チェリーガール・ミーツ・チェリーボーイ
りりぃこ
第1話
その日、
二次会に行こうと誘われたが、あんまり話の合う人もいなかったし、明日も大学で1限目からの授業もあるしで断ったのだ。
一人酔っ払いながらふらふらと歩いていると、後ろからポン、と肩を叩かれた。
「雪乃ちゃん」
「あー、えっと、三上くんだっけ?あれ?二次会行かないの?」
「うん、俺も断った。雪乃ちゃんともっと話をしたくて」
爽やかな笑顔でそう言うのは、さっきの合コンで隣に座っていた三上というフリーターの男だった。なかなか爽やかな顔をしていたけど、どうも雪乃としてはあまり趣味が合わずに話がもりあがらなかった印象であった。
私は別に話したくはないけどなあー、早く帰って寝たいなー、とは、さすがの雪乃も言えず、ニヘラ、と笑ってみせた。
「あははぁ。でも私明日一時限目から授業あるからさ」
「えー、雪乃ちゃん真面目なんだね。俺なんか大学生の頃、一限目なんてサボってばっかだったよー」
そう言うとこが話が合わないんだよなぁ、と雪乃は心のなかでため息をつく。
「ねえねえ雪乃ちゃん、さっきの合コンで、『イケメンと付き合うのが夢です』って自己紹介してたよね。俺なんかどう?結構悪くないと思ってるんだけど」
「悪くないと思います、顔は」
雪乃はニヘラニヘラと笑ったまま、少しだけ厭味ったらしく言ってみた。でも相手も酔っているせいか、全く通じていない。
「俺、結構地味系の子好きでさ、雪乃ちゃんタイプなんだよねー、よかったらこれから二人で二次会しようよ。俺の部屋来ない?」
「部屋は、ちょっと早くないですか」
「あはは、何もしないってー。何?期待してんの?じゃあ期待にお応えして、これくらいなら……」
これくらい?雪乃が聞き返そうとした瞬間、三上の顔が近づき、まさかのキスをされたのだ!!
予想外の出来事に、反応が遅れて避けることができなかったのが悔しい。
「何してくれてるんですか!無理にキスなんて!!最低!」
自分の唇をグリグリと拭きながら憤慨している雪乃をよそに、三上はケラケラと笑ってみせた。
「無理なんてそんな大げさな……」
「おい、テメェ何してんだ?」
突然、雪乃の後ろから、地獄の底から這い上がってきたような低い声が聞こえた。
恐る恐る振り向くと、そこには、鋭い目、銀髪に胸元の開いたワイシャツ、いかにもチャラいホスト風の男が、なぜか怒りの空気を纏いながら立っていた。
「な、何って、えっと……」
チャラホストに睨まれた三上は、完全に腰がひけている。
そんな三上の胸ぐらにチャラホストは掴みかかった。
「お前、今この女に無理やりキスしたな?この街でんな不健全な事していいと思ってんのか?」
「あ、いや、その……」
「わかってんのか?無理やりは犯罪だぞ?」
チャラホストのくせに、まともな説教をしている。ただ、急に知らない人に締め上げられている三上が少し可哀想になって、雪乃は思わず止めようとした、その時だった。
「あ、いたいた!
「ちょっと!また問題起こさないでよ!」
チャラホストの仲間だろうか、ピアスを耳に大量につけた男と、金のロン毛の男が、チャラホストに駆け寄ってきた。
一瞬チャラホストは力を抜いたようで、その隙に三上はすぐに胸ぐらを掴む手から逃れて、走って行ってしまった。
「おいっ!逃げんじゃねえ!」
「も、もう大丈夫ですから!」
雪乃は慌ててチャラホストに呼びかけた。
「その、大丈夫。大したことない。ので」
雪乃の言葉に、チャラホストはギロリと睨んできた。
「大したことないだと?」
「そ、そうです!その、ちょっとだけキスされただけで、それ以上は……」
「キスされたんならヤベェだろうが!」
何が!?と雪乃は目を白黒させた。なぜこの人はこんなに怒ってるんだろうか。
するとすぐにチャラホストに腕を強く掴まれた。
「おい、すぐに病院行くぞ」
「は?」
「アフターピル処方してもらえ。大丈夫だ、あの外れの婦人科は夜もやってるし、女医だから……」
「あ、あふたーぴる?」
混乱している雪乃が、なぜか病院に連れて行かれそうになった時だった。
「城崎!その子、僕が連れて行ってあげるから!」
ピアスの男が、雪乃とチャラホストの間に割って入ってきた。
「大丈夫、ちゃんと責任持って連れて行くよ。だから城崎は
「ああ、悪いな
そう言ってチャラホストは、千草と呼んだピアスの男に雪乃を預けると、もう一人のロン毛の男と一緒に、さっさと立ち去って行った。
「あ、あのぉ……」
雪乃は、チャラホストの姿が見えなくなったことを確認してから、恐る恐る千草に言った。
「その、なんかあの人勘違いしてたかもしれないんだけど、私キスはされたけど別にあと何もされてないんですよ。アフターピルとか別に不要なんだけど……」
「ああ、分かってるよ」
千草は苦笑いして頷いた。
「でもアイツ、キスで妊娠すると思ってるからさ」
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