れている筈ですね」


 「亡くなったんですか?!」


 ラルラララの言葉にロネの肩が震える。

 まさか自分の言葉にそんな恐ろしい力があって、今まで自分の世話をしてくれた看守を呪い殺してしまったのではと、そんな恐ろしい妄想に一瞬でもかられたからだ。


 「安心なさい。皆元気に今日もお勤めに励んでいます」


 ルーシェアは一度もロネから目を離さないままラルラララと会話をしている。

 まるでロネに安心するようにと諭しているようだった。


 「大体彼女が十五歳になるのは五日後です。今はなんの力も持たない少女ですよ」


 「それは分かっていますが……」


 「さぁ、いつまでもここで無駄話をするわけには行きません。まずこれからの日程を説明します。我々は馬車で四日掛けて聖なる谷ヨドス谷を目指します。そこでテントを張り一日、貴方が十五歳になるのを待ちます。途中、ユメルという村で宿を取りますが、それ以外はずっと馬車の中です。用を足したくなったりした場合は馭者に話掛け用件を伝えなさい」


 「はい」


 「さて、この六人の兵士は道中護衛を務めてくれる方々です。それぞれ自己紹介が必要ですか?」


 ロネはフルフルと首を横に振った。

 護衛、この魔物1匹いない、盗賊の類もここ100年は確認されていない平和な国で、何から、いや誰から誰を護衛するのか、そんな事は考えるまでも無い。

 ロネにとっては覚えるべき名と顔では無いのだと、彼女自身直ぐに察したのだ。


 「聡い娘ですね。あなたが新しい光の巫女ならば教育し甲斐もあったのですが――」


 「ちょっと?!ルーシェア様?!それって私が聡くも無ければ教育のし甲斐も無いって仰ってません?!」


 「……自覚が無かった事に驚きです」


 「ひ、酷すぎますぅ!」


 「日頃の行いの所為です。この扱いが嫌なら払拭できるように努力なさい」


 「…………ふふ」


 ロネは驚いた。自分がまだ笑えるのだと。最後に自分を笑顔にしてくれた二人に感謝しよう。そう思って、ロネが二人見ていると、ルーシェアはまた最初に見せた表情で真っすぐとロネを見ていた。


 「それでは出発しましょう私と兵士三人が先頭の馬車。ラルラララは兵士三人と後方の馬車、ロネは中央の馬車です」


 「分かりました」


 ロネが指定された馬車に向かうとその馬車の馭者と目が合った。馭者の男はロネと目が合うと、ビクリと肩を震わせて、慌てた様子で正面に向き直った。もしかするならば、先ほどのラルラララの言葉を聞いて真に受けてしまったのかも知れない。

 ロネは何だか馭者に悪い気持ちになりつつ、馬車に乗り込んだ後、椅子の上で縮こまって膝を抱えた。




 馬車は揺れる。ロネにとっては初めての旅だ。そして最後の旅だ。

 彼女は出来るだけ世界をその目に焼き付けようと、流れる景色だけを必死に視覚に捕らえ続けた。時折、前の景色が気になって正面を向く。それを数回繰り返すと御者がコチラを覗き込んでいる事があり、目が合うとまたビクリと肩を震わせて慌てて前を向く。

 怯えている馭者には少し悪いなと思いつつ。ロネには何故かそれが少し面白かった。


 やがて村が見えて来た。ロネが一泊すると伝えられたユメルという村だ。


 ロネは馬車の中で下車の許可が下りるのを暫く待っているが、一向にその許可が下りる様子がない。

 さらに暫く待っていると怒声の様な男の声が響いてきた。


 「もういい加減にしてくれ!何が聖なる谷だ!あそこは呪われた谷だ!アンタ等が長年殺し続けてきた闇の聖女達の怨念が蠢く地獄だ!その証拠に見てみろ!ここら一帯は碌に作物が育たねぇ。聖女の威光が届かない距離である筈が無いのにだ!谷から流れ出てる闇の聖女の怨念が聖女の力を上回っている証拠だ!」


