第39話

 流星と一華は二人を凝視する。

 確かに、この一週間程でやけに仲が良くなったと感じていた。

 見舞いによって距離が縮まり、友情が深まったのではなく恋心が芽生えた。


「それは、おめでとう。知らなかった」

「おう、さんきゅ。顔を合わせた時に言いたかったんだよ。あー、なんか照れるな!」


 二人は幸せそうだった。


 流星は麗奈と毎日連絡を取り合っていたが、そんな素振りはなかった。単純な麗奈はボロを出しやすいが、匂わせるような連絡は一切なかった。故に、気づけなかった。


 麗奈は翔真の腕に自分の腕を絡める。


「やめろよ、なんか恥ずかしいだろ」

「いいじゃん。四人の仲でしょ」


 採れたてのトマトのように真っ赤な翔真は腕に絡みつく麗奈を引き剥がそうとする。

 そのやりとりからも恋人の雰囲気が漂い、一華は立ち尽くす。


 付き合ったの。二人が。麗奈と翔真が。どうして。

 呼吸が小刻みになり、ぷるぷると体が揺れ始める。

 その様子に気付いた流星は、二人に詰め寄る形で前に出て、背中に一華を隠す。


「もういいから離れろよ」

「モテる流星を差し置いて悪いな」

「腹立つな」

「冬休みが明けたら俺たちの高校生活は青春色になっちまうぜ」

「テストがあるだろ。勉強しろよ」

「おっ、それはもしや僻み?」

「ぶん殴るぞ」


 どういうことだろう。

 翔真の足を治すために魔女探しに出かけ、失声までしたというのに翔真は麗奈と付き合っている。あれ、何で魔女探しに行ったんだろう。好きだからだよ。そう、好きだから。翔真が好きだから、それと、自分のせいで怪我をしたから。自分が付き合いたくて魔女探しに行ったわけじゃない。ならば麗奈とくっ付けるために奔走したのか。

 ぐるぐると感情が腹の中で動き回り、嫌な感情だけが胸まで上がってくる。よくない、不要な感情だ。上がってくるな。


 暫くすると、バスが停留した。

 四人で乗り込み、翔真と麗奈が並んで座り、その後ろに一華と流星が静かに腰を下ろした。

 バスが発車すると、翔真と麗奈は触れ合いながら会話をしている。

 後ろからでは肩から上しか見えないが、恋人同士が放つ幸せオーラを察知してしまう。


 流星は一華にどう接したらいいか必死に考えていた。

 恋愛に関係のない話題を振ってもそれどころではない。気になって仕方ないはずだ。大丈夫か、なんて大丈夫ではないだろうに偽善で話しかけたくない。

 眉間にしわを寄せる流星の腕を指で叩き、一華はスマートフォンを渡す。

 受け取った流星は文章を読む。


 翔真のことを好きだって絶対にバレたくない。何かあれば誤魔化してほしい。二人の邪魔をしたくない。


 一華が入力した文章の下に「了解」とだけ打ち込んで、スマートフォンを返した。


「なぁなぁ、俺らの馴れ初め聞きたい?」


 翔真と麗奈がうずうずしながら振り向く。


「いや、別に」

「それがさ、麗奈が見舞いに来てくれたんだけどさー」

「聞けよ。幼馴染と友達の馴れ初めなんて聞きたくないんだけど」


 嫌そうに顔を顰める。

一華がいるのだから、そんな話をするな。


「わたしたちには伝える義務があるの!」

「そうだそうだ!」


 バカップルとはこういう人種に使う単語のようだ。

 一華の好意を知らない二人からすれば、一番の友達に報告したいと思うのだろうが、せめて今は止めてほしい。


「俺が入院してからの話なんだけど」

「おい、だから聞きたくないって言ってるだろ」

「流星うるさい。一華だってわたしたちの馴れ初め聞きたいよね?」


 麗奈が一華に同意を求める。

 この馬鹿女、と流星は心の中で罵る。


 同意を求められた一華は首を振ることができず、ゆっくり頷いた。


「ほら!一華は聞きたいって。三対一で流星の負けよ」


 そんなもの聞きたいとはこれっぽっちも思っていないと、一華は唇をきゅっと結ぶ。

 聞きたくないと跳ねのけてしまえば、翔真は沈むだろう。麗奈は「なんで馴れ初め聞くのが嫌なの?もしかして翔真のことが好きなの?」と勘づくかもしれない。

 二択しかない選択肢はどちらを選んでも穴に落とされる。


「では始めます、俺たち物語を」


 入院時のことを思い返しながら、かいつまんで簡潔な物語を披露した。

 流星は苦い顔をし、一華は無表情で傍聴した。

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