終末世界を龍と征く。

翡翠 珠

#1 龍の背に住むもの

えーっと、今から100年前…だっけ。

まあそれくらい前に滅んだらしい。世界が。


と、まあ小難しい話は置いておいて、滅んだと言っても世界各地に人間はいるんだけど。

簡単に言うと旧文明、と呼ばれる滅ぶ前の文明とは別に私たちは別の文明を築いている。


そんな世界で私ことクルメは一人で歩きながら旅している。


「はあ…、そろそろ食料もなくなるし、一回塔にでも入ろうかな」


塔っていうのは旧文明の遺物の一つ、四角くて大きな謎の建物のこと。

今の文明じゃこのレベルの建築はできないらしい。

知らないけど。


中は結構暗い。建物の中だと言うのに草やら木やらが生い茂っている。

天井は所々崩れていて、3階や4階付近が筒抜けになっている。


まあ私は2階までしか上がらないし、特に問題はないかな…。


そう考えていた矢先、塔のはるか上から何かが落ちてきた。

激しい衝突音と共に。


「いってええええ!?!?!?」


落ちてきた、肩ぐらいまで伸ばした髪の毛が特徴の男の子が。


あの高さから落ちてきて叫ぶ元気あるの…?

っていうか人間!?


「あの…大丈夫ですか?」

「ん?あ、うん。全然大丈夫…って人間?」

「あ、はい。一応…というかあなたも?」

「そうそう。俺の名前は【アラオ】。アンタは?」

「私は【クルメ】こんなとこで人に会うなんて…何してたの?」


私がそう言うとアラオと名乗った少年は上着のポケットに手を入れ、何かを取り出した。

小さな手帳のようなものだった。


「これに色々メモしてるんだけど…旧文明が滅んだ原因を探してるんだ。まあこのビルはハズレっぽいけど…ここまで綺麗に残ってるのを見るのは久しぶりだ」

「え?私の記憶が正しければ、世界各地に現れた【巨獣】のせいじゃないの?

っていうかビル…?塔じゃなくて?」


そう、旧文明が滅んだ原因は突如として世界各地に現れた巨大害獣、【巨獣】の仕業だ、と言われている。

今の世界にも【巨獣】はもちろんいて、まあそれから隠れながら旅してる。


…というかそんなこと知らない人なんているの?ビルとか言ってるし…。


「まあそう言われてるよな」

「え?どういうこと?」

「いや、俺も巨獣のせいだ、って聞いてたんだけど、よくよく考えて旅してたらおかしいことに気づいてな」

「おかしいこと?」

「ああ。まあ一つ挙げるなら旧世界の異物が綺麗に残りすぎてる。巨獣が文明を滅ぼしたとするならなおさらな」

「……言われてみればそうかも。塔とか機械鳥キカイチョウとか、旧文明の時から形変わってないんだよね」

「そう!そこもおかしい!」

「んえ?」

「っていうかクルメは旅の目的とかあるのか?」

「いや…生きるために各地巡ってるだけだけど…」

「じゃあ俺の家来て話しようぜ」

「え…ま、まあいいけど…」


そう言うとアラオはガッツポーズをしてから塔を出る。

「こっちこっち」と言いながら手招きをされ、ついていった先にあったのは…小さな塔?のようなものだった。


「なにこれ」

「ああ、これは研究所を改造したやつだ。まあ中は汚いけど…入って入って」

「ケンキュウジョ…?」


塔の一種だろうか?

それとも遺物の名前?

先ほども塔のことを妙な名で読んでいたし…信用していいのだろうか。


「ん?どうした?」

「いや、なんでもないよ。お邪魔します」

「どうせなら話すか。どっちに行く予定だった?」

「あ、私は向こうかな、あの見えてる大きな塔に行こうと思ってて」

「あー。いいね行こう行こう」


そう言うとアラオは「ちょっとだけ待ってて」と言って私を椅子に座らせると、部屋の奥の方へと行ってしまった。


アラオが奥に行って数分後、突如として私を揺れが襲う。


「っ!巨獣!?」

「ん?そうだけど……」


奥から戻ってきたアラオが言う。

手には飲み物が二つ、それと……よく分からない袋を持っていた。


「な、ななんでそんな平然としてるの!

このレベルの巨獣なんて見つかったら……!!」

「ああ、大丈夫大丈夫。この音は巨獣だけど俺の知り合いだからさ」


飲み物と袋を机の上に置いたアラオが言う。


巨獣と知り合い……?どういうこと……と思っていた私に向かって窓を開けて手招きするアラオ。


「は……!?」

「見たらわかると思うけど……」


私は窓から外の景色に声が出なくなっていた。

先程までは木々が生い茂っていた森のような場所が見えていた窓は、全く違うものが見えていた。

雲海である。


「そ……空!!!?!?」

「そう、この家は天樹龍てんじゅりゅう【アマドラゴ】の背にあるんだ」


「はああああああああ!?!?!?」

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