 「だから貴方がたは此処にいるのでしょう?儀式の為に彼の地を目指す中継点の維持の為だけにこの村はあるのです。そしてそんなこの村の維持こそが貴方がたに課せられた罪滅ぼしの為の手段の筈です」


 「俺たちがそこまでの罪を犯したって言うのかよ!?皆内容は違うが軽い罪じゃねぇか!人を殺したわけでもねぇ!強姦や強盗をした奴だっていねぇ!窃盗とか、喧嘩で相手を怪我させちまったとか、酔って店をちょっと壊しちまったとか、そんなんばっかりだ!何処にここまでの罰を受けなきゃいけない奴がいるんだよ?!」


 「罰を与えられたくなければ罪を犯さなければ良いのです。与えられた罰が重すぎかどうかを罪を犯した者が決めれる筈がありません。もしそれが許されるなら、重罪を犯した者が、自分の罪は刑期一日だといえばそれがまかり通ってしまいます」


 「だったらお前等は何なんだ!闇の聖女を何人も殺して来たんじゃねーか!お前等こそ重罪人だ、裁きを受けるべきだ!」


 「闇の聖女を殺すことを罪だと思いますか?」


 「あ、当たり前だ!人殺しじゃないか!?」


 「では、何故助けないのですか?」


 「……は?」


 「あの中央の馬車には今まさに生贄になるべくヨドス谷を目指す闇の聖女が乗っています。人が殺されそうになっていますよ?ほら、助け出さなくて良いのですか?」


 「へ、兵士が見張っているんだろ?俺が向かった所で助けられるはずないじゃないか……」


 「この兵士たちは私ともう一人の光の聖女の護衛です。貴方が彼女を助けるのを止めたりしません。そしてあの馬車には闇の聖女が一人と戦えない馭者が一人乗っているだけ、貴方でも十分に助け出せると思いますよ。馬車の戸を開けて、乗っている闇の聖女の手を取って助け出してあげたらいかがですか?」


 「あ、いや………」


 「先ほど貴方は言いましたね、闇の聖女の怨念が谷から溢れ出して他の聖女の威光を妨げていると。ただの人間にそのような事が可能だとお考えですか?」


 「………」


 「闇の聖女を生贄とする儀式は行わなければ行けません。それがこの国に安寧をもたらすのです。そして、この村はその儀式の為には必要な大事な中継点なのです。国の安寧を脅かした貴方がたが、その安寧の手助けをしながら刑期を過ごすのです。そして清い体になって初めてワーロウズ聖王国の齎す恩恵にあやかる資格が生まれます」


 「お、俺が悪かったよ。すまない…いえ、申し訳ございませんでした」


 「分かって下されば良いのです」


 方便だと、詭弁だと誰もが分かっているかも知れない。しかし、事実なのだ。いや、皆が事実と信じているのだ。闇の聖女は生贄にしなければならない。そうしないと次々に瘴気が生まれる。光の聖女でも抑えきれない程の瘴気が。古の時代からそう言い伝えられてきたのだから。


 翌朝早くに一行はユメルの村を出立した。

 頭を下げ続ける村人達に見送られながら。


 ユメルの谷は谷底から黒い靄が立ち込めていた。

 そう、瘴気だ。谷の底どころか対岸の岩壁も目視出来ない程の濃い瘴気だ。

 到底並みの人間では近づく事すら出来ない場所に、今九人の人間が立っている。

 三人は平気な顔をして、残り六人は光の聖女達に施された結界に包まれながらも冷汗を垂らしながら。


 「では皆様、テントの設営、お願いいたしますね」


 『っは!!』


 兵士達は冷汗を流し、顔を歪めながらもテキパキと手際良くテントを設営していく。


 「それにしても、相変わらず凄まじい瘴気ですね」


 ラルラララが谷を睨みながら口もとを抑えた。別に吸い込んでも光の聖女である彼女にとっては何の害も無いのだが、気持ちの良い物ではないのだからその仕草も仕方の無い物だったのだろう。


 「いつか、光の聖女がもっと力を付けて、この谷の瘴気を全て払う事が出来るようになれば、闇の聖女を生贄にしなければならないこの儀式も無くなるかも知れませんね」


 「……無理ですよ、そんなの」


 「……せんなき事を言いました。忘れなさい」


 他の闇の聖女達には申し訳ないが、それが今で無くて良かったと、ロネは思った。

 せっかく最後に、生まれて初めて自分が人の役に立つのだ。父と母に償いが出来るだと。生まれて来た意味が生まれたのだからと。


 「テントの設営、完了しました!」


 「ご苦労様です」


 ロネにとって最後の寝床はごつごつとして、決して快適な物では無かったが、目を閉じれば不思議と直ぐに眠りに付くことが出来た。


 「起きなさいロネ」


 目を覚ましたロネには朝食が準備されていた。特別な物では無い。旅の途中でも食べた硬いパンに、具の少ないスープだ。他の八人も同じものを食べている。


 昼食も、夕食も、同じメニューだった。まるで、明日からも同じものを食べるかの様な何の変哲もないメニューだ。


 「………始まりましたね」


 『―――!?』


 ルーシェアの言葉に兵士たちが一斉に腰を上げた。

 そして、間もなくしてロネの額の紋章が、まるで周囲の瘴気を吸収しているように、漆黒を称えるように、黒く不気味な光を放ち始めた。


 「ラルラララ!!」


 「はい!!」


 二人はロネを挟んで立ち、両手をロネに向けて掲げた。


 「「女神よ!!女神ヤファスベートよ!瘴気を封じる奇跡の御業を、今、ここに!!【聖結界モラ・メアラ】!!」」


 二人が聖女の奇跡の力をロネに向かって行使すると、ロネの足元の地面から天へと向かって光の柱が昇っていく。まるでサンピラーと呼ばれる自然現象のように、キラキラと美しい光を瞬かせながら。


 「んぎぃいいいい!!ルーシェア様!やっぱりコイツ普通じゃありませんよ!?こんなに激しい反動、今まで経験した事がありません!!」


 「っ――――!!………貴方の経験など、たかだか数人程度でしょうに。ロネ、儀式の時間です。儀式台へ――」


 崖の端に設置され、僅かに崖にせり出した簡素な儀式台に向かってロネが歩き始める。

 ラルラララはその場から動かず、手のひらを向かう方だけをロネの動きに合わせて動かす。

 ルーシェアはロネの直ぐ後ろを歩く。手のひらをロネの背に向けたまま、彼女を閉じ込める光の柱を維持しつつ。


 「この谷に身を投じるだけで儀式は終了です。自ら身を投じるのが難しい場合には私が背中を押して差し上げます。その時は申し出なさ―――」


 ルーシェアの説明が終わるのを待たず、ロネはひょいと谷に向かって身を投げた。


 「な―――!!」


 ラルラララが驚きの声を上げるのも無理はない。彼女が見届けた儀式で、自ら身を投げた聖女は一人としていなかったのだ。

 なのに、ロネは自ら身を投げた。それも、何の迷いもなく、一瞬の躊躇もなく、まるで実家の敷居を跨ぐかのような気軽さだったようにラルラララには思えたのだから尚更だ。

 対してルーシェアには驚いた様子は見受けられない。

 まるでロネの行動を予測していたかのような冷静さだ。


 やがて、光の柱は闇に飲まれて、完全に見えなくなった。


 更に暫く待ってから、ルーシェアとラルラララは結界の奇跡の力を解除した。


 「……信じられない。あの娘、死ぬのが怖くなかったのかな」


 「……彼女は誰よりも聖女だったのでしょう。さぁ、戻りましょう。兵士の方々、テントの回収を頼みます」


 『はっ!!』


 兵士たちがテキパキと手際よくテントを畳んでゆく。


 行きがけと同じように、馬車が三台並んで走る。

 ただ違うのは、行きと違い、中央の馬車に乗っているのは馭者の男だけだということだ。


 ガタガタと車体が揺れる音だけが周囲に響いていた―――


 

